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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
53/60

分かっちゃいたんだ

残酷な描写有です。

少し長くなりますが、キリの良い所まで書ききります。

「座れ。抵抗はするな…解ってるな?」


「へいへい。きゃー!!犯される!!!」


「喋るな!!お前、自分の立場を理解していないのか?」


今は下っ端に監禁されてる所だ。


手錠、足枷、俺を動けなくさせる為の道具が取り付けられていく。


「拷問かよ、趣味悪ぃな」


「うるせぇ!黙ってろや!」


血気盛んな奴らだな全く。


女は特に縛られている訳では無いみたいだな。


俺だけを拷問するつもりか。見せつけか?


「頭!終わりました!!」


そう言うと奥からさっきの男が出てくる。


その手にナイフや鞭と言った道具を持ってな…。


「ひぐ...おかぁさん…」


「泣かないの。ここで泣いても意味ないわ」


女も最悪の事を考えていたのだろう。制止されても止めどなく涙が溢れる様だ。


「絶対的強者だと思っている奴の人質を取って屈服させる…それが俺の趣味だ」


趣味悪!!最悪の趣味じゃねぇか!!


「屈服…ねぇ。お前にそれが出来るならな」


「何...?お前はこの状況を理解していないのか?」


理解だ?これのどこが俺を屈服させるのか、聞いてみたいな。


「勘違いしてんなよ三下。お前如きの拷問で俺が屈服すると思うなつってんだ」


「ほう…ここまで来てそんな事を言ったのはお前が初めてだ。どいつもこいつも子供だけはだとか、下らん事ばっか…少しは愉しめそうだ」


男が歩み寄ってくる。その手にナイフを持ちながら。


「ひっ…」


誰の声だろう。女であることは間違いないだろう。


「どうだ?お前の血の色は?」


俺の胸にナイフをスライドさせる。


「生憎巨乳なもんでな、血が見えねぇ」


俺の胸から鮮血が止めどなく溢れ出てくる。


が、傷は浅い。直ぐに血は止まるだろう。


「……その根性、いつまで持つか、勝負といこうか」


こんなフェアじゃない勝負があってたまるか!


「おいおい、俺の乳首はお高くつくぜ?」


ぶちっ...。少しは躊躇えよ。あぁ、俺の可愛い乳首たち…来世はもっと可愛がってやるよ。


「おいおい、乳首が泣いてるぜ?まだ女に触られてないってよ」


「うぅ...ひっぐ…」


今や俺の強がりと女の嗚咽が木霊するだけだ。


この男に倫理も何もない。


「どうだ女、お前のせいでこいつがどんどんボロボロになっていくぞ」


「………ごめんなさい...私がこんなことを言ったばっかりに…」


女が申しわけ無さそうな顔をする。別にお前のせいじゃない。自分の浅慮が原因だ。


「知ってるか?眼球の痛みって奴を」


そう言って俺の顔を持ち上げる。眼球にナイフでもぶっ指すつもりか?


