34話
「やはり彼の机でしたか、私が動くしか無いようですね…」
「お前は知っていたのか?」
その言いぶりはまるでこの事を予知していたと言わんばかりだ。何か隠してやがるな。
「もう隠す必要も無いですね…彼女は今巨悪に立ち向かおうとしています。無謀ですけどね」
なんだと?意味が分からない。
「もっと詳しく教えてくれよ。何が何だかサッパリだぜ」
「私も全く分からないです」
「そうですね...じゃあここに彼女を呼びましょうか」
直接説明させる気だなコイツ。
。
しばらくすると生徒会室に東がやってくる。
「あの…一体なんでしょう?」
気のせいか、顔が暗い気がする。
「東先生、授業が終わって何をしていましたか?」
フィリアが東に問いかける。…まるで尋問を始めるみたいだな。
「え...っとですね教室に忘れ物を取りに…」
「東先生、私はずっと待っていましたよ」
どういうことだ?この件に関しては全く関係の無い俺達には何を言っているのか全く分からない。
「……私は、教師失格ですか...?」
もう嘘を突き通せないと感じたな。観念した様子で問いかける。
「そうですね。失格だと思います。ただ...今回は原因が原因ですからね」
「いつから知ってたのですか…?もう私は引けない所まで来てしまいました」
「甘ったれないで下さい。貴方は選択を間違えた。ただそれだけです」
珍しくフィリアから強い言葉が出る。多分怒っている訳では無いだろうが…。
「じゃあ!どうすれば良かったと言うんですか!?」
泣きながらフィリアに訴える。その勢いは凄まじく、美羽が少し引いてしまっていた。
「だから私はずっと待っていましたよ。生徒会で」
「だって!あなた達は所詮生徒でしょ!!何が出来ると言うのっ!?」
「酷ぇ言われようだな」
「れ、連理今は静かに!」
なんでだよ。
「所詮生徒…でも彼らもその生徒ですよ」
「何もわかっていない…私の苦労が!今までどんな気持ちで…っ!!」
「だから甘えないで下さい。苦労しているのは彼で、あなたはその偽善を振りまいて勝手に病んでいるだけじゃありませんか」
偽善…なるほどな。コイツ自身ではなく、誰かの為の行為…という事か。
「じゃあ貴方達が助けてくれるとでも言うんですか!?今まで見て見ぬ振りをして来たあなたが!!」
「ええ。言ってくれればそうしましたよ。それが生徒会ですから」
「っ!」
声にならない声を上げる。
「しかし……彼…近藤優一は助けて欲しいとあなたに言いましたか?私は言われていません。それで勝手に助けようと自己犠牲に耽り、あなたはエゴイストですね」
「……………」
何も言い返せないのか、それとも言い返す気力が無いのか。
しかし…近藤と言ったか。あの体育館裏の倉庫に居た奴だな。あいつの為って事か。
「ただ…その覚悟に免じて私…いえ、叢雲が力を貸しましょう」
へぇ...意外だな。こいつも俺と同じ側だと思っていたが…どうやらその評価は変更した方が良さそうだ。
「それって…彼を助けてくれると…?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら東が言う。
「彼を助ける…だと語弊がありますが…結果的には彼は助かるでしょう」
「っ!…やっと…やっと彼が報われる日が来るんですね…」
「報われるかどうかは知りませんが…元凶の三人はこの”世界”から居なくなるでしょうね」
怖ぇ…殺すって事か?あの美貌の裏にはとんでもない悪魔を飼っているらしい。
。
。
。
「俺達の想定通りだね。やはり彼女は動いた」
「”前”もそうだったわね…”今の私”に上手く出来るかしら…」
「心配しなくていい、”今のキミ”も十分に完成しているさ」
相手は叢雲程ではないにしろ、十分大きな資産家たちである。最悪希望が動く事になるかも知れない。
「今は”私”に任せるしかない…どうせ私は動けないから」
「信じて挙げなよ…仮にも君の……いや、何でもないよ」
この世界は歪んでいる。何時から歪んだのか…それは誰も知りえない…。希望なら知っているかもだけど。
でも…彼はあそこに辿りついたのね…。




