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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
3/66

信頼と恐怖

「ほら、足を動かせ。この瓦礫を上るぞ」


 元はビルであっただろう瓦礫の山に足を踏み入れる。


「こ、ここをですか!?無茶です!」


「じゃあ探索はここまでだな。ここから先に行く方法はここを上るか周り道をするかだ」


 周り道と言ってもある場所を通るだけだがな。


「じゃあ回り道でも良いんじゃないですか?」


「生憎とあっちはギャングの縄張りでな。通るだけで嫌な思いするぞ?」


 おおよその意図は伝わっただろう。俺一人ならば見つかることなく通ることが出来るが、今はこいつが居るからな。


「うう…。じゃあ頑張ります…」


 覚悟を決めた顔をして瓦礫に掴もうとする。が、生憎この瓦礫には有害物質が使われているらしく、肺に良くない。


「掴まれ。あとこれで口を隠せ」


 俺は少女に布の切れ端を渡す。有害物質を取り込まないためのフィルターの役割だ。まあ気休め程度だがな。口を閉じて呼吸を止めれば経口からの摂取は限られる。


「つ、掴まれってどこにですか…。あとこの汚いハンカチは何ですか」


 失礼な奴め。毎日川の水で洗っているというのに。


「このガラに有害物質が入ってんだよ。それで口を隠せ。あと背中に掴まれ」


「そういう事は早く言って下さいよ!!うぅ……なんでこんな目に」


 涙目になりながらしゃがんだ俺の背にしがみ付く。


 まあ、発展途中であるが、なかなかに役得である。


「舌噛むなよ?」


 そう言い俺は瓦礫を一気に駆け上がる。慣れたもんだ、ここも。


「え?…きゃっ!!」


 後ろで小さく悲鳴が聞こえるが無視する。振り落とされない様に背中を掴む力が強まるが、握力が弱いのか離れそうになる。


 そのため俺は左手で少女の背中あたりを押さえつける。


「あう……」


 背中に押し付けられて少し苦しそうな声が聞こえる。


「我慢してくれ。そうでもなきゃ俺も落ちる」


 ここは一気に登りきるのがコツだ。と言っても、勿論ゆっくり行っても問題は無い。ただの意地悪だ。


 しばらく全速力で瓦礫を疾走する。


 数十メートルはある瓦礫の山を1分と経たずに超える事が出来た。


「ぜぇぜぇ…。れ、連理さんって一体…」


 驚愕の眼差しが向けられる。


 息一つ付かない俺が化け物に見えているのかも知れないな。


「ここで生きていたら普通だ。お前も少しは運動した方が良いぜ?」


「こ、これが普通なんですね……」


 どうだろうな。この瓦礫を超える奴なんてそうそう居ないだろうが。少なくとも俺は見たことねぇな。まあそれを言った所で勘違いされるので言わないが。


「それより、ここからは大きい声を出さない方が良い」


 瓦礫を超えた先からは本当の無法地帯である。人自体はそうそう居ないが、ごく少数の奴らが潜んでいる。性質が悪いのが、ここに住む奴は大体人を殺すのにも躊躇しない本当のはみ出しものって事だな。遭遇するのは御免だね。


「それと俺から離れるな。花が摘みたかったら俺の隣で済ませ」


「そそそ、それは大丈夫ですっ!!」


 顔を赤くし訴えてくる。俺は決してこいつの失禁姿が観たい訳では無く、純粋に俺から離れると危険と思ってもらいたかったが、伝わってはいないらしい。こんな会話なんてしたことが無いため、なかなか難しいものである。