「生憎、俺の眼球ちゃんは箱入り娘なんでな」


最後に見た光景はナイフが俺の眼球を薙いだ映像だった。


視力を奪われたな。どうする?幸いにも深くは無い。しばらくすれば視力は回復するだろうが...。


「おいおい、こんな箱入り娘を切るなんざ鬼畜か?」


「……大したものだな。本来耐えれる痛みを遥かに超えている筈だ」


「おいおい、じゃあ目の前にいる奴はなんだよ?人間じゃないってか?」


挑発は欠かさない。相手に優位性を持たせることはいかなる状況においても避けるべき事だ。


「ごめんなさい...ごめんなさい」


ノイズがうるさいな。泣き喚いてもどうにもならないと言うのに。


目が見えないとなると余計感覚が敏感になる。なるほどな…効果的な拷問って訳だ。


「お前が媚び諂い(こびへつらい)、泣いて許しを求めるなら女共々解放してやる」


嘘だな。目は見えないが声音で分かる。俺がくたばって瞬間あの世行きだ。


「冗談だろ?お前如きに屈服する奴なんざ世界に居ねぇぜ?」


「その根性、天晴だな」


ずぶり…。ナイフが俺の手に突き刺さる。貫通したか?手の甲の感覚が鈍くなった。神経がやられたな。


美羽…心配してんだろな。予定では既に終わっている筈だ。心配してこんな所に来なければ良いが。


「次は足だ」


考えている間も拷問は容赦なく続けられる。出血量が不味いな。本格的に死の気配が近づいてくる。


今や俺の足は生ハムみたいになってるだろう。表面から徐々に削がれている。


「うぇっ…ママぁ助けて」


女のえづきが聞こえる。出血量も相当だ、仕方ないだろう。女たちは精神的に拷問を受けてるわけだ。


「休憩だ。ここまで粘った奴はお前が初めてだ」


「それだけ弱い者いじめして来たって事だな。恥を知れ」


「…………見上げた根性だ。どういう生き方をしてきたらそこまで強靭な精神を持つことが出来る」


知らねぇな。俺の人生は俺だって知らねぇ。


「お前の精神が弱いだけだろ?俺の精神が強靭な訳じゃない」


男は苛立ち始めたのか、心拍数が少し上昇している。


「帰ったら覚えていろ。これ以上に痛めつけてやる」



「そこはらめぇっ!!」


「……………」


俺の耳が切り取られる。ま、耳が切られたくらいじゃ聴力は失わない。鼓膜さえ生きていればな。


「おいおい、俺のイケてる顔が台無しになっちまうだろ?」


軽口は止めない。


「朝にでもなったか?」


視界が急に明るくなる。視力はまだ回復していないが…光の有無は分かる。


「あっつ!!それ火かよ!」


俺の体に火が押し付けられる。火は生物の根源に宿る恐怖の象徴だ。人間も例外なくな。


「なんなんだお前は?異常だ…異常すぎる」


「あ?拷問してる奴に異常だとか言われる筋合いねぇよ」


そろそろ相手にも焦りの色が見え始めたか。このまま相手の余裕を打ち砕いて行こう。


「お頭…外に変な女が...」


何?女だと?


「そんなことを一々報告してくるな。好きにしろ」


「おい待て。その女の特徴は?」


「誰がお前に言うか!身の程を弁えろってんだ!!」


「言え…殺すぞ」


今持ちうる殺気すべてを解放する。


「ひっ…ぎ、銀髪のお、女だ!」


確定だな。美羽だ。なんでこんな所に来てんだあのバカ。


参ったな…あいつだけは…。


「知り合いか?」


不味い、知られたら何されるか分からん。


「人違いだな。俺と関係ない奴だ」


「嘘だな。……..お前の弱点はそいつか………おい、その女無傷で連れてこい」


「おいおい、無関係の奴を巻き込むってのか?」


「白を切るな。お前の鼓動が早くなったのは把握している」


しくじったな……。不味いぞ、あいつだけは何としても護らねば…。


「お頭…連れてきました」


気配が増える。


「れ、連理!?どうしたの!?その傷…っ!!」


美羽…だな。


「どうしたって、なんでこんな所くるんだよ!屋敷に居ろって言っただろ!?」


「ふっ…お前の焦った表情…初めてみるな」


男が下衆な笑いをする。表情は見えないが…それはそれは良い笑顔なんだろう。


「やめて!連理に酷い事をするのはもうやめて!!!」


やめろ美羽。俺はどうなってもいい。お前だけでも…。


「おい、女。お前処女か?」


下衆が…。


「そ、そんなの今は関係ないでしょ!?連理を解放しなさい!!」


「処女みたいだな。おい、こいつの服を剥がせ」


「や、やめて!触らないでっ!!」


あぁ...またか。また俺は失うのか?護りたいものを…護りきれず。


また…?俺は何か大事なものを失ったのか?なんだ、今のは。


「触るな…。それ以上美羽に触れてみろ、お前ら全員皆殺しだ」


どす黒い感情が流れ込んでくる。もう、抑えきれそうにない。この感情は一体。怒りか、憎しみか、殺意か。これほどまでの激情が俺にあるなんてな。それも美羽のおかげか?


