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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
4/66

予想外の出来事

 2時間程経っただろうか。日は落ちてはいないが、時期に落ちる頃だ。


「そろそろ時間だ。…どうだ?見つかりそうか?」


「いえ......。でも今日は疲れました…」


 普段から運動をしている訳では無いのだろう。足がガクガクと震えている。勿論その原因は俺にもあるのだろうが。


「これに懲りたらもう無茶な真似はすんじゃねぇぞ」


 俺の言葉により先ほどの出来事を思い出したのか苦い顔をする。


 実際初めは親切だが、人気のない所で豹変するなんてありきたりな手段だ。


「気を付けます…。でも連理さんは実際に悪い人では無かったです」


「あんな事があってでもそう言えるのか?」


「あれはここの常識を知らない私に効率よく教えるためだと感じました」


 強ち間違いではない。だがそれだけではない。実際は俺に対する実験の面もあった。


 記憶を無くしてからこの町で過ごしたが、その間に女と接することは無かった。俺の本性を少し探るのに使わせてもらったが、これは伏せておこう。記憶が全く戻らないことを鑑みるに、記憶を無くす前の俺はレイプ魔って訳でも無さそうだ。勿論それが真実とは限らないが。実際は凶悪な犯罪者だった可能性は十分ある。


「今から続きをしても良いんだが、生憎今日はもう眠い」


 勿論嘘だが、ここで変に肯定すると、さっきの行為が無駄になる可能性がある。二度とあんな思いはしたく無い。


「うぅ…。あ、足が動かない…」


 今日は少女にとって激動の一日だったことだろう。仕方のない事だ。


「上への入り口まで連れてってやる。戻る方向も同じだからな」


 実際は俺に特定の住居などは存在しない。睡眠出来そうな所で寝るを繰り返している。一度それで諍いが起こることもあったが、過去の話だ。


 美羽に近づき背中を向ける。いわゆるおんぶと言われるものだ。手で担いでも良いのだが、文句を言われそうなのでやめておく。


「ありがとうございます…。連理さんさえ良かったら…」


 途中で思う事があったのか言い淀む。何を言おうとしたのか知る由も無いが、ネガティブな事では無さそうな雰囲気だった。


「大人しくしとけ。少し走る」


 俺を掴む手の力が少し強くなる。勿論俺の両手で支えてる以上振り落とされることは無い。


 暴れられるとその限りでは無いが。


「私つかれちゃいました」


 そういった10秒後くらいには背中から寝息が聞こえてくる。


「マジか…。全く…警戒心ってもんがねぇのか?」


 背中に出来るだけ衝撃を与えないように慎重に進む。


 どれほど進んだだろうか。このまま戻るだけだと思ったが……これは不味いな。


 人の気配だ。こちらに気づかれないように気配を消しているが、確かに人の気配だ。


 丁度この先の角で待ち伏せているらしいな。


「面倒くさいことになった…」


 迂回するか?しかし、これ以上遅くなるのは危険だ。今は眠った姫さんがいるしな...。


 俺の気を知らず小さい寝息を立てる美羽。ここでなければ役得だったが、そうも言ってられない。


「突き抜けるしかねぇな」


 戦闘を避ける事が必須条件だ。この少女を怪我無く帰還させることが俺に課せられた契約である。


「文句は一切受け付けないぜ」


 気合を少し入れる。大分揺れるだろうが、仕方が無いことだ。


 しかし…このまま正面から向かい合わせるのは避けたい。手が使えない以上戦闘になると不利だ。


 廃墟と化した周囲の建物の屋上から行く選択肢もある。しかし、経年劣化で崩壊する危険性がある以上それも避けた方がいい。


 しかし参ったな。地形的に迂回するのが難しい。


 だが俺の思惑とは異なり待ち伏せている奴が唐突に姿を現した。


 妙だな。ここの人間にしては身なりが綺麗だ。それに殺意や敵意と言った感情は垣間見えるが、少々希薄だ。俺を殺すつもりなど毛頭ない様に感じる。


 日が落ち顔は見えないが、中肉中背で男?だろうか。


 近づくにつれそれは確信へと変わりつつあった。身なりはここの奴とは思えない程綺麗で、体格は少し筋肉質、しかし筋肉の付き方を見るに格闘技などを行っていた訳では無さそうだ。


「お前”ここ”の人間か?」


 俺は目の前に立つ男に話しかける。男は俺が近づくまで何も発さずただ俺を見ていた。


「君こそ誰だい?それにその少女と一体どういった関係なんだい?」


 男と言うには少し声が高いが、この少女の関係者か?話しぶりからして関係者の類だろう。


「さっき出会ったんでな。見捨てるのも可哀そうだろ?」


 重要な事は決して離さない。目の前の男が何者か分かるまで話さない方が良いだろう。


「”上”の人間か知らないが、この時間は危険だぜ」


 一応の忠告を入れる。既に日が暮れている。つまりここの住人の活動が始まるという事だ。


 俺だってこんな場所から一刻も早く離れたいが…美羽を背負っている以上それは叶わぬ願いだろう。


「危険?ここに来るまでに誰にも遭遇しなかったが…私の油断を引き出そうとしているのなら無駄だ」


「そうかい。じゃあ退いてくれるか?俺は今急いでんだよ」


 タイムリミットは問うに過ぎた。早くこの深部から抜けないとこいつ等の命は保証できない。


「そういう訳には行かない。その少女はこちらの管轄だ。すぐに引き渡せ」


 管轄だと?どういう意味だ。


「どういう意味だ。こいつの知り合いか?」


「そちらに居る方の護衛をさせて頂いている」


 なるほどな。ちゃんと護衛は付いていたらしい。が……なぜ美羽が一人だったのか少し解せないが。


「生憎なんだが…俺はこいつと契約を交わした。素性のしれない奴に簡単に渡すわけにはいかねぇよ」


 こいつが黒幕って事もゼロではない。むしろこいつは敵側と認識した方が良いだろう。


 美羽を起こすか?こいつに確認を取るのが一番手っ取り早い方法だ。


「美羽起きろ」


 声を掛ける。が、返事は無い。揺らさずに負ぶっていたからか、深い眠りについているようだ。


「こっちの姫さんは眠り姫みたいだったな。それじゃあさいなら」


 俺は男の横を通り過ぎようとする。


 しかし、男からは言葉は帰ってこなかった。


 後ろから強い殺気を感じる。確実に俺の意識を飛ばす威力の裏拳が飛んでくる。


「っぶね!何てことしやがる!いたいけな市民をいきなり裏拳か?」


 寸でのところで回避することに成功する。


「巫山戯るなよお前」


 ご立腹な様子だな…。決して冗談を言ったつもりは無かったんだが.


 勘違いさせてしまったらしい。


「至って真面目なんだが…お前こそいきなり裏拳なんてご挨拶じゃねぇか?」


 当たってたらただでは済まなかっただろう。


 一触即発の空気が辺りを包み込む。このままでは戦闘を避けることは出来そうにない。


 お互いに睨みあう。


 均衡を破ったのは相手の方だった。


「シッ!」


 俺に肉薄する。その慣れた縮地から相当な手練れであることが伺える。


「おっと!おいおいお前手の使えない奴に対してハンデも無しかよ?」


 足に力を入れ接近された距離をまた離す。こうなってしまっては負ぶっている奴に対して遠慮なんて出来ない。起きるのも時間の問題だろう。


「お前…何者だ。なぜ今のを躱せる?」


 男は相当な自信があったのだろう。俺に避けられた事を気にしているようだ。が、生憎ここでは此奴は強者ではない。ここの住人と幾度と戦闘した俺からしたら児戯に等しい。


「お前がここが初めてだってのは解ったよ。最後の警告だぜ?早くこの場所から出ろ」


 こいつが肉塊になろうと慰み物になろうと俺の知った事では無いが…仮に美羽と親しい関係性であった場合、少々後味が悪い。


「またその脅しか…弱者が口先だけは立派なのはどこも同じらしい」


 意味の分からないことを言う。強者に媚び諂い、強者の恩寵を受ける。それもまた強さだ。決して戦闘力や経済力だけではない。あらゆる力が世界には存在する。


「弱者だから口先が立派になったんだよ。生憎な」


 適当に返す。真面目に会話していても状況が好転する可能性があるとは思えない。


「減らず口を!シッ!」


 さらに肉薄してくる。今度は蹴りを放ってきた。これは避けれそうに無い。


 ある程度ダメージを受け流すために力を抜く。


「ぐっ…」


 衝撃が脳を突き抜ける。相手の踵が顎にクリーンヒットした。脳震盪を起こした脳が警鐘を鳴らす。視界が暗い。


 が、ここで相手にそれを悟らせる訳にいかない。


「今のは少し効いたぜ?」


 軽口を入れつつ笑みを浮かべる。


「ちっ…。今のもダメか」


 相手は俺の策中に嵌り苛立ち始める。脳震盪も回復しつつある。


 後はこいつの心を折るだけだ。


「弱者に笑われるってどんな感覚だ?それはそれは屈辱だろうな」


 あくまで自分のペースに持っていく。


「手を出すことの出来ない奴に一方的に暴力を振るい、挙句の果てに倒すことが出来ずに嗤われる。弱者ってお前の事じゃないのか?」


 言い返さない相手にさらに投げかける。冷静を失った相手ならどうにかなるだろう。


「そんな安い挑発に乗ると思うなよ」


 あからさまにイライラしている様だが、一応冷静を取り繕ってはいる様だな。


「挑発?事実だろ。事実じゃないのなら反論してみればいい」


「私はそのお方の護衛だ。相手が手ぶらだろうが何だろうが、お護りすることが私の使命だ」


「その護衛様がお嬢様をほっぽり出して挙句の果てに俺みたいな浮浪者に誘拐されてるなんて、そんな冗談みたいな話無いよな」


 挑発を続ける。


 しかし、相手は既に情報をシャットダウンしたのかこれ以上何か言い返してくることは無かった。


 このまま逃げ切れるか?


 そんな甘い事を考えていると凄まじい殺気が飛んでくる。


「ちっ!!!お前!ここから離れろ!!」


 目の前に立つ男に言い放つ。


 男は理解して居ないのか、俺の言っている事を聞いていないのか分からないが、指示に従う気は無い様だ。

読んでいただきありがとうございます!拙い文ですが、楽しんでいただけると幸いです。

良かったら感想や指摘事項を書いていただけると今後の励みになります!

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