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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
18/74

18話

「希望…やはりあの男は怪しいわ…私たちの本願を邪魔する存在かも知れない」


「大丈夫だよ。俺に勝てる奴なんて居ないからね。それこそあの男も敵ではないよ」


男は心の底からそう思っていた。男は生まれながら完成されていた。知力、武力、経済力、全てを持ち合わせ生まれてきた。


”上”に立つものの資格を持つ。それはまさに”王の器”と呼ぶに相応しい。


「希望がそういうならそうなのでしょう。貴方が嘘をついた事なんて今まで無かった」


「ああ。連理…かあの男も俺と同種だね。”王の器”がある」


「あなたがそんな事言うなんて珍しい。それ程までに厄介なのね…」


「厄介…いずれはそうなる可能性もあるのかもね」


「ええ、愛しているわ…私たちの望む”世界”の為に」


「フィルの為に…”誓おう”」


電気が消える。文明の象徴が無くなった事により月明かりが部屋を照らし、男女の影を映し出す。


その影は次第に重なり一つになっていく……。


。

。

。


「連理!!歓楽街行ったでしょ!?なんで!?」


「なんでってそりゃ一つだろ。歓楽街に行く男なんて」


「ば、馬鹿!もう知らない!」


まあ別にする事したわけじゃ無い。哲学教諭が歓楽街に入っていくのが見えたから付いて行っただけだ。


なぜ俺が歓楽街に行ったのを知っているのか知らないが…。いや何故だ?


「フィリアさんに教えて貰ったの!」


俺の心を読まないでほしい。と言うかあの女…俺に監視でも付けてやがるのか?


「心配すんな。東城が居たから尾行しただけだ」


「せ、先生!?まさか…ギャング絡み…?」


「まだわからん。ただ…そういう店で働いている訳では無さそうだ」


「そ、そう…焦って損した」


もう興味が無くなったのか何処かへ消えてしまう。


。


。


「またあの女か」


次の日もまた東城が歓楽街へ入っていく。


「気配が強いな。それに…いや気のせいか」


少し血の匂いがしたが….直ぐに消えてしまった。


誰かが処女を散らした可能性だってある。流石にそんな少量の血は流石に嗅ぎ分けれないけどな。


「取り敢えずついて行くか」


。


「ええ。最近ここで何か事件があったでしょ?その詳細を教えて欲しいの」


なにやら話しかけているらしい。が、話しかける相手を間違えたな。


「へ、へへ。良いぜ!でもここじゃなんだ、ついて来てくれ」


「私はここでも構わないけど…まあ良いわ連れて行って頂戴」


「じゃあ付いてきな」


全く、”上”の奴らってどいつもこいつもこうなのか?疑う事さえしない、その下心に気づくことも無くな。


此奴が犯されようがどうでも良いが…生憎恩を売るには丁度良い相手だ。成績に少しでも良い影響があるかも知れない。成績は既に底についている可能性があるが...。


「ここ?個室である必要は無いと思うけど…」


男に連れられて来たのは廃アパートの一部屋だった。ここならば誰にも気付かれないだろう。


「お決まりっちゃお決まりだな」


もし危機に陥ったら助けに入るとするか…。


暫くは様子見だ。


「それで…ギャングについて教えて欲しいのだけど」


「ああ....たっぷりと教えてやるぜっ!!!」


「きゃっ!?急に何をするの!?」


「何って、ナニだろ?お前チョロすぎ」


下卑た笑みを浮かべ男が答える。


「それに…俺もそのギャングの一員って言ったら?」


「なっ!?あ、あなたが!?許さない!」


東城がマウントを取られているが気丈に睨みつける。が、この状況で女が出来る事なぞ限られている。特に対格差のある相手には無力だろう。


「やめて!!!離せっ!!!」


「何言ってんだよお前、お前はこれから一生俺の性奴隷だ!!」


「嫌っ!!誰か助けて!!」


東城が泣き喚く。そんな女が泣き喚く事に愉悦を感じているのか、男の顔に気持ち悪い笑みが浮かぶ。


そろそろか。もっと情報を引き出して欲しかったが…。


「誰も来やしねぇよ!ここは俺だけの場所だ!」


「誰も来やしないって?じゃあ俺は幽霊か化け物か?」


男の頭を鷲掴みにする。


「な!?誰だお前!?どうしてここに!」


「そりゃその女は俺の連れなんでな。手を出したら殺す」


コイツ相手に切り替える必要は無い。ギャングの一員と言ってはいたが…”下”から来たわけでは無さそうだ。ここ最近”下”の雰囲気を纏っている奴が殆ど居なくなった。


「き、君は!?転校生!?どうしてここに…」


「どうしてだ?そりゃこっちのセリフだろ。教師がこんなとこで男漁りかよ」


「ち、違う!私はただ…」


それから先は言い淀む。言いたくない事は誰にでもある。それを強要しようとは思わない。


「お前ひとり乗り込んで何が出来るってんだ!殺してやる!」


男が東城から降り、こちらに突進してくる。その重量から相当な力であろう事が伺える。


ここは敢えて受けるか。純粋な力勝負といこうか。


「おらぁっ!!!!死ねや!」


「うおっ結構力強いじゃねぇか」


正面から受け止めるが…思ったより衝撃が強い。軽く後ずさりをしてしまった。


「な、なんで平然としてやがる!?クソがっ!!」


次はパンチか。しかし大ぶりも良い所だ。


「力だけが取り柄か?その力も俺に負けてる様だが」


「な、なんだってんだ!?このガキ!」


「き、君は一体…」


東城が困惑の目で見つめる。


「クソガキが!!これでも食らいやがれ!」


男が下に落ちていたガラスで切りかかってくる。


「危ない!避けて!」


ずぶっ…。ガラスの先端が腕に突き刺さる。結構深いな...。


「へ、へへざまぁ見やがれってんだ」


「何がざまぁだよ。目の前の奴が死んだとでも思ってんのか?」


ぶしゅっ!ガラス片を抜くと血が噴き出る。その勢いは強く、東城の顔に血しぶきが飛んでしまう。


「よっと!」


流れた血を相手の目に向けてかける。


「くそっ!目が見えねぇ!」


瞬間的に男の視覚が奪われる。


その隙に男の首を持ち上げる。


「ぐぇっ!や、やべてくれ…」


命乞いか。どの世界も最終的に相手に希う。

殺す価値すらねぇ。この末人どもが。


「今からお前に問う。答えなければ殺す」


「ば、ばかったから、はなじてくれ!」


取り敢えずこのままでは死んでしまうので放してやるか。


「一つ目だ。ギャングは何処だ」


「し、知らねぇ!いつの間にか消えてたんだよ!?」


何?どういうことだ。俺は確かに例の奴は燃やしたが、誰も殺してはいない。


アイツらがあれ程度で諦める訳が無い。


「嘘をついたら殺す」


「ほ、本当だ!信じてくれ!」


誰がお前を信じるんだ。


「次だ。アレは何に使う」


「お、俺達下っ端には何も教えられていない!本当だ!!」


「次だ。何年か前に東城の家を襲撃した理由を話せ」


これは俺が知りたい訳では無いが…知っておいて損は無いだろう。


「そ、それは…」


「吐け。じゃないと殺す」


「…」


東城も事を静かに見守っている。知りたいのだろう。真実が。


「あ、あれは上がそう命じたんだ!俺たちの邪魔になるからって!!」


「邪魔?何故邪魔になる」


「東城は”上”に潜むギャングの撲滅を掲げていた…だからだ!!!それだけだ!」


「そ、それだけで私のパパとママが…?」


「何故お前らは捕まらない。警察とグルか」


「け、警察にスパイを配置しているらしい!それ以上は本当に何も知らねぇ!」


「もう良いか?何か聞きたい事があるなら言え」


逆らったら殺す。


「大丈夫…明確な敵が認識できたわ。助けてくれてありがとう転校生」


「まだ首を突っ込む気か?命が幾つあっても足りないぜ」


「大丈夫よ。私の人生はもう決めたもの」


その顔には決意や憎悪と言った感情が滲み出て、いつもより幾分か綺麗だった。

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