いつの間にかお前は俺の大切な、大事なモノになっていたんだな。


「構わん。やれ」


今や脳に掛かっていた制限が全て解除された。それは無意識的に制限していたのか、今まで解除できなかったのか。


今は関係ないな。こいつ等全員を葬るだけだ。


「た、助けてっ!連理っ!!!!!!!」


ブチ。ブチ。


異音が鳴り響く。肉の避ける音?潰れる音?それが何の音か、誰も把握していない。ただ唯一分かる事、それは俺からその音が鳴っているという事だけ。

今はその音だけが部屋に木霊する。全員が異音の発生源である俺に注目している。


視力も戻った。いや、戻したが正しい。痛みは無い。むしろアドレナリンで心地いいくらいだ。


視界が鮮明に映る。音もクリアだ。世界が止まって見える。時計の音か?針が心なしか動いていない様に見える。クロノスタシスって奴だ。


「な、何だお前!?なんなんだお前は!?」


今や枷は枷としての機能を果たしていない。別に俺に鉄を引きちぎる程の怪力は無い。


ただ...骨と肉を抉る力はあった見てぇだな。


「コイツ...自分の手の肉を削いでっ!?」


そう、俺の手は血だらけだ。手錠を無理やり抜いた訳だからな。肉も骨も削げてるだろう。


痛くは無い。アドレナリンで無敵状態だ。出血も多いが、暫くは問題ない。むしろいつもより体が軽い。


「だ、だが足枷は無理だったな…お前ら、こいつを押さえつけろ!!」


が、俺は既に足も自由だ。手と同じく血だらけで骨も露出しているがな。


「お、お前!?普通じゃない!急げ!早く押さえつけるんだ!!!」


男は俺の異変に気が付いたのか焦り始める。先ほどまでの余裕は消えてしまったらしい。


「大人しくしろやっ!!!」


男が数人で飛び掛かってくる。


「ぐぇっ…た、助けて…」


一人の首根っこを掴む。


ゴキ…。乾いた音が鳴り響く。この刹那で男の命が一つ失われた。


「う、うわぁぁ!!」


男の悲鳴が木霊する。


「ごぇっ…や、やべてぐれ...!」


グチャ。喉に手が入り込む。既に頸動脈が切れたのか、出血の量からしてこいつは助からない事が分かる。


ぶしゅっ  ぶしゅっ


喉を指が貫通する。既に男は息絶えた。首と胴は既に違う道を歩んでいる様だ。


「ひぃぃっ!!!!た、助けてくれ!!!」


小鳥の囀りだろうか。ノイズにもならない声が部屋を駆け巡る。


「や、やめてく...げぇっ!」


男の首が明後日の方向を指し示す。明日への希望を鳴り響かせながら。


「おぇ...」


女の吐く音が聞こえる。


「お、お前は何なんだ!?お前は一体なんだと言うのだ!?」


「俺は俺………………おまえはおまえ............」


「や、やめろ!人殺し!!」


人を殺す。それは只の事象だ。そこに悪も正義も無い。ただの価値観に過ぎない。


作られた価値観…すなわち倫理。それは不変では無い。倫理は何も護らない。


「や、やべでぐれ…謝る…もうががわらない!」


男の頭を持ち上げる。何を言ってるのか良く分からない。


バキッ…。徐々に頭蓋が悲鳴を上げ始める。


「や、やべろっ!?やべでぐれ!!!」


バギャッ!!部屋に深紅のバラが咲き乱れた。


「おぇぇっ...」


吐瀉物の匂いと据えた血の匂いが部屋を支配する。


それは地獄か、楽園か。地獄と呼ぶには美しく、楽園と呼ぶにはどす黒い。そんな空間と化していた。


「ごめんね...ごめんね連理…っ」


美羽が血と脳漿で染まった俺に抱き着く。


「なぁ...やっぱ俺はお前の隣にいる資格なんて無かった」


思い出してはいない。だが...こんなことを平然とやってのける俺は普通ではない。美羽の隣に居て言い人間では無いのだ。


「ううん、それは違う。私は確信したよ。連理が、連理が悪い人間じゃ無かった事」


違う!俺は…俺はこんな世界に生きて良い人間じゃ無い!初めから分かってはいたんだ。


