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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
2/64

少女と一緒に

「じゃあ探しながら”上”の話を教えてくれ」


 探しながらでも話は出来る。


「そうしましょう。でも何から話せば良いのでしょうか?」


 参ったな。”上”の世界について何も知らない為何を聞けばいいのか分からない。


「なんだっていい。そっちの世界の食べ物でも施設でも」


 本当になんだって良い。俺が特定の知りたい事なんて無いのだから。


「そうですね.....。私は高校生になったばかりなので、少し世間知らずな所もあるのですが」


「それは間違いなくそうだろうな」


 こんな所に一人で来る女なんて見たことが無いぜ。ましてや高校生と来た。


「ここには学園などは無いんですか?」


「そんなものは無い......と思う」


 俺も別に”下”の世界に詳しい訳では無い。記憶はここ数年の記憶しかないからな。


「向こうでは22歳まで教育を受けます。人それぞれなんですけど基本的にはそうです」


「それは何故だ?何のために教育を受けている?」


 ”下”の世界に教育などは無い。力が正義だ。


「良い職業に就くためだったり、自分のなりたい夢に近づくためだったりです」


 夢......ね。知る由も無いが俺にも夢はあったのだろうか。


「お前の夢はなんだ?こんな辺鄙な場所に来るからには面白い夢だろうな」


 茶化しながら言う。


 しかし真面目そうな顔をして美羽が言う。


「”上”と”下”の区別を無くすことです。こんなの歪すぎます」


 なるほどな。美羽はここの人間は虐げられていると思っているのだろう。満足に教育も受けられない、生きるのに精いっぱいな人間を哀れんでいるんだろう。


「お前が思っているよりここの人間は普通じゃないと思うぞ?」


 だがそれは美羽の主観であり、実際は違う。ここで生きている俺が見てきた住人は被害者意識など無い。好きに生き、勝手に死ぬ。ただ本能に生きているだけだ。誰かの助けなど欲していない。


「それはそうかも知れないですけど...。でも中には連理さんみたいな方もいると思うんです」


「こんなイケメンが居てたまるか!」


「自分でイケメンって言わないで下さい。価値が下がりますよ」


 そっけなく返される。


「まあでも実際ここの奴らは助けなんて求めてないと思うぜ?むしろ上に行けたとしても、ここに残る奴が大半じゃないか?」


 実際ここでは犯罪を犯しても誰も罰せない。警察などが介入することも基本無い。てか警察なんて居ない。


 それほどまでに荒廃しきっている。


「それでもすべての人が等しく教育や支援を受ける権利はある筈だと思います」


 権利か。確かに権利はあるのかも知れない。まあその権利を掴む掴まないも個人の自由だがな。


「権利はあるだろうな。自分から手放さない限りな」


「権利を手放すなんて理解できません......」


「まあ良い。お前が高尚な夢を掲げていることは理解した。次の話だ」


「............。次は大きな店が集中したショッピングモールと言う施設が最近できました」


 何か言いたそうな顔をするが次の話に遷る。


「ほう。それは凄そうだな」


 この辺りでは店は露天商位だ。それも売っているのはカエルやネズミなどの小動物。食べれるが勿論食用では無い。そこら辺のドブネズミだ。変な病気に罹ろうとも誰も助けなどしない。


「はい。色々な物がそろっていて凄かったです。でも一人で行くのは嫌ですね…」


「それは何故だ?お前の無くした指輪だってそこに売ってるかも知れないだろ?」


 こんな場所に一人で来る奴が一人で行きたくない場所とは気になるところだな。


「そこで失くしたんです…。情けない話ですが」


 向こうの世界にも性質の悪い人間がいるんだな。こんな年端もいかない少女をここに来させるなんてな。


「そもそもここの人間が”上”に行くことは出来るのか?」


「ゲートを通る必要がありますけど、審査に通れば可能だと思います」


 ”上”に行くことも無理では無いのか。いずれは行ってみたい気持ちも少なからずある。ここは俺にとって少し刺激が足りないからな。


「審査って何が必要なんだ」


 ”上”に行くための条件を知っておくのは今後必ず有用だろう。


 余りに不条理な条件などで無ければな...。


「私は特に審査などは無かったので何が必要とかは分からないです」


 申し訳なさそうに頭を下げる。こちらの住人をそう易々と”上”の世界に行かせるとは思わない。美羽がなぜこっちに来れているのかも疑問だ。普通こんな少女を一人でこの地へ行かせるとは思わない。何やらきな臭いと言うか仕組まれていると言うか…。推測にすぎないが。


「お前も”下”に来るならせめて護衛やら付けろ。自殺してぇのか?」


 一応警告をする。今後こんな場所に来るとは思わないが、一応な。


「そ、それは知らなかったんです…。だってこんな所聞いたことも無いですし......」


 確かにここは”下”でも特殊だからな。”上”の人間が知らないのも無理はない。ましてや十五、六の少女が知る由は無いだろう。


 現在は大体昼の二時程なので住民が活発に活動している訳では無い。少女が夜に来ていたら辿る結末は違っただろう。


「夕方までにはここから出た方がいい。お前を護りながらじゃ限界がある」


 ここの奴らは群れて生活している奴らでは無いが、人を殺すことに躊躇する奴らでもない。さっきの喧嘩を売って来た男も今日来たのだろう。ああいう奴はここでは1日と経たずにこの世から居なくなる。

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