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ヴァニタスの鳥籠  作者: 鮭のアロワナ、しゃろわな
一章
1/70

出会い

初めまして。拙いですが読んでもらえると嬉しいです。ゲーム用シナリオの練習をしています。

 人は何を目的とし、生きているのだろうか。そう考えたことは無いだろうか。労働?子孫繁栄?それは多種多様だろう。


 お前の生きる目的はなんだ、と聞かれてすぐに答えられる奴は居ないんじゃないだろうか。本来は成長する過程で見つけ出すもの、将来の夢と言っても良いだろう。サッカー選手、政治家、パティシエ…etc。だが実際には殆どの人間は時の流れに従いサラリーマンやOLに行き着く。自分の目標すら差し置いてな。就活などで経験した事があるだろう。このまま仕事に就き、結婚し子孫を残す。漠然と元の目的は希薄に成り、こういった無難な結末に辿り着く事が多いんじゃないだろうか。それは時間の流れとともに目的が変化していったのだろうか。それともそうせざるを得ない状況になったのだろうか。


 歪だと思わないか?それは本来の目的から外れた行動だ。誰だって仕事などしたく無いだろう。金銭的面で必要であるだけだ。大体の奴は金持ちや有名人を見て俺もこう成りたかったと思った事があるだろう。大人になっても羨望や嫉妬の感情は消えることは無い。むしろ劣等感と共に増幅する。


 少し長くなったな……。結論を述べよう。目的が乖離し、ただ偽りの目的を持つ空虚な人間。それが今の大多数に言える事だ。


 偉そうに講釈垂れてるお前はどうだって?俺か?


 俺はさらに空虚な人間であることは間違いないだろう。別に思春期特有の病気って訳でもないぜ?


 ただ記憶が無いだけだ。俺が何者だったのか、何を目標に生きていたのか。何も思い出せず只町をぶらつく浮浪者だ。


 だったら説教じみた事を言うんじゃねぇよ…なんて反論は求めてないぜ。俺だってこの歪な社会になんの不満も持ってない。只、空虚に感じているだけだ。


「おい!てめぇどこ見て歩いてやがんだ!」


 おっと。考え事をして歩いていたため、誰かにぶつかってしまったらしい。


 これは完全に俺の落ち度だな。素直に謝罪し、許しを請おう。


「あ?なんだお前。殺すぞ」


 完璧な謝罪だったな。誠意を見せる為、眼も飛ばしておいた。


「喧嘩売ってんのかこの野郎!」


 寧ろ悪化してしまったらしい。


 激昂したのか、男が拳を振り上げる動作に入る。俺を殴るつもりであろうことは考えるまでも無いだろう。


「なにしてるんですか!」


 直ぐ後ろから女の声がする。治安の悪いここで女が居るのは珍しいな。と思うと同時に目の前の男のパンチを後ろに避けると言う選択肢が無くなった。


「うるせぇんだよっ!!」


 男が激昂した顔で俺に殴りかかる。


 男の動作に集中する。腕を大きく振り上げた素人同然の動き。このまま顔面に拳が到達しようとも大したダメージでは無いだろう。筋力もそこまで有るわけでは無さそうだ。


 俺は自分のご尊顔でパンチを受け止めることを決意する。


「……。」


 頬に拳がぶつかる。力の方向に受け流す事も出来るが……。そのまま受け流さずにパンチを受ける。


 特に痛みは感じない。勿論成人男性の筋力ではあるためそこそこの威力ではあるのだが…。


「大丈夫ですか!?」


 女の声がしてようやく後ろを振り返る。そこには齢十五程の少女が立っていた。髪は長く白髪?銀髪に近いか。色白でまるで西欧の名のある陶器みたいだ。まあ要するに美少女って事だな。


「ここで大丈夫じゃないって泣き喚いても良いのか?」


「そ、それは良く無いかもですけど…」


 何やら困った顔をしている。まあこのまま俺が泣き喚こうがこの少女に出来ることは少ないだろう。なにせ子供と大人だからな。それも筋力差のある男女と来た。


「でも!喧嘩は良くないですよっ!」


 喧嘩も何も俺は手を出していないが。完全に言いがかりである。


「なんだこのチビ。っち、なんか覚めたわ」


 舌打ちをして男がこの場から去ろうとする。俺を取り残さないでくれ…。と涙目で男に視線を送るが男は既に振り返っており俺の思いが届くことは無かった。


「喧嘩だって話せば分かり合えますよ」


 少女が語り掛けてきた。


「それは良かったな。じゃあな」


 俺は一言そう告げこの場から逃走を試みる。無理に反論する必要も無い。流れに身を任せるだけだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!あのっ!」


 少女が慌てて駆け寄ってくる。


「なんだよ。まだなんか説教でもするつもりか?」


 こんなガキに説教されるとは夢にも思って無かった。


 ましてや”こんな”場所に女が来ることなんて無いからな。


「ちょっと道案内をして欲しくて…」


 ただの迷子だったらしい。


「………。嫌だね」


「そこを何とかっ!お金なら沢山あります」


 そう言い少女が手さげ鞄から財布を取り出す。


 まずいな…。ここはまだ入り口だったから良かったが、ここ一帯はギャングや半グレ、犯罪者の巣窟である。そんな所でこんな身なりの良い美少女が歩いて財布を出そうもんなら、犯された後に身ぐるみ剝がされて売られるぞ。


「出すな。死にたいのか?」


 少女はそれを理解していない。ここまで来れたのは時間帯が嚙み合ったお陰だろう。


「な、なぜですか?私はただ盗まれた指輪を取り戻しに来ただけです…」


 少女はビクッと肩を震わせ言葉を漏らす。


 なるほどな。少女は”上”の奴だ。まあ身なりから分かっちゃいたが。だからこそ、ここがどういう場所なのか理解していない。


 まあ察するにこっち側に来た時に掏られたってオチだろう。クズな奴らからここに来れば見つかるかも知れないっておまけ付きでな。


「生憎こんな所にアクセサリーショップやら質屋やらは無い」


 ご愁傷様だと付け加える。


 少女は絶望した顔をしながら俯く。ここ一帯の空気感で薄々気づいてはいたのだろう。


「お金は払うので探すのを手伝っては貰えないでしょうか…」


 相当な代物なのか。それとも形見の類か。とりあえず少女にとって大切なものであることは分かる。


「それは無理だな。指輪がお前にとって大事なものかどうか俺は知らんが、少なくとも盗まれたってことは確実だぞ?」


 こいつは落としたと思ってるのか、思い込んでいるのか知らんが…。時間の無駄になるだけだ。


「………。それでも私は見つけなきゃいけないんです」


 泣きそうな顔をしながら言う。この様子ではこのまま一人で探しに行きかねない。


 そうなった場合この少女の辿る結末は一つだろう。


 はぁ......。どうやら俺に人の情があったらしい。いや、ただ暇つぶしに丁度いいと思ったからだろうか。


「暇つぶしに丁度いいか」


 こいつの変わり果てた姿も見たくは無いしな。寝ざめも悪い。


「手伝ってくれるんですか…?」


 顔をぱぁっと輝かせ少女が言う。その笑顔が眩しくて日焼けしそうになる。


「勿論無償とはいかないぞ?」


「はいっ!!報酬なら幾らでもありますから!」


「金なんていらん。お前”上”の人間だろ?”上”の世界について聞かせてくれよ」


 俺にとって知識とは全てだ。”上”の事が知れるならそれで良い。俺に関する手がかり見つかるかも知れない。


「それだけで良いのですか?」


 生憎ここで生きていく分に金なんてただの紙切れだ。暴力が正義って場所だからな。


「ああ。それと俺はお前の身の安全は約束するが、お前が納得が行くまで探すってなるとここは広すぎる。自分で落としどころは見つけてくれ」


 これは保険だ。指輪なんて小学校のグラウンドに落ちても見つけるのに時間が掛かる。ましてや町クラスになると見つけることは不可能に近いだろう。それに指輪が落ちている可能性はゼロに近いだろうからな。少女にそれを言ってもしょうが無い。


「ここってそんな危険なんですか…?」


「お前らにとっちゃ危険だろうな」


 ここで生活している奴らからしたら楽園なんだろうが。暴力、ギャンブルなんでもござれって感じだ。


「では護衛をお願いします。それと私は烏丸美羽って名前ですので美羽と呼んでください」


「じゃあチビで」


「なんでですかっ!!美羽って言ったじゃないですか!」


 顔を膨らませぷんぷんと怒る。


「別になんだって良いだろ。ガキじゃあるまいし」


「むむむ……。じゃああなたの名前を教えてください。不便じゃないですか」


「俺か?俺は…」


 しまったな。自分の名前が分からないなんて言ったら怒られそうだ。誰かに名を告げる事なんて今まで無かった。


「し、しんじだ」


「今の間は何ですか…。もしかして嘘とか付いてませんよね?」


 目が少しこわい。が同時にその濁りが一切ない紺碧の瞳に吸い込まれそうになる。


「う、嘘じゃないよ」


「嘘ですね。ほんとの名前はなんて言うんですか?」


 じとーっとした目で見つめられる。


「……分かんねぇんだよ。自分の名前」


 観念し訴える。美羽は少し申し訳なさそうな顔をする。


「その、ごめんなさい。あまり踏み込むべきでは無かったですか…?」


「気にすんな。ここで名前なんて聞かれることも無かったからな」


 実際名前が無くて困ったことなどない。ここでは必要のない物だ。


「じゃあ私が付けてあげます!じゃあ.................連理さんで!」


 少し考えた後俺の名前が決まる。


 なんかむず痒い。名前で呼ばれることなど今まで無かった。少しうれしい反面恥ずかしい。


「連理…か。まあそれで良い」


「自信作ですっ!では連理さんよろしくお願いします!」


 美羽が言う。


「少しの間だがな」


 ぶっきらぼうに言い放つ。ここで変な情を持つのはお互いに身を滅する。


「そんなネガティブなこと言わないでください。連理さんと出会えて私は嬉しいですよ?」


 良くも悪くも場違いな感性だ。


 早く”上”に返してやろう。”ここ”はこいつにとって余りにも毒が過ぎる。

ヴァニタスの鳥籠を読んでくれてありがとうございます。

拙い文で読みにくいと思いますが、これから精進して読みやすい文にしていきたいと思います。

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