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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
二章
30/74

29話

「サボりすぎ!全くいつもいつも…がみがみがみがみ」


なぜ人はサボるのか…それは人それぞれだ。俺はただ、学ぶことが嫌いな訳では無い。今やっている事が学ぶ必要が無いと決めつけているだけだ。


実際、人に必要な学問なぞ…etc。


「聞いてる!?がみがみがみがみ」


「ああ、今日の昼飯はステーキか」


「聞いてないじゃない!がみがみがみがみ」


そこからまた暫く説教が続いた。



「え?近藤…確か来年に既に入学が決まっていると言う話を聞いたことがあるわ」


「そうなのか。じゃあこの話は終わりだ」


近藤の努力虚しく妹の入学はもう決まっているらしい。


伝えるかどうか迷うが、このままではあいつに救いが無い。伝えて身の振りを考えさせた方が良いだろう。


「急に近藤の名前を出すって何かあったの?」


美羽から聞かれる。別に隠す事でもないが、話す必要も無いだろう。


「いや、噂で聞いただけさ」


誤魔化しておこう。俺と近藤が絡むことに好意的でも無いだろうからな。



「な、なんでだよ!?親父もお袋も何考えてんだ!」


どうやら親には言っていたらしいが、息子の説得虚しく入学させることになったらしい。


「一般家庭が理由なのか?生徒会長も一般家庭らしいじゃねぇか」


「そ、それは才能があったからだ。俺には何も無かった。妹だってどうなるか分かんないだろ!?」


成金は金持ちの真似事をしたがる。それは親のエゴなのか、愛なのか。


「お前の妹がどんな奴かは知らんが…お前が護ってやれよ」


そんなに心配してんならな。


「無理だ!俺が卒業した後はどうすんだよ!?俺と同じ思いを妹にもさせるってのか!?」


それはお前の妹次第だろう…。


「勘違いすんなよ。お前と妹は違う」


「お前こそ勘違いすんな!金持ちには分かんねぇよ俺らの気持ちはな」


何を言っても無駄か。


しばらくは何を言っても此奴に響かないだろう。





薄昏いベールに包まれた空間。


男女の会話が木霊する。


「ねぇ…”今”のあなたって私の事覚えているの?」


「ああ、片時もフィルの事を忘れたことなど無かった」


「ふふ…私も。”今”の私はどう?」


「”今”のフィルもとても素敵だよ。私の”希望”であり、”絶望”だからね」


「”今回”はどうなるのでしょうね。貴方が勝利するのか、彼が勝利するのか」


「俺が負けると思うかい?万に一つもないさ」


そう、今までだってそうだった。俺に敗北は無かった”筈”だ。


「そう…あなたもすべてを覚えている訳では無いのね…」


「どういう事だい?”前”のキミは一体何を知っている?」


「ふふっ…それは乙女の秘密よ」


昏い幻想の夢。二人の影が重なり合う。その暗影に写る少女の儚姿は鳥籠に閉じ込められた金糸雀の如き美しさであった。

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