追憶
れ...ん…愛している。何時までも、ずっと。
声がする。その心地よい声音は俺の心を安らげる。誰の声だろう。聞いたことが有る。でも一体誰の?俺は誰だ?名前も聞き取れなかった。呼んでいた名前が俺かどうかも知らないが。
「………ここは何処だ。俺は誰だ」
記憶が無い。一切の記憶が俺には無い。こんな荒廃した世界に見覚えも無い。
目を覚ますと辺り一面に瓦礫、瓦礫、瓦礫。
「どうやら…とんでもない所で目覚めちまったみてぇだな」
夢か?だが、一体どうしてこんな夢を。
「………痛いな」
夢でも無いらしい。はぁ...なんだってんだ。
ぐぅぅ...。腹が鳴る。多分だが、暫く飯を食ってなかったのだろう。胃が空っぽなのが感じ取れる。
「しかし...飯なんてこんな所にあるのか?」
一体瓦礫の山、食料何てある気配が無い。
「歩くか…このままだと餓死する」
取り敢えず目標は食料および水分。それさえあれば人間は生きていける。
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しばらく歩くと汚水が流れる川…?に辿り着いた。
水の色は濁っており、その濁りは泥などで無い事が人目に分かる。源泉が汚染されているのだろう。
「飲むしかねぇな」
意を決し、汚水に口を付ける。
「……ごえ…」
その強烈な臭気と味から拒絶反応が出る。これを飲み続けるとなると直ぐに俺の命が尽きるんじゃないだろうか。
「別の水を探した方が良いな…」
これは人間が許容できる水の範囲を超えている。
「取り敢えず水源が有るのは確認できた。無い訳じゃ無さそうだ」
源泉が有るのならば汚染されていない水も何処かにあるだろう。希望的観測かも知れないが、そう考えた方が良い。
「ここは一体どこだ…俺はなんだ?一体俺に何があったんだ」
こんな荒廃した世界で俺一人。なんだ世界最後の日を俺だけが生き残ったてか?冗談はよしてくれ。
「ん?これは…本か」
瓦礫の下にスペースがあるのを確認する。そのスペースが一体何なのか分からないが、朽ちた本があった。
「これは…読めないな」
が、殆どの書物は朽ち果て持ち上げた瞬間にボロボロと儚く散っていく。
「これは読めそうだが…水と食料を見つけてからだな」
食料などが見つかればまたここに戻ってきたらいい。
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「これは…ギリギリ飲めそうだ」
さっき飲んだ水に比べ随分とマシな水源があった。河川と言うには水量も少なく、天候次第では干からびるだろう水源だ。
「…うまい…随分長い間水を飲んで無かったみたいだ」
さっきの水は拒絶反応で全て吐き出していたのでこの地に目覚めてからは初めて水分を取った事に成る。
水は自身の体を通っていくのが分かるほど体に染み渡っていく。
「食料は…お?」
次は食料と思っていた矢先目に写る物があった。
「カエルだな。俺の知っている見た目と随分違うみたいだが」
しかし、食料とするには十分な代物だろう。今ならば何を食べても美味に感じると錯覚するほど腹が減っている。
「俺が生きるためだ、お前もここまで必死に生きて来たんだろう。憎んで貰っても構わない」
それが弱肉強食であり、自然の摂理だ。生きるために殺すし食べる。古来からそうだ。
「………っし!」
近くに落ちていた石で捕まえたカエルを絞める。その眼に映るカエルの瞳は快晴の空を写しており、不覚にも綺麗だと思ってしまった。
「………お前の事は無駄にはしない。何が何でも喰ってやる」
お前が生きて来た分、これから生きる予定だった分、お前が食ってきた奴らの分、俺が全て喰らいつくす。
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本の眠る地に戻って来た。
「カエル、思ってた倍は美味しかったぞ…」
あの後カエルを焼いて食べたのだが…想像以上に味は良かった。これから食料に出来るならしたいものだ。
「これは…哲学か?いやわからんな…」
記憶を無くす前の俺は学が無かったのか、読めない文字もあれば哲学について何も知らなかったらしい。
