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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
21/71

21話

「「きゃぁぁぁぁあぁぁ!!!」」


ぎえぇ!肺が押しつぶされる…。


なぜこんな拷問を受けて楽しそうに笑ってるんだ。


「連理のばかー!!」


隣に座った美羽が満面の笑みで叫んでいる。どさくさに紛れて俺の悪口を言うな。聞こえてるわ!


そう、俺たちは今ジェットコースターと呼ばれるアトラクションに乗っている。


まあこれに乗るために一時間くらい待ったけどな。その間喋ることが無くてちょっと気まずかったわ。


「つるペタ暴力女」


ドシっ!


なんでだよ…。めっちゃ小さい声で呟いたが聞こえていたようだ。本気の肘うちが鳩尾に綺麗に決まる。



「どさくさに紛れてつるペタって言ったよね?罰としてご飯抜き」


マジギレやん。


「お前だって言ってたじゃねぇか。俺だけ飯抜きかよ」


「次は…この幽霊屋敷に行きますよ!」


無視された。まあ、晩飯の方が楽しみなので問題は無いのだが。


「お前幽霊とか無理だろ、無理すんな」


「バカにしないで、こういう場所の奴は作りものってわかってるから大丈夫なの!」


「なら良いけどよ」



「きゃー!!!!れれれ連理…何かに触られた!」


ほらな。結局こうなんだよ。


今や俺を盾にして進んでいる状況である。


「そりゃキャストも驚かすだろ…って作り物は大丈夫じゃ無かったのかよ」


「つつつ、作り物じゃない!本当に触られたの!」


何だってんだ。


「……み....つけ……た」


いつの間にか目の前に前髪の長い女が現れる。


「こ、これくらい作りモノって分かりやすかったら良いんですよ!!」


後ろの美羽が得意げに語る。


……おかしいな。この俺が気が付かなかっただと?それに…なんか様子がおかしい。


髪の隙間から見える虚ろな眼、普通の人間でないことは一目瞭然である。


「美羽、こいつなんかおかしいぜ」


取り敢えず報告はしておこう。


「そ、そんな分かりやすい脅しは通用しません」


「ツツケケケケケタタタ」


「え?なんて言ったんだ」


前の女が何かつぶやいている。


その様子がおかしい事は美羽もやっと理解したらしい。


「れ、連理これって…」


「ああ、どうやらホンモノ…らしいな」


「うぎゃー----!!!!!!!」


美羽が全速力で走っていく。


馬鹿が、変に離れられると面倒くさい。


「お前…本当に人間じゃ無いんだな?」


俺にとって幽霊も化け物もどっちも恐怖の対象ではない。むしろ知的好奇心を満たせる良き相手だ。


「タ………ケテ…おネがい」


はぁん。どうやら俺たちを襲ったりしたい訳では無さそうだ。


「よし、願いを言え。俺がそれを叶えてやろう」


丁度いい暇つぶしが出来たぜ。美羽がどっか行ったが…まあすぐ終わるだろう。


「アアなタイいヒト」


「ああ、完璧超人だからな。なんでも言ってくれ」


幽霊なんかにお願いされるなんてこの先無いだろう。いい経験になるぜ。


「カ、カぎヲミつけテホシい」


鍵だと?こんな所に鍵があるのか?


「何故鍵を?封印を解く鍵とかじゃねぇだろうな」


「おボエてナい。たダたイせツなモノ」


何だってんだ。仕方ねぇな。


「それはこの屋敷にあるって事か?それともこのパーク全体でか?」


「コこダケ…」


この屋敷って事だろう。


取り敢えず何か手がかりがあれば良いんだが…。


「手がかりは?流石にこの屋敷を隈なく探すのは骨が折れるぞ」


「…シんシツだトオモう」


案外話の通じる奴だ。気配が全くない分人間で無い事は確かだろうが、変な人間より話が通じるかも知れないな。


「って寝室ってどこやねん…」


「二かいノカドべや」


何から何まで教えてくれるなコイツ。もう自分で探した方が早いだろ。


「じゃあ行くぞ。お前も付いてこい」


コイツが居た方が見つけるのが早くなるだろう。


「ダめ…こコからウごケナい」


地縛霊か…。仕方ない、俺一人で行くしか無いようだ。


「じゃあ待ってろ。すぐに持ってきてやる」



「ここか…と言うより入って良いのか?」


二回に繋がる階段には立ち入り禁止の看板があった。多分入ることは想定されていない場所だろう。


「ま、良いか。今さら俺に倫理を語る資格など無い」


人殺しに比べたら不法侵入なんて可愛いもんだ。


「ここが寝室ね…寂れて悲しい雰囲気だな…」


ドアノブを回す。


「…開かないな。どうすっかこれ」


参った。開かないとなると無理やり突き破るか?


「仕方ねぇ…ていっ!!」


扉に力を込めたキックをお見舞いする。


どっしゃーん!!


「これでよし。探索だ探索」


「あなた誰…?」


うん?また幽霊か。扉の先には気配が全くしない女の子…年齢は五、六ってところか。


「鍵を探している流離の旅人だ」


取り敢えず今は無視だ。鍵を探すことが先決だ。


「お兄ちゃん…私って死んだの…?」


唐突だな。年端もいかない少女になんて答えるか迷ってしまう。


「いんや、意識があるなら死んでねぇだろ。実際俺と話してるじゃねぇか」


取り敢えず傷つかない範囲で答えるか...。


「お兄ちゃん…わたしこわい…これからどうなっちゃうの...?」


…確かにな。今こうして俺と喋っている以上こいつには意識がある。だが...どれだか過ごしてきたのだろうか。普通ではないことに気づいては居るのだろうな。


今後こいつの意識が無くなり、無に帰すならば…その恐怖は想像に難くない。


こんな子供に酷な話だぜ。


「大丈夫だ。実体がない事が生の基準では無い。俺が生きていると言ってんだ」


「お兄ちゃんやさしいね…。あとかぎってこれのこと?」


あ?気になる言葉が聞こえてくる。


「鍵だと?これが…特殊な形状だな」


嫌なもんを見せられたもんだ。


「これ...ままにつき纏っていた変な男の人が落としていったの」


まま…あの女の事か?って事はこの幽霊たちは家族だった訳か。何があったか知らないが…気の毒だな。これから幸せな人生が待ってただろうにな。


「何があったかは聞かねぇ…ただ胸糞悪いな」


この鍵…手錠とかの鍵に形状が似ている。よく拷問に使われる奴のな…。


”下”にはこれに似た奴が多かった。


取り敢えず...ピースは揃ったな…いったん下のあいつに渡しに行くか


「いっちゃうの...?」


「すぐ戻ってきてやる。だから今だけは我慢しろ」


「うん...わたし待ってる」


参ったぜ。時間も時間だ。美羽を待たせてしまっている。



「これか?お前…娘がいたんだな」


下の女の霊のところに戻り、鍵を見せる。もし違っていたのなら一から探しなおしだ。


「ああ...これ、これなの…」


鍵を大切に抱きかかえる。


って普通に喋れるのかよ。さっきまでの片言口調はどこ行ったんだよ。


「何があったかは聞かねぇ…ただあの部屋にまだお前の娘が残されてるぜ」


「ええ…でもどうしようも無いの…私ももうすぐ消えてしまうわ…」


「お前はそれで良いのか?たった一人の娘じゃないのか?」


女の子の顔が浮かぶ。長年一人だったのだろう、俺と会ったとき安堵と言った表情を浮かべていた。


「時間が経ちすぎたの…もう娘の顔も名前も思い出せない」


「それは大事な事かよ、会いたきゃ会う、逝く前にもう一度抱きしめてやるのが母親ってもんじゃねぇのか」


さっきから女の髪の隙間から覗く目には涙が浮かんでいる。その涙は実体は無いのかも知れない。しかし、今まで見て来たどの涙よりも儚く美しかった。


「だって!もうここから動けないのっ!会えないじゃない!」


女が慟哭する。魂からの訴えだな…。


「だったら俺が会わせてやるよ。その足についている枷が原因だろ」


さっきは気が付かなかったが…こいつは地縛霊なんかじゃない。こいつの足には足枷が付いており、それが原因で動けないだけだ。


だから目的を忘れていても鍵を探していたのだろう。娘に会うためにな。


「あんた立派な母親だぜ。決めた、最後まで見届けてやるよ」


女の足につけられた枷に鍵を差し込む。


カチャ…。ビンゴだな。女の足に付いていた枷に鍵穴を差し込んで回すと、枷がすんなりと外れた。


「あ、ああ…動けるっ!足が動くっ!!」


「だから言っただろ。あとこっちこい、その髪じゃ娘も泣くぜ」


リングの貞〇を彷彿とさせる女を招き、髪の毛をある程度整えてやる。


「結構美人じゃねぇか。こっちの方が似合ってるぜ」


口説き文句を入れておく。女はキョトンとしているが、その眼に映る涙は決して偽物では無いだろう、俺の勘がそう言っている。


「ありがとう、名も知らない優しい人。もうどうして死んだのかも覚えていないけれど…あなたにもっと早く会いたかった…」


「はっ、それも運命だ。次の人生は俺と早く出会えたら良いな」


人生は平等ではない。ただ、人生を嘆いても悲観しても意味は無い。だからこそ力強く生きる必要がある。


「ええ、そうね。でも決して悪くなかった人生だった気がする」


先を急ごう。この女…消えかけている。時間はもう残されていない。



「あ、お兄ちゃん!え………..ま、ま?」


扉は俺が壊したので無いが…女の子が女を見るなり言う。


「ああ....ああ...私の可愛い娘…ごめんなさい」


「あやまらないで、まま。わたし誰もにくんでいないよ」


ここであった悲劇を聞くことはしない。赤の他人である俺が覗き見るのも無粋だ。俺はただの鍵を探している流離の旅人だ。


「ごめんねっごめんね…。私が”護らなきゃ”いけなかったっ!」


慟哭が木霊する。それは魂からの本心だろう。娘もその言葉に含まれた愛を感じ取ったのか、一緒に泣いている。

愛か…美しいが、儚く脆い。いや…儚いからこそ放つ美しさか。


「ままっ!わたし次生まれ変わってもままと一緒にいるっ!」


「私もよ…かならずまた会えるから。絶対に会いに行くからっ!!」


その慟哭を聞き届けられるのは俺だけだが…


どれだけ離れて居たのだろう。それを俺が知ることは無い。ただ…来世の二人が幸せになってほしいと心から思ったのだった。


「逝ったか…俺も美羽のところに行くか」


部屋から出る時、ふと目につくものがあった。


「日記…か」


埃を被って紙も劣化を持つだけで今にも崩れそうだが…まだ文字は読める。


「いや、この思い出は二人だけのものだ。俺が覗き見るのは趣味がわりぃな」


ただ…あの二人の思い出を埃に埋もれたままにして良いのか…判断に迷うな。


「仕方ねぇ、呪うなよ」


お前らの”生きた証”、俺が一生刻んでやる。


ぼうっ!


儚く燃え行く、思い出の欠片。心なしか…その炎は暖かい気がした。

明日は多分更新が無いです。実家に帰ります。

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