”上”に俺の居場所は無い。ずっと感じていた虚無感の正体はそれだ。薄々感づいていたんだよ。自分でも。


「違わねぇさ。ごめんな美羽。俺はお前を護る人間として適しちゃ居なかった」


「違う!私は…私を護れるのは連理だけっ!貴方だけなの!!」


「俺が傍にいるとお前が危険になる。俺は…俺はそれが耐えられない」


そう。傍に居たい。不思議だな。出会ってまだ数か月の女にこんな入れ込むなんてな。

だが...俺の存在は美羽を危険な目に合わせるんだ。”上”に来てからずっと感じていたんだ。

俺が、俺さえいなければ美羽は幸せな人生を歩むって。


「嘘つきっ!!離れないって!離れないって言ったクセに!!」


「すまん。俺は、お前を失いたくない」


「じゃあ、じゃあずっとそばに居て私を”護ってよ”!!!私の為だけに!私だけを見てっ!!!」


それは、それは俺のエゴだ。本質的じゃない。


「お前だけを護りたかった。………無理なんだよ。おれじゃあ」


「無理じゃないっ!連理にしか出来ないの!連理が居なくなるんだったら私死ぬから…」


馬鹿やろう…。それは違うだろ!?そんな脅し…俺には効いてしまうんだ。これ以上なく…。


「ふざけんな!俺だってお前の隣に居てぇよ…解ってくれよ!?俺は…俺はこの世界の癌なんだよ…」


バチン!乾いた音が鳴り響く。アドレナリンも切れてきたころで、少し頬がひりひりする。


「何勝手に子供みたいなこと言ってるの!?私が傍に居て欲しいって言ってるんだから言う事聞いてよ!!!」


余りに自分勝手で不遜な物言い。


「っ!?.............…」


「連理の考え何てわかんない!でも、私は連理じゃなきゃ嫌なの!!!」


「俺以外でも務まる………」


「まだ言ってるの!?このわからずや!!朴念仁!!」


あぁ…そういえばこういう奴だったな。その心の強さに俺は惹かれたのかも知れない。


全く…仕方ねぇ奴。


「…俺の隣に居るって事はこういう事だぞ?」


美羽に迫る。


急な事で美羽はキョトンとしているが、今の俺は無敵状態だ。


「んむっ...!?……ぷはっ」


強引に美羽の口に口づけをする。何が起きたのか美羽は全く分からないような顔をしている。


突然すぎたか?まあ突然ではあるか。


「俺はお前に惹かれたみたいだ。つまりだな…そういう事だ」


「ばか......。でも、嬉しい。私も、私も連理が好き」


まあそれは知ってはいた。あんな露骨な嫉妬や好意を当てられたらいやでも気づく。


だが...俺が惹かれるなんて思っても見なかった。


「ファーストキスは鉄の味…連理らしい」


「はっ!俺の隣に居るって事はこれからもこんなんばっかだぜ?それでも本当に良いのか?」


「愚問ね!これからもずっとこき使ってあげる!」


はっ...それでこそ俺のお嬢様だ。


「あのぉ...私たちも居るのですが…」


「あぁ...帰って良いぞ」


そういえば二人きりの空間になっていたが、女が二人居るんだった。


「ま、また明日店に来て頂戴…」


そう言って逃げるように部屋から出て行った。


「どうすんだこれ?ま、こいつらが死んだところで問題にはならんか」


どうせはみ出し者だ。家族も何も居ないだろう。


「帰ろっか…。私疲れちゃった」


上半身が下着意外ひん剥かれた美羽が俺に項垂れてくる。


「人使いの荒いお嬢さまだな全く…」


だけど、それが心地よくて、自身の中に柔らかく入り込んでくる。


今は記憶だとか、どうでも良い。美羽と楽しく過ごせるなら、それで良いと…そう思ってしまった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ヒロインよりも惚れてたのはお前かい!っていう。

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