が、暇つぶしは出来る。こんな瓦礫だらけの世界に暇つぶし何て無い。貴重な物だ。
「何言ってんのかサッパリわからん」
気長に理解を深めていこう。
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どれくらい時間が経ったのだろう。半年か、はたまた一年か。
ここの暮らしにも慣れてきた。水は相変わらずあの水源から摂取している。こんだけ時間が経っても体に異常が無いのは汚染されていない証拠だろう。
「今日は少し奥に行くか」
今日は少し奥に行ってみよう。何か新しい発見があるかも知れない。
そのために食料と水分を少し持っていきたいが…生憎水分を入れる者が無い。
日帰りにするか、新しい地で新しく水源を探すか、そのどちらかだ。
「何とかなるか。今までもそうだったしな」
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ここから先は完全に未知だ。もしかしたら人間が居る可能性もある。
「少しワクワクしてきたぜ」
武者震いか、ただ、高揚しているのが自分でわかる。
俺がさっきまで居た所は人が居なかった。半年ほど暮らしていたが…人間に出会ったことは無かった。これから出会えるかもしれないと言う高揚はここで目覚めてから初めての感情だ。
「この瓦礫を超えれば…行けるのか?」
目の前の瓦礫は30m程あるだろうか。元は高層ビルだったのだろう。
この瓦礫を上るのは中々に骨が折れるだろう事が伺える。
「やるっきゃねぇな」
意を決して上り始める。
「なんだ、この喉に刺さる感覚は…」
数メートル上った所で違和感を感じる。明らかに塵の数が増加し、喉を突き刺す感覚が出る。
「ちっ…このガラ、なんか入ってんな」
それが有害物質なのか確定したわけじゃ無いが…この塵を吸うのは止めといた方が良いだろう。
ビリっ…。自身の服を少しだけ裂く。この布を顔に当てながら登って行く方が良いだろう。
「うおっ...」
持っていた瓦礫が崩れる。咄嗟に別の瓦礫を持ち事なきを得るが、ここの瓦礫は意外に崩壊しやすいらしい。
「洒落になんねぇな」
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「慣れれば意外と難しくない」
瓦礫の山を登るコツは掴めた。ここまで登ると落ちると死ぬだろうが…。
「もうすぐ終わりだぜ」
あと数メートル上れば瓦礫の山は攻略完了だ。
崩れる所は意外と分かりやすい為、しっかり見ればなんていう事は無かった。
「ここが…向こうの世界か」
瓦礫の山の頂上から見える景色はまた一味違う景色だった。
しかし…。
「全く人の気配がねぇな...本当に俺だけが生き残ったってか?」
果たして俺の居た所が瓦礫に閉ざされていたのか、はたまた向こう側が閉ざされた世界だったのか…。
「弱音を吐いてもしゃあねぇな。歩くか」
そう、こんな所で絶望していても何も得られない。
瓦礫を慎重に下っていく。
「あん?んだこれ」
瓦礫の山に何か目につくものが埋まっていた。
それが旧世界の物なのかどうか分からないが…とにかく目についた。
「鍵か...?いや違うな」
形状が独特なそれが何なのか、俺には分からない。
しかし、目を引き付けるその魔力に魅せられていた。
「くそっ…取れねぇな」
それは周囲の瓦礫が溶けたせいか、張り付いており、簡単には取れなくなっていた。
てこの原理を駆使してもビクともしない。……これはお手上げだな。
何故か目を引く”それ”を諦めるのは名残惜しいが…このまま崩壊すれば俺の命が危ない。
「取れそうになったらまた来るぜ」
果たしてその時が来るのかどうかは分からない。そもそも憶えているのかさえ分からない。
ヴァニタスの鳥籠を読んでいただきありがとうございます。良ければブックマーク高評価お願いいたします。
さて追憶編が始まりました。暫くは美羽に出会う前の連理の過去を少しだけ掘り下げていこうと思います。ここからは”下”の世界の物語になるので描写などが少し残酷になっていきます。R15ってどこまで書いて良いんだろ(下衆顔)




