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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
14/70

生徒会の初任務

「連理、いまから生徒会なので付いてきて」


放課後美羽から告げられる。


「俺に拒否権は無いんだよな」


「よくご存じで」


笑顔で答える。全く人使いの荒い奴だ。


しかし…生徒会って事はあの女と会うという事だろう。気が滅入るが美羽がいる以上そうも言ってられない。


「生徒会は毎日あるのか?」


「毎日じゃないけど…週二回くらいかな」


週二回もあの胡散臭い女と会わなきゃいけないのか…。



「美羽さん、授業お疲れ様。連理さんも初めての授業はどうでした?」


”フィリア”が既に生徒会室に居た。


「お疲れ様ですフィリアさん。会長はいつも通り居ないみたいですね」


「ええ。彼は忙しいみたい。そういえば連理さんに紹介してなかったわね」


フィリアがそう言うと後ろから執事が出てくる。


「初めまして。私フィリア様の護衛をさせて頂いているキルです。よろしくお願いします」


「……ああこちらこそよろしく頼む」


コイツ…気配が全く感じなかった。こんな感覚は”下”でもそうそう無い。


相当な手練れか…?


キルは既にフィリアの後ろだが、その所作も隙が無い。


「会長はいませんが…今日も仲良く生徒会活動をして行きましょう」


生徒会で何をするのか俺は全く知らないが、適当に過ごしていれば良いだろう。



「俺はいつお手伝いさんになったんだ」


現在部活動で使うらしい道具を運んでいる。生徒会は今のところ女子生徒だけらしいので必然的に俺が運ぶことになった。キルとか言う奴も他の部活の道具を運んでいる。


「まあまあ、偶には運動するの気持ちいいでしょ」


「別に運動不足じゃねぇよ。美羽、お前の方が運動した方が良いんじゃないか」


その慎ましい胸が少しは大きくなるかもしれないぜ。


決して口に出さないが。


「痛!なんで蹴んだよ」


「今失礼な事考えたでしょ」


バレていたらしい。


美羽と二人でじゃれついていると少し先の部屋から音が聞こえる。


どうやら喧嘩なのか、一方的な虐めなのか分からないが、争ってはいるみたいだな。


「うるせぇっ!!この部室は俺達サッカー部の場所だろ!?」


「は!?もともと俺達の場所だったのをお前らが盗ったんじゃねぇか!!」


部室の争いをしているらしい。


「そこまでです。この部室はサッカー部の部室と先日決まっています」


美羽が喧噪の中、乗り込み言い放つ。


「だから言ってんじゃねぇか!!早く野球部は帰れよ!」


「なんだとこの野郎っ!!じゃあ俺達野球部の部室はどうなるってんだよ!?」


「野球部は三年Cの教室を使ってください。確かに元は野球部の部室でしたが、昨今の全国大会の成績などを鑑みてサッカー部となりました」


全国大会の成績などが部室を選ぶ権利が有るのか。実力主義は嫌いでは無い。


「部長!部室が盗られたままで良いのかよ!?」


野球部の部員が叫ぶ。嘆いたとて状況が変わるわけでは無いが、何かを起こすには十分なのかも知れない。


「そういえば、俺野球部にこの前急に殴られたんだよ!!部長やり返す権利ありますよね!?」


中々怪しい展開になってきた。お互い溜まったフラストレーションをここで発散しようとしているのだろう。


「喧嘩は止めてください!最悪の場合停学や退学の可能性もあるのですよ!」


美羽が警告をする。


が.....すでに両社の耳には届いていない様だ。


「お前廊下でわざとぶつかって来たよな!!オラァ!!!」


野球部の一人が先陣を切り、サッカー部に殴りかかる。


ここからは美羽に出来ることは無い。声を張り上げ喧嘩を止めようとしているが、間に立つのは既に無理な状況だ。


「いってぇな!!」


殴られたサッカー部が激昂し野球部につかみ掛かる。


これが反撃ののろしとなり、サッカー部と野球部の本格的な争いとなった。



「どうする?長引くんだったら俺が止めてやるぜ」


一応美羽に聞いてみる。


「…まだ会話の余地は残ってるかもしれません」


美羽がそう答えた。という事は美羽の中にまだ何か”策”が残っているという事だろう。


ここは静かに見守っててやるか。


「野球部のみなさん聞いてください!部費が今年から上がります!」


ずこー!!それだけかよ!


しかもそれは喧嘩に発展する前に言えや!!


「お前だけは絶対に許さねぇ!!」


ほら聞いてすらいない。思ったよりポンコツな所を披露してくれるお嬢様だこと…。


「れ、連理お願い。少し手荒でも…」


「ったく…余計な仕事増やしやがって」


「な、なんだお前!」


「何物騒な事言ってんだ。子供の喧嘩はこれで終わりだ」


俺が野球部の一人の首根っこを掴む。持ち上げられると思っていなかったのか、男は激しく抵抗をする。しかし、まだ十五、六の子供に筋力では俺に敵わない。


「屈辱か?心配すんなこいつ等全員同じ目に合わせてやるぜ」


両者とも異変を感じこちらに注目し始める。


「お?俺は人気者にでもなったか?」


「なんだよお前!一年の坊主は黙ってろよ!!」


一応制服で年代が分かるらしく、俺は一年の制服を着ているらしい。


まあ美羽と同じクラスなので間違ってはいないが、それが実際の年齢とは限らない。


「じゃあ力づくで止めてみるんだな」


一気に両者のヘイトが俺に向く。


「ちっ!お前ら此奴が先だ!!」


サッカー部の一人が言うと一気にサッカー部が突撃してくる。


「数が多いな…面倒くさいが、少し手荒になるぜ」


手前に居る奴の顔を鷲掴みにする。顔を掴まれた奴は抵抗しているがその力は子供の筋力に過ぎない。


「ほらよっと」


鷲掴みにした男を集団に投げつける。数人に命中し、その質量から衝撃は相当なモノらしく暫くは立てなさそうだ。


「な、なんだこいつ…普通じゃねぇ!」


「お、お前ら囲め!この人数だ!負ける筈がねぇ!!」


それは正しい選択だな。基本的に”集団”に対し”個”では敵わない。ヒグマがオオカミに狩られるみたいに”個”での限界はある。


が…それは”集団の個”が弱くない場合だ。ヒグマに対し蟻ではどうしようも無いみたいに”集団の個”も質が求められるわけだ。


「今だ!動かない内に抑え込め!」


一気にこちらに肉薄してくる。


「よし!掴んだぞ!」


今は好きにさせよう。人間は希望が打ち砕かれた瞬間が一番絶望するからな。


「こっちも掴めた!こいつはもう動けないぜ!」


あっという間に四肢を固められる。


「カッコつけたって一人で出来る事は無かったな!」


「れ、連理!」


美羽が心配した目で見てくる。本当に心配しているのかは知らないが、まあ心配はしてくれているだろう。


「あー…まあこんなもんか」


掴まれている右腕を動かす。少し重いが…大した問題では無さそうだ。


「な、なんでだよっ!?なんで動けんだよ!!」


俺の腕を掴んでいる男が叫ぶ。その問いに対する回答はただの筋力の違い…としか説明できない。


「お前ら!二人が狩りで押さえろ!」


何人かくるが、もう待つ必要は無さそうだ。


「お前は上に立つ資格がねぇな」


両腕にしがみ付いている男二人を力任せに投げつける。


感じたことがないであろう遠心力に為すすべなく吹き飛ばされる男たち。


「な、なんだってんだよ!俺たちが何したんだ!」


野球部のリーダーらしき男が叫ぶ。


「俺に言われてもな、ただ面倒くさい事に付き合わされた腹いせだ」


男は勝てないと悟ったのか膝から崩れ落ちる。


「お、俺は関係ねぇ!」


部員たちが次々部屋から出ていく。


薄情な奴らだな。


「行くぞ美羽。もうここでやることも無いだろ」


「え、ええ。行きましょう」


サッカー部と野球部の争いは呆気なく幕が閉じた。

集団の個...なかなか難しい問題ですね

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