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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
三章
48/60

悪夢

長い夢を見ていたようだ。


あの女は元気にしているのだろうか。あれ以降会う事は無かったが、それは安全な”上”の世界で暮らしているという事だろう。無茶をする必要も無い。


「連理さん朝食の用意が出来ました」


メイドの声がする。今日は思っていたより長く眠っていたみたいだ。


”下”で目覚めた時の夢。あれから一向に俺の記憶は戻る気配が無い。むしろ記憶なんて元から無かったんじゃ無いかと勘違いする位に…。


「すぐ行くぜ…」


足が、体がいつもより重たい。こんな事は初めてだ。


「はぁっ…はぁ…」


視界も揺らいでいる。これはもしや…風邪か?


初めてだな…。だが、この程度で止まる訳にはいかない。



「連理、どうしたの?いつもなら猛ダッシュで朝食に来るのに…」


俺から何か違和感を感じるのか、美羽が聞いてくる。


「あぁ...いや、寝すぎたみてぇだ」


食欲も湧かない。だが、食べれるときに食べなければ…。


「ちょ、ちょっと連理!?ねぇっ!連理ったら!」


駄目だ…意識を保てそうにない。美羽の心配そうな声が俺の脳を揺らす。


今起きたばっかだってのに…。


「ユキ!病院に急いで連絡を!それと今日は学園を休むのでその連絡を」


「は、はい!」





「お兄ちゃん!今日は泊って行ってよ!」


これは夢だ。そう...夢なんだ。


「あぁ...そうするか…」


しかし…子供の顔が崩れていく。


「オ...二いチャン…タすけ…テ…」


やめろ…。やめてくれ…。


「……り!連理!」


あぁ...心地よい声だ。不思議と安らぐ…そんな声がする。



「……どこだ?」


知らん天井がある。と言うより嫌な夢を見た気がする。今までこんな事は無かったんだがな…。


「連理っ!大丈夫なの!?」


心配そうな眼で美羽が覗き込む。その完璧な紺碧の双眼に少しの間見とれてしまう。


「ここは何処だ?…俺の飯は何処に行った…」


「もうっ!心配ばっか掛けさせて…ご飯食べてる時に倒れちゃったんじゃない!」


あぁ、そういえば…そうだったな。


「俺はもう大丈夫だ。早く学園に…ぐっ…」


全く大丈夫では無いらしい。


「もう、無理はしないで。今日は安静に…熱が四十度もあったんだから」


「失礼するよ…おっと、目を覚ましていたんだね」


部屋に初老のおっさんが入ってくる。その身なりからして医者であろうことが分かる。


「それで...連理は大丈夫なんですか...?」


「…単刀直入に言おうか、分からないんだ。原因も何もかも」


おいおい、不穏だな。


「そんな…今までずっと、ずっと元気だったんですっ!」


病気なんて罹った記憶は無い。初めての感覚だな。


「ウイルス性でもない、それに内臓系統がやられている訳でもない…すまないが…お手上げ状態だ」


多分だが…ある程度の検査はしたのだろう。俺の手には採血をした後がある。


只の風邪だと思ったが…意外とそうでもないらしい。


「どうなっちゃうの...連理…」


今にも泣きだしそうな顔をする。何故、俺の為にそんな顔が出来るのか。逆の立場になった時に俺は同じ顔が出来るのか?


いや…そんな仮定に意味は無いか。


「解熱剤も全く効いていないからね…彼には何か特別な抗体が有るのかも知れない」


おいおい、俺は薬中でもなんでも無いぜ。


「おいおっさん、何勝手に話を進めてやがる。俺はもう大丈夫だつってんだろ」


点滴、その他の俺に繋がれている管を全て引き抜く。


「れ、連理!?今は安静に…」


「はっ...食って動いてたら治るだろ」


「き、君…最後に…もう一度だけ検査をさせてくれ」


「やなこった。俺はモルモットでも何でもねぇ」


「連理…お願い。私をこれ以上心配させないで…」


涙目の美羽が懇願してくる。それ以上に俺が心配で仕方が無いのだろう。


そう思われている事が照れくさくて、歯がゆくて。


「………おいおっさん。早く済ませろ」




検査で分かった事と言えば…筋繊維の密度が普通より高かった位だ。それ以外は特に異常は無かった。


「彼は一体…それにあの烏丸があれ程大事そうに抱えているのも気になる」


そう、彼はあの烏丸のご令嬢が自ら連れて来た。普通ならばあり得ないが…烏丸のご令嬢も少し変人だと聞く。その影響下も知れない。


「お父さん…またこんな時間まで…ってその人!!」


娘の響が入ってくる。


「知っているのか?烏丸の屋敷で従者をしているらしい」


「知ってるも何も…まさかまた会えるなんて…」


知り合いなのだろうか。響はこの年になっても男の一人も連れてこない。それに…数年前に”下”であんな事もあった。それは世間に瞬く間に広まった…年頃の少女には辛い出来事だっただろう。


親として反対するべきだった。


「なんだ、学園時代の知り合いか?婿に連れて来たらどうだ」


「そんなんじゃない!この人は…私の恩人…”下”で私を助けてくれた人…」


そういえば…娘が”下”から帰って来た時にそんな事を言っていた気もする。あの状況だ、妄言だとばかり思っていたが…。本当の事だったのか?


「彼が、その”下”で助けてくれた青年だと?でも何故”上”に?」


「そんなの知らない!でも間違いないわ…あの日の事なんて一度も忘れたこと無いんだから…!」


「だが、彼は烏丸の従者だぞ?」


「えっ!?烏丸の!?ど、どういう事かしら…」


「でも絶対に私が彼をものにして見せる…!!」


今、乙女の熱い恋心が動き始めたのだった

この章から投稿頻度が落ちると思います。申しわけないです

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