表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

プロローグ③|ポーカー先生、海外の大会に参加する

 2024年秋、サトシはついに、海外の大会へと挑戦していた。


 飛行機の中で、何度も、決意を繰り返した。ここで優勝、あるいはそれに準ずる結果を残せたら、プロとして生きていく。それができなければ、ポーカーを趣味に留める。そんな覚悟で、この遠征に臨んでいた。


 「絶対、結果を残すんだ」


 一番大きいトーナメント。世界中のプレイヤーが集まっている会場。大型スクリーンには進行状況が映し出され、ディーラーが手際よくカードを配っていく。


 全てのテーブルが、緊張感に包まれていた。


――


 初日の終盤、ある中国人プレイヤーと、熱い対決があった。


 ブラインドも上がり、チップのプレッシャーが増してきた中での重要な局面。そのテーブルでは、サトシとその中国人が、ほぼゲームをコントロールしていた。とはいえ、そのハンドのちょっと前に、サトシもその中国人も、痛い負けをくらっていた。二人ともチップは原点を少し下回っていた。


 サトシの手元には、ポケットスリー(3♠3♦)。サトシはボタンから2.2倍にレイズ。そして、中国人がこれを2.5倍ぐらいにリレイズ。さぁ、どういうプレイをするべきか。


 サトシはそれまで、ほとんど時間を使わず、スナッププレイをしていた。そもそも、考えるべきハンドがほとんどきていなかった。ちょっと前の痛い負けも、選択肢は無いものだった。

 

 サトシは、このポケットスリーで、その日初めて、時間をかけて考えた。時間をかけたと言っても、1分もたってはいない、せいぜい数十秒ではあったが、サトシにとっては、数分考えているような感覚だった。


 このリレイズに対して、コールをしてフロップが開いたとする。サトシよりもアグレッシブなこの相手は、フロップ・ターン・リバーのどこでベットをしても、恐れず、オールインが返ってくる可能性を感じる。


 つまり、スリーカードができない限り、かなりの確率で、ポットを渡すことになりそうだ。本来なら、このポケットスリーに固執するべきかどうかも、十分検討に値する。


 ただサトシは、ちょっと前にその中国人が、KKで大きくチップを減らした際に、その中国人が、どういう態度・空気感だったのかを鮮明に覚えていた。


「今回は、プレミアムハンドは、持っていない」


 この情報は、今しか活かせない気がした。サトシは、時間をかけて、その確信の正しさを検証した。


「オールイン」


 サトシは小さくつぶやいた。 中国人が、既に何回かオールインでチップをさらっていたが、サトシのオールインは、このテーブルでは初めてだった。


 対戦相手の表情が、強く動揺した。彼は腕を組み、じっとサトシを見つめる。


「お前は、エースジャックなんかじゃ、オールインはしないやつだ」


「エースクイーンでもしないタイプだよな」


「俺がKKを持ってないと思ってるのか」


 どうしたら強そうに見えるだろうか。でも、強そうに見せようとすればするほど、実は弱いポケットペアであることを見透かされそうだ。


 一方、中国人も、コールしてもらいたいオールインなのか、してもらいたくないオールインなのか、材料を探していた。


 中国人の独り言は、20分にも及んだ。この20分は、サトシにとっても苦痛な20分だった。カードの1点だけを見つめた。


 誰も、早くプレイしろとは言わない。このテーブルの誰もが、この2人のどちらかがいなくなることを望んでいた。


 20分経って、中国人が言った。


「お前を信用する」


 そして中国人は、自分の2枚のカードを投げ入れた。


「それで、カードはなんだったんだい?」


「君が想像しているぐらいには良いハンドさ」


 サトシは短くそう言い、震える手で静かにチップを集めた。


――


 二人はそのまま生き残り、翌日へと駒を進めた。


 トイレに行こうとしたところで、急に誰かに肩を掴まれた。


 「おい、握手だ。」


 あの中国人だった。サトシは驚きながらも、しっかりと彼の手を握り返した。


 「それで、結局……あのハンドはなんだったんだ?」


 彼はここでも尋ねた。サトシはそれに対して、にやりと笑い、こう答えた。


「明日、同じテーブルになったら、ティルトさせるために教えるよ」


 中国人は、磊落に笑い、再び握手を求め、去っていった。


 帰り道、どぎついぐらいのネオンの中で、サトシは立ち止まった。今、自分は海外の大会を満喫している。それを実感した瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