32話
「本当にここで過ごしてんだ」
一々ここまで来て笑いに来たのか?
「なんだよお前らの言う通りにしてるだけだろ?」
もう関わってこないと思ったが…俺の考えが甘かったようだ。
「逆にここに居てくれて良かったぜ。これで誰にも見られねぇからな!!」
そう言うなり、俺の事を蹴ってくる。
「ぐっ…なんでだよ、お前らの言う通りにしてるじゃねぇか。何がそんな気に食わねぇんだよ!」
「何言ってんだよw。気分だよ気分。ただお前で遊びたいだけ」
性根が腐っている。どうしようもない理不尽に苛立つが、それを相手に悟られるのは避けなければいけない。
今はこの暴力から耐えるだけ…そう…耐えるだけだ。俺が耐えれば誰も不幸にならない…耐えろ。
それは呪か…それとも覚悟か。齢二十にもなっていない男の心を削るにはあまりある事だった。
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倉庫で過ごすようになってどれくらい経っただろう。半年くらいか…俺ももう二年に進級した。だが、状況が変わった訳では無い。
倉庫に偶に来ては俺を揶揄い、暴力を振るう。そんな日常は変わっていない。
だが、この前俺の知らない生徒がやって来た。しかも一年生である。
多分俺の噂も知らず授業をサボっているのだろう。この時期から既に授業をサボるのはいかがなものかと思うが…。
「そのネクタイ、二年か」
男が俺のネクタイを見るなり言う。この学園はネクタイが学年ごとに違う為、判別しやすい。そいつは生徒会の紋章を付けていた。
「そんなあんたは一年のガキかよ」
言葉が悪くなったが、さっきまで暴力を振るわれていたから申しわけない。
そいつはこの学園で珍しい奴だった。少し話をしてそいつの考え方が分かった気がする。
もしかしたら俺と同じ一般家庭の生徒かも知れない。
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突然先日来た男から伝えられる。それは既にい妹…優香の入学が決まっていることについてだ。
親父にはずっと訴えた。この学園に入学しても得られるものは無いと。しかし、意味は無かった様だ。実の娘を地獄に行かせる訳だ。俺の意見などどうでも良いのだろう。
それにこの男、烏丸のところの護衛らしい。ま、生徒会って良い所のお嬢様とかが多いから、当然と言えば当然か。
俺とは住む世界が違う奴だ。あの烏丸のお嬢様の護衛だからな。
何故そんな大物が俺に関わってくるのか知らんが、金持ちには俺の気持ちは分からねぇよ。やり返したくてもやり返せない。誰も助けてなんてくれない。
それからは少し苛立って言い返してしまった。虐めがさらに酷くなる可能性だってあるのにな。
俺は馬鹿だ。
優香を護るって決めたのに…果たせそうもない。そんな自分に苛立って吐き気がする。
「はぁ...なんでこんな事になったんだよ」
このままでは優香を護るなんて夢のまた夢である。
「一般家庭が理由なのか?生徒会長も一般家庭らしいじゃねぇか」
男が言う。こいつは何も判っていない。
「そ、それは才能があったからだ。俺には何も無かった。妹だってどうなるか分かんないだろ!?」
才能は残酷だ。優香も生徒会長程の才能が有ると思えない。こいつには分からないだろ。
「お前の妹がどんな奴かは知らんが…お前が護ってやれよ」
簡単に言われると腹が立つ。俺がどんな思いで今ここに居るのか、それがこいつには分かるのか?適当な事ばっか言いやがって…。
「無理だ!俺が卒業した後はどうすんだよ!?俺と同じ思いを妹にもさせるってのか!?」
俺が卒業すれすれば護れるものも護れなくなってしまう。
「勘違いすんなよ。お前と妹は違う。お前は虐められても妹が虐められるとは限らねぇだろ」
なんだよ、お前に何が分かんだよ!この一年の俺の気持ち、我慢してきたこの抑えられない気持ちをお前は分かるのかよ!
「お前こそ勘違いすんな!金持ちには分かんねぇよ俺らの気持ちはな」
そこからは会話なんて無かった。互いに考え方が違うという事だ…。