「大声出すと見つかるぞ」


「だだ、だって連理さんが……」


 頬を膨らませながら言う。実に可愛らしい姿だが、生憎ここでは無意味な価値観である。


 ここからは俺も気を抜く訳には行かないな。俺一人なら問題が無いのだが、こいつとの契約がある。


 。


 しばらく歩いただろうか。言っていた探し物とやらは見つかる気配がない。美羽もそれは頭では理解して居るのだろう。顔は常に暗い。


 まだ日は明るい。だが、あまり奥に入りすぎると戻る時が危険だ。夜に近づくにつれ奴らの活動は活発になる。


 探索できてあと2時間程だろう。


「美羽、あと2時間程で切り上げろ。それ以上は危険すぎる」


 下に意識を向けていた美羽に語り掛ける。美羽は急に話掛けられ少し肩がぶるっと震える。


「もうそんな時間が経ったんですか…」


 絶望とまでは行かないが、明らかに落胆の色が見える。


「お前が望むならいつでも俺を呼べ。対価として情報と交換だ」


 俺からしたら普段やることは無いため、情報を貰えるだけで十分だ。


 ”上”の世界の情報はここで聞くことは無い。”上”に俺の記憶の手掛かりがあるならば、どうにかして行きたいものである。


「ほ、ほんとですかっ!で、でも…」


 語尾が濁る。何か都合の悪い事でもあるのかも知れない。”上”の世界の学生らしいからな。学園生活だってあるだろう。


「無理ならそれでいい。もしまたここに来るなら護衛は連れた方が良い」


「その時はまた連理さんに頼りますっ!」


「そんなに俺を信用していいのか?実は俺が極悪な殺人鬼の可能性だってあるだろう」


 実際俺が殺人鬼ならばこいつはここで死んでいるだろう。警戒心が薄いのは”上”ならば普通の事かも知れないが、ここでは死に直結する。


 それを理解して居ない。少しこわい目に合わせてでも理解させることが重要か?


「本当の殺人鬼はそんなこと言わないですよ。それに連理さんの目は綺麗です」


 俺の目が綺麗だと?こいつは相当見る目が無いらしい。


「これでもか?」


 俺は小柄な体を押し倒す。美羽の身体は簡単に地面に横たわる。俺にマウントを取られる形で。


「な、何するんですか!?」


 驚愕した声音で言う。だがそこに嫌悪などの色は見えない。


 自分の状況を理解して居ないだろう。まだ俺が親切な男だと思っている顔をしている。


 これから何をされるのかも知らずな…。


「何って、んな事決まってるだろ?」


 俺は美羽の服に手を掛ける。


「や、やめてくださいっ!な、なんでこんな…」


 ようやく自分の置かれた状況を理解したのか、涙目になりながら抵抗をする。


 しかし、ガキの力なんてどうってことは無い。俺の腕を掴むが、止めるには如何せん筋力が足りなすぎる。


「ここに女なんて基本的に居ないからな。当然と言えばそれまでだ」


 美羽の顔に絶望が見える。すこし良心が痛むが、気にしない。


 つい一時間、二時間前には気丈に振舞い、喧嘩の仲裁に入るような女が、俺の下で許しを請っている。それは非常に嗜虐的で、征服感が満たされる。


「っ…。こ、こんなの間違ってます…」


 俺は無視しながら服の中に手を滑り込ませる。


 長い時間を歩いていたからか汗ばんでおり、しっとりした感触だ。


「いやっ。いやです…!」


 両手を俺の左手に押さえつけられているため、抵抗する手段が無いため口に頼る。だが、この対応も間違いだ。ここに居る奴も、”上”の世界にも言えるかも知れないが、相手に優位性を持たせるのが最悪の対応である。


「それでやめる奴がどこの世界に居るんだよ」


 …もうここまでで良いだろう。信用すると言う事はこういう事になる可能性も孕むと言う事だ。


 俺は美羽から離れる。美羽は何が起こったのか理解しておらず、ポカンとした顔で未だに地面に寝ている。


「探索の続きをするぞ。必ずしもお前の勘が正しいとは限らない。信用しようとするならそいつをしっかり見極めろ」


 首がこくこくと縦に動く。声を発することは出来ないが、言葉を理解することは出来たらしい。


 未だに地面に突っ伏している美羽に手を差し伸べる。美羽の目には今俺はどんな風に映っているのだろうか。犯罪者?それとも説教臭い奴か。俺が知る由も無いが、確実に嫌われたのでは無いだろうか。


 そこからは会話も無く探索を続けた。美羽の顔には気まずそうな雰囲気と恐怖が入り混じって…。

読んでいただきありがとうございます!


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