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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
二章
33/74

32話

「本当にここで過ごしてんだ」


一々ここまで来て笑いに来たのか?


「なんだよお前らの言う通りにしてるだけだろ?」


もう関わってこないと思ったが…俺の考えが甘かったようだ。


「逆にここに居てくれて良かったぜ。これで誰にも見られねぇからな!!」


そう言うなり、俺の事を蹴ってくる。


「ぐっ…なんでだよ、お前らの言う通りにしてるじゃねぇか。何がそんな気に食わねぇんだよ!」


「何言ってんだよw。気分だよ気分。ただお前で遊びたいだけ」


性根が腐っている。どうしようもない理不尽に苛立つが、それを相手に悟られるのは避けなければいけない。


今はこの暴力から耐えるだけ…そう…耐えるだけだ。俺が耐えれば誰も不幸にならない…耐えろ。


それは呪か…それとも覚悟か。齢二十にもなっていない男の心を削るにはあまりある事だった。





倉庫で過ごすようになってどれくらい経っただろう。半年くらいか…俺ももう二年に進級した。だが、状況が変わった訳では無い。


倉庫に偶に来ては俺を揶揄い、暴力を振るう。そんな日常は変わっていない。


だが、この前俺の知らない生徒がやって来た。しかも一年生である。


多分俺の噂も知らず授業をサボっているのだろう。この時期から既に授業をサボるのはいかがなものかと思うが…。


「そのネクタイ、二年か」


男が俺のネクタイを見るなり言う。この学園はネクタイが学年ごとに違う為、判別しやすい。そいつは生徒会の紋章を付けていた。


「そんなあんたは一年のガキかよ」


言葉が悪くなったが、さっきまで暴力を振るわれていたから申しわけない。


そいつはこの学園で珍しい奴だった。少し話をしてそいつの考え方が分かった気がする。


もしかしたら俺と同じ一般家庭の生徒かも知れない。



突然先日来た男から伝えられる。それは既にい妹…優香の入学が決まっていることについてだ。


親父にはずっと訴えた。この学園に入学しても得られるものは無いと。しかし、意味は無かった様だ。実の娘を地獄に行かせる訳だ。俺の意見などどうでも良いのだろう。


それにこの男、烏丸のところの護衛らしい。ま、生徒会って良い所のお嬢様とかが多いから、当然と言えば当然か。


俺とは住む世界が違う奴だ。あの烏丸のお嬢様の護衛だからな。


何故そんな大物が俺に関わってくるのか知らんが、金持ちには俺の気持ちは分からねぇよ。やり返したくてもやり返せない。誰も助けてなんてくれない。


それからは少し苛立って言い返してしまった。虐めがさらに酷くなる可能性だってあるのにな。


俺は馬鹿だ。


優香を護るって決めたのに…果たせそうもない。そんな自分に苛立って吐き気がする。


「はぁ...なんでこんな事になったんだよ」


このままでは優香を護るなんて夢のまた夢である。


「一般家庭が理由なのか?生徒会長も一般家庭らしいじゃねぇか」


男が言う。こいつは何も判っていない。


「そ、それは才能があったからだ。俺には何も無かった。妹だってどうなるか分かんないだろ!?」


才能は残酷だ。優香も生徒会長程の才能が有ると思えない。こいつには分からないだろ。


「お前の妹がどんな奴かは知らんが…お前が護ってやれよ」


簡単に言われると腹が立つ。俺がどんな思いで今ここに居るのか、それがこいつには分かるのか?適当な事ばっか言いやがって…。


「無理だ!俺が卒業した後はどうすんだよ!?俺と同じ思いを妹にもさせるってのか!?」


俺が卒業すれすれば護れるものも護れなくなってしまう。


「勘違いすんなよ。お前と妹は違う。お前は虐められても妹が虐められるとは限らねぇだろ」


なんだよ、お前に何が分かんだよ!この一年の俺の気持ち、我慢してきたこの抑えられない気持ちをお前は分かるのかよ!


「お前こそ勘違いすんな!金持ちには分かんねぇよ俺らの気持ちはな」


そこからは会話なんて無かった。互いに考え方が違うという事だ…。

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