断罪
今まで読んでくださった方たちにご報告。
9話と10話が同じ話になっていました...。編集で10話を追加しましたので、そのご報告です。
本当にごめんなさい。
断罪の日。
今日、フィリアにより、いじめの主犯たちが断罪される。
それは資本階級同士の戦争と言っても過言では無いだろう。今日から資本階級の関係性が大きく変化する可能性がある。
と言っても、俺がすることは断罪される奴らの最後っ屁を阻止するだけだ。
「連理…なんか壮大な出来事に発展しちゃったね…」
美羽が心なしか萎れている。ま、烏丸も無関係では無い話だ。それに…こいつの親の事もある。親の事が公になる可能性だってある。
「ああ...俺の今日出したう〇こはそれはそれは壮大な形だったぜ」
「ってなんの話!?壮大な形ってなに!?」
「お前は特にすることは無かったよな?だったらちょいと伝言を頼むぜ」
やり残したことがある。それを美羽に頼むとしよう。
「え?まあ良いけど…誰に?」
「ああ、それはな…」
。
。
。
「さて、準備は完了しました」
フィリアが言う。今俺たちは生徒会でその時を待っている。
フィリアの持つ力を惜しみなく使った策だが…
「後は彼らが行動するだけです」
「私詳しくその策って言うのを知らないんですが…どういった策なんですか?」
「詳しい事は長くなりますが…鳥籠に餌をつるして獲物を待つ…って感じでしょうか」
脱走したインコを捕獲するみたいな説明だな。
「餌と言うのは…?」
「近藤さんですね。彼が教室に居るならば自ずと事が起こる筈です」
教室を鳥籠に見立てる訳だ。それに、仕掛けも既に昨日済ませている。虐めの主犯たちからすれば不可避の罠だ。
「彼…近藤さんは既に教室に?」
「ええ。後は教室に彼らが来るのを待つだけ…っと彼らが学園に着いたみたいですね」
行ってるうちに来たらしい。ターゲットからすれば最後の学園だな。
「移動しましょうか」
フィリアが生徒会室から出る。
「俺達も傍観しに行こうぜ」
「え、ええ...」
。
。
。
「おいおいおい!なんでお前が教室に居るんだよ!www」
「お、俺は副会長に言われて…す、すぐ出て行く」
既に始まっているらしい。
近藤は何が起きているのか分からず混乱しているが…。
「暫く様子を見ます」
まだ教室には介入しない。決定的な証拠が出るまでな。
「まあいいや。最近サンドバッグが倉庫に籠っちまったからよ、溜まってんだわ!」
そういい男は近藤の腹部にパンチを入れる。
「うぐっ...副会長にも騙されたってのか」
近藤の顔には絶望が浮かび上がる。この学園、いやこの世界屈指の権力が自分を陥れた…その事実だけで絶望するには十分だろう。
「あの女がお前に声を掛ける訳無いだろwww」
「おらっ!!最近キックボクシング始めたんだよ」
取り巻きの男が蹴りを入れる。威力はまだまだだが、それでも蹴りはパンチの何倍も威力がある。
「フィリアさん…そろそろ良いのでは?」
見かねた美羽が言う。
「いいえ、まだです」
コイツが待っているのは別の言葉だろう。
腹黒い…と言うより狡猾、容赦の無い奴だ。
「あの女はいずれ俺が奪ってやる。庶民にあの女は勿体ない」
リーダー格の男が言う。庶民と言うのは希望…生徒会長の事だろう。
「……………」
フィリアの顔が険しくなる。と言うより殺気が駄々洩れである。よほど嫌な言葉だったのだろう。
「お兄ぃ!!やめて!お兄ぃを虐めないで!!」
教室に少し小柄な少女が入ってくる。
その口ぶりからして、近藤の妹だろう。
「あ?お前妹なんて居たのかよ」
「なっ!?なんでここに!?!?」
近藤が何が起きているのか理解できずに混乱している。
「なんでってお兄ぃなんで言ってくれなかったの!?」
それは酷な話だ。近藤の気持ちを知っているからこそ、その疑問は近藤にとって刃に成りえると理解できる。
「彼女は私が昨日手配しました。餌は揃いましたね」
餌…ね。まあ、間違っては無いんだが。
「…お前に言って何が変わるんだよ。なあ、お前に何が出来るって言うんだよ!!」
「お、お兄ぃ…」
そうだ。なにも出来やしない。
「俺が学園でこんな扱いだと知ってお前になんの得がある?何もないじゃねぇか!だせぇ
だけだろ…」
近藤の根底には、かっこいい兄貴…の像がある。数回会話した程度でそれが垣間見えた。
「お兄ぃはダサくなんて無い!私にとっては、勉強も運動も出来る自慢のお兄ぃなのっ!」
「優香…」
「おいおい、俺ら抜きで楽しんでんじゃねぇよ!」
「おい、妹の方を押さえろ」
「へいへい」
下衆だな。しかし、効率的ではある。それを示すかのように近藤の顔に露骨に焦りが見え始める。
あの顔は…妹を護る為に資産家を敵に回すかどうか考えていそうだ。
「妹は関係ない!頼む…妹だけには手を出さないでくれ…」
「お兄ぃ…誰か…誰かお兄ぃを助けてっ!お願いします…」
しかし…教室は静まり返っている。と言うより、興味が無いのか、本を読んでる奴が大半だ。
異常だな...。
その異常な光景は近藤の妹の記憶に焼き付く事だろう。
「な、なんで…誰も」
顔に浮かぶ絶望。それは奴らからすれば蜜よりも甘い物だろう。
「フィリアさん!もう見てられません!」
美羽が言う。しかし、まだ早いな。
「まだです」
「ど、どうして…もう証拠も充分なのに…」
そうじゃない。証拠なんかどうにでもなる。本当に欲しい物…それは外部の人間に対する危害。
学園内での事は学園内で処理される可能性がある。確実性を持たせるならば…外部の人間への危害だ。
「捕まえたぜ。兄貴ともどもボコボコにしてやるよ!」
取り巻きの一人が近藤妹を羽交い絞めにする。
「や、やめて!触らないでって!」
泣きながら懇願する。…弱者が強者にする事は懇願では無い。正解など無いがな…。
「その表情…そそるねぇ!!」
近藤妹に拳が振りかざされる。
「っ...!」
…しかしその拳が届くことは無かった。
「なんだ?お前…平坂に逆らうのか?」
「……妹だけは止めてくれ」
拳は近藤が顔面で受けた。近藤の瞳に写るのは目の前の男なのか、この先の未来なのか。
どちらにせよ...覚悟が決まったみてぇだな。
「止められましたか…仕方ないですね。そろそろ介入しましょう」
近藤妹が殴られていたならばもっと楽だったと言わんばかりだな。
フィリアが教室に乗り込む。
「な!?副会長…なんでここに?」
主犯格が言う。想定外とでも言いたそうだな。
「貴方達の行動はすべて証拠として押収させてもらいます」
「な、なんの事ですか?僕たちはここで仲良く雑談してただけですよ」
苦しい言い訳を言う。
「今この場で起きたすべてが貴方の親に現在進行形で届いています」
そう、フィリアが仕掛けた罠は相手の親、つまり権力者たちに直接起こっている事を見せるという事だ。叢雲に逆らう家も無い、こいつらの辿る結末は既に一つしかないという訳だ。
「なっ!?そ、そんな、僕たちは冗談のつもりだったんですよ!」
「それを判断するのは貴方ではありません」
自分たちの置かれた状況を理解したのか、顔に焦りが見え始める。
「…良いのですか?こっちは三家ですよ?いくら叢雲と言えど、荷が重いのでは?」
「舐めてもらっては困ります。叢雲はこの世界の支配者、あなた方が束になっても敵いませんよ」
「これだから世間を知らないお嬢様は…どうせはったりだ。お前ら、ここは一旦退くぞ」
そう言って教室から出ようとする三人。しかし…
「キル…その無礼者を捕えなさい」
フィリアがそういった瞬間、どこからともなく現れた執事が三人を捕縛していく。
「な、なんだお前!俺が誰か知ってんのかよ!!」
捕まった男が叫ぶ。だが、そんな事お構いなしなのか、返事も全くせずに手を縛っていく。
その手際は凄まじく、その手のプロかと見まがうほどだった。
「お疲れ様。さて、貴方達の処遇は既に決まっています。恨むならば自分たちを恨むんですね」
「なっ!?離せ!俺たちは何もしていない!!」
負け犬の遠吠え…実に爽快である。こいつ等を見るのはこれで最後だろう。
「な、なんだったんだ…」
「お兄ぃ!大丈夫!?」
近藤が困惑し、妹が心配をする。この二人からすれば何が何やら分からないのも当然である。
「お、お前…一体これはどういう事なんだ?烏丸と叢雲が手を組んだって事か?」
近藤が俺に近づき聞いてくる。
「どういう事ね…さぁな。知っててもお前に言う事じゃない」
女教師の慟哭がこの出来事を引き起こした。あの女狐が本当にそれだけで動くとは思わんが…なにか他に理由があったのだろう。例えば…資産家を潰したかったとかな。
「なんでだよ!?それに俺はこれからどうなるってんだ!」
「知らねぇな。お前の好きなようにすれば良いじゃねぇか。解放されたんだろ?」
倉庫での生活が此奴の中での普通になっていた為、何をすれば良いのか分からないんだろう。
「俺の好きなように…なぁ、お前友達居ないだろ」
あ?なんだコイツ急に。失礼な奴め。
「だったらなんだよ。俺にも友達の一人や二人居るぜ」
「連理…哀れね…」
後ろで美羽が馬鹿にしたように言う。
「お前だって殆ど居ねぇじゃねぇか」
そういう美羽も友達と喋っている所なんか殆ど見ない。
決して人の事を笑えるような奴では無い事は確かだ。
「なぁ、確か連理って言ったよな?良かったら俺とダチになってくれよ」
急になんだ。ダチって言うのは多分友達の事だろう。
「良かったね連理。初めての友達じゃない」
「うるせぇ!俺にだって友達の一人や二人……」
居ないな。そもそも記憶無かったし。しょうがないじゃん?
「私からもお願いします!お兄ぃが心配で心配で…」
性に合わねぇが…仕方ない。
「まあ良いぜ。つっても俺はこのガキの護衛だからな、自由な時間は限られている」
「いっつもほったらかしてサボってるくせに…」
今後ナンパされてても放っておいてやろう。
「じゃあ俺達今日からダチだな。俺の名前は...って知ってるか」
「ああ、確かジョニー大熊だっけ?」
「違ぇよ!!ジョニー大熊って誰だよ!?」
「ジョニー大熊…ぷぷ」
近藤妹が笑っている。
「優一だ!近藤優一!これからよろしくな連理と烏丸さん」
優一っていうらしい。ジョニーでは無かったか。
しかし、思わぬ形の終幕となってしまったな。自分自身にそういう存在が出来るとは思ってもみなかった。
「私は近藤優香と言います。おにぃ…いえ、兄をよろしくお願いします!」
なんかむず痒いな…。
そんなこんなで学園内虐め事件はこれにて終幕?したのだった。
長いよ...。最近オートローグと言うゲームにはまってしまって...。
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因みになぜ生徒が無関心なのかなのですが、多分出てると思いますが、相互不干渉という暗黙の了解があるからです。助けたくない訳では無いんです。ただお互いの家柄で争うのが嫌と言う思いから相互不干渉になっている、という訳です。叢雲は格が違うので誰にでも喧嘩が売れると言う...。