プロローグ②|ポーカー先生、アミューズメントカジノで準優勝する
ポーカーを知ったあの日から、サトシは仕事以外の時間を全て、ポーカーに捧げるようになった。
特に取り組んだのが、無料でできるオンラインアプリだった。空き時間にはスマホでプレイした。最初は、相手のプレイの意図が分からず、無謀な勝負に出てはチップを失った。しかし、負けるたびに、そのハンドでどういう可能性があったのか、選択肢を洗い出して確認した。
オンラインなら、海外のトッププレイヤーの試合を観戦することもできた。自分だったらどうプレイするか考えて、何百時間も見続けた。単なるギャンブルではない、頭脳戦のポーカーが楽しかった。
そんな積み重ねで、サトシは、相手の考えていることがだんだん分かるようになっていった。
3か月後――再び、あのアミューズメントカジノへ。
「いらっしゃいませ。初めてのご来店ですか?」
人は異なるものの、あの時のスタッフと同じセリフで迎え入れられた。懐かしさを感じるも、前に教えてくれたディーラーさんは、今日はいないようだった。
サトシは、トーナメントにエントリーした。今回は初心者向けの体験ではなく、本格的なトーナメントに参加した。
ルールはオンラインで学んできた。ただ、人間と向き合ってプレイするのは、まったく違う感覚だった。チップを握る手の震え、対戦相手の表情を読み取ろうとする緊張感。全てが新鮮だった。
序盤は慎重にプレイした。ポーカーを始めた頃とは違い、無駄なベットは控え、手堅くプレイすることを意識した