生徒
特に話す事が無いな。
美羽と並んで歩いているが、会話が無い。
「何故俺を選んだ」
と思っていたが、口からふと漏れてしまう。
昨日少し考えていた事だった。
「え?…急だね…」
ずっと疑問だった。なぜ俺をここに来させたのか。美羽が悩みながら口を開く
「シンプルに能力があるか…って話。勿論、能力が無いなら別だけど、連理は能力があるでしょ?」
「だからだと?」
俺以外にも出来る奴はいる。なぜ俺なのかと言う疑問だが…。
能力の定義だって曖昧だ。何をもって力とするのか…。その回答を俺は持ち合わせていない。
「それも一つ。他の理由は教えない」
なんだそれ。”上”の人間は呑気と言うか、警戒心が無いように感じる。まるで私が殺さる訳ないと心の奥底に秘めている。
「俺は…いやなんでもねぇ」
あれは…学園の生徒か?俺達と同じ制服を着ている奴を見つける。
「あれは生徒か?」
「そうだね…多分上の学年かな」
学園は年功序列らしく、より歳をとっている奴が偉いらしい。
「お前より偉い奴か。俺の方が偉いけどな」
「張り合わないで良いのに…」
美羽は他の学生に特に話しかける訳でもなく淡々としている。
思ったより社交的では無いのかも知れない。
「そろそろ着くからあまり変な事言わないでね…」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「今朝の事忘れないからっ!」
ち〇こ如きで大げさな。
少し歩くと大きな門が見えてくる。多分これが学園の門なのだろう。
「ちょっと待ってて、警備さんに言わなきゃだから」
そう言ってどこかに行ってしまう。
ふぅむ…待ってるのも癪なので探検でもするか。
。
「これは…なんだ」
暫く歩いていると人に囲まれる。主に女だが、男も若干混じっている。
少し思っていたが…男女比率は女子が相当高いらしい。見た感じだと八対二くらいか。
「え~!転校生っ!?結構イケメンだ~」
「くそっ!俺達だって!」
「他の男子ってなんかガキっぽいよね~」
付きまとわれているが、俺からしたら話しかける理由もない。
このままつき纏われるのも嫌なので引きちぎるか検討をしていた所、美羽の声が聞こえる。
「だ・か・ら!なんで動いてるの!!!」
「突っ立っているのも暇だろ?」
「それだけ…?」
「ああ」
心底バカを見る目で見られる。
「…こっちに来て」
美羽に心底呆れられた目を向けられながら付いて行く。
「どこ行くんだよ」
「それはこっちのセリフ!今から理事長室」
理事長室だぁ?何のためにそんな所に行かなきゃならん。
決して口には出さないが…。
「それにちやほやされたからって勘違いしないでっ!ここの生徒は異性に慣れていないだけだから!!」
「へいへい…って勘違いしてねぇよ」
勘違いってなんだよ。決して気分が良くなった訳無いんだからね!
「あれ、美羽さん…そちらの殿方は?」
暫く歩いていると話しかけられる。
「あ、フィリアさん!こっちは連理で私の従者です」
「あら、美羽さんが従者なんて意外ですね。それに殿方ですし」
何やら意味深な目で見つめられる。
「逆だ逆。俺が主人で従者が美羽だ」
「あらっ!それはそれは…」
「違いますっ!!!騙されないでフィリアさん!」
「ふふっ…面白い殿方ですね」
美羽に睨まれるが、このフィリアとか言う女…少し妙だ。
何が妙なのか自分にも分からないが…違和感がある。
「あ、こちらはフィリアさん。生徒会の副会長をしている方です。決して無礼の無い様に!」
美羽に釘を刺される。
「ああ、よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね。連理さんも生徒会に?」
俺が生徒会?そもそも生徒会とはなんだ。
「そうですね…私が居る時は居させようかなぁっと」
「俺はお前の奴隷かよ」
「似たようなものでしょ?」
…奴隷と言った瞬間に女の目が少し険しくなる。ほんの一瞬だったが…確かに殺意を孕んでいた。
「それではフィリアさん私たちは理事長室に行くのでそろそろ失礼します」
「ええ、また生徒会室で待ってるわ」
そうして一旦の解散になる。
。
「美羽…あの女は?」
「え?生徒会の副会長ってさっき…」
「そうじゃない。もっと深く教えてくれ」
俺がそう言うと少し不機嫌そうな顔をする。
「…なんで?もしかして一目ぼれ?」
「違ぇよ。あいつ…少し変だぜ」
「どういう事?ずっと私の先輩だったけど…」
気のせいか?なんだこの違和感は…。
「いや…やっぱ気のせいだったかも知れねぇ」
「あ、着いたからこの話は一旦終わり」
美羽が扉を数回ノックし中に入る。
また待機かよ。
。
数分経った頃、美羽が中から出てくる。
「連理、入って」
促され中に入る。
「君が連理くん…かい?」
「ああ。俺以外に誰が居るか?」
「れ、連理冗談はここでは無し」
「いやいや大丈夫だよ烏丸くん。それにその問も正しい」
「で、でも…」
「私は大丈夫と言ったよ」
「分かりました」
「連理…上の名前はなんて言うんだい?」
「……燕だ」
「今の間が気になるけど…そう言う事にしておこう」
「話が分かる奴は嫌いじゃない」
まるで俺を吟味するみたいな会話だ。嫌いだぜこう言う奴は。
「君は…”力”とは何だと思う?暴力か、正義を貫く信念か」
また抽象的な質問だな。
「…筋力って回答は嫌いか?」
「私は嫌いだ。それはこの質問の意図したものでは無いからね」
やはりな。こいつの性格が少しわかった気がするが、面倒くさい奴だ。
「”護りきる力”ってのはどうだ?」
「ほう…。それは何故だい」
「暴力も正義も大事なモノを護る訳では無い。特に正義はな」
大事なものは自分の命だってそうだ。暴力も正義もなにかを護る為に振るう力としては適切ではない。
「…護る力か。初めての回答だね…しかし面白い!気に入ったよ」
護る力ではない、”護りきる力”だが、変に訂正するのも面倒だ。
「それは良かったぜ」
お気に召したらしい。適当に考えたんだがな。やり過ごせたのなら良しとしよう。
「しかし…護る力を君は何に使うのかな?烏丸くんかい?」
「私!?そ、それは嬉しいですけどぉ…」
くねくねしながらぶつぶつ独り言を呟いている美羽はひとまず無視しておこう。
「その質問に意味があると思うか?」
「はっは!意味は無いね!…君は相当勘が良い様だね…この学園に来てくれて私は誇らしいよ」
「が、学園長…どうしたんだろ」
美羽は学園長の豹変ぶりに困惑している。
「狂ったみたいだから行こうぜ」
そう言って部屋から出る。
「えぇ...連理あとで理由を…」
美羽が失礼しますと声を掛け退出する。