日記
それからしばらく経った。
後にも先にも”上”の女を見たのはあいつで最後だった。
アイツは”上”で元気にしているだろうか?あれだけ啖呵を切ったのだ。元気に過ごしているだろう。
この世界では騙し、奪う。それが普通なんだ。
あの女達もあの男に騙されてあんな所までのこのこと着いて行ったらしい。
だからこそ見極める力が必要だ。”上”の人間はそれが足りない。性善説を過信し、騙されたと気付いた時には手遅れ。
「久しぶりだな、こっち側に戻ってくるのは」
それは瓦礫により閉ざされた世界。未だその地で人間と出会ったことは無い。あの瓦礫の山が自然と結界のような役割を果たしている。
「さて...今日はお宝でも探すとするか」
こっちに来た理由は一つ。旧世界の遺物を発掘するためだ。旧世界の遺物の中には当時…なぜこうなってしまったのかを記す本があるかも知れない。
生憎こっち側は誰も入ってこないので殆どの遺物が手付かずだ。
「お前も…いつになったら抜けてくれるんだ?」
瓦礫の山と融合してしまっている鍵?のようなもの。何故か俺の目を引き付けて止まないそれは未だに抜けてくれる気配が無い。単純に腕力が足りないのか…それとも封印されているのか。封印な訳もないか…そんなファンタジーじみた世界じゃねぇしな。
「源泉も汚染されてねぇな」
俺が半年以上お世話になった源泉だ。これが無ければ既に事切れていた可能性だったある。こいつには感謝してもしきれねぇな。
半年以上前から全く変わっていない事が俺に安心感を与える。
「さて...宝探しといくか」
先ずは瓦礫の下に空間があるのかを調べる。空間があればそこに何かあるかも知れない。空間が無いのなら全てが塵になっているだろう。
「ここら辺は調べ尽くしたな」
ここら辺は過去にも調べていた為収穫が無かった。
偶にはあっちに行ってみるか。
。
暫く探索しただろうか…。
「なんだ?……」
何故か導かれているかのように俺の目が、足が、その場所に向かって歩き始める。
何かあると言うのか?俺の本能がそう言っているのか?
その場所は一見ただの瓦礫の山に過ぎない。
だが…。
「空間があるな…何だってんだ」
何かに導かれているようで少し癪だが...探索するしかない。
「うん?…日記か…?」
下の空間に入るとそうそう日記らしきものが目に入る。この状態で遺っているのは奇跡と言っても過言では無いだろう。
「おっと…雑に持つと崩れるなこりゃ」
遺っているのが奇跡と言っても雑に扱えばすぐに崩れる。
慎重に一ページ目を捲る。
「…”ヴァニタスの鳥籠”…だと?」
書き始めの言葉。それは”ヴァニタスの鳥籠”…初めて聞く単語だが…一体何だと言うのだろう。
何故か惹かれるその言葉、異常なほどに魅せられている…そんな気がしてならない。
それがこの日記のタイトルなのか、それとも他の、何か別の物を指しているのか俺には分からない。
慎重に次のページをめくる。今の俺には既にこの言葉が気になって他の事などどうでも良くなっていた。
「”世界は過ちを犯した…そして私たちも”…どういう事だ?」
もしかしたら何故世界が崩壊したのか…それが書いてあるかも知れない。
「”あの日を境に世界は破滅の道を辿る”…あの日とはなんだ」
「”ある科学者により提唱された理論、時間の円環的性質、それに伴う事象の全て”」
サッパリわからんが…その時間の円環的性質に伴う何かが、世界を破滅へと齎したという訳か?
「”そして世界は混乱に陥り第五次世界大戦…つまり最終戦争、アルマゲドンが起こってしまった”…その戦争により世界はこんな事になったって訳か」
全く分からんぞ…その時間の円環的性質とアルマゲドンに一体どんな繋がりがあるんだ?
「”世界は一度滅びた、しかし神は救いの手を伸ばした”……」
どうやってその状況を救ったのだろう。疑問が絶えない。
「”ヴァニタスの鳥籠…神の如きその装置を人はそう呼んだ。だが、それは神などでは無かった”」
また出て来たな、ヴァニタスの鳥籠…読んでいる限りそれは何かの装置みたいだな。
一体その装置はどんな装置なんだ?神の如き装置…簡単には思い浮かばないな。
「”そして何れこの日記を読むものが現れるだろう。だがそれは必然であり、偶然ではない”…どういう意味だ?一体こいつは何を言いたいんだ…」
理解に苦しむ。自身の記憶も無い俺にとってそれはあまりに絶望的な言葉であった。
「”この永劫の苦しみから解放されるには、”鍵”を見つけろ。”鍵”は一つではない”」
そこで日記は終わっていた。何も分からなかった。鍵の事も、その神の如き装置についても。
「なんだったんだ…全く理解が出来なかったぜ」
狂人が書いたとしか思えねぇな。世界の終わりを目の前にして気でも狂ったか。
「ただ...忘れるには衝撃が強すぎたな」
多分これを忘れることは無いだろう。なぜだか、そんな気がした。
タイトル回収...果たしてどうなるか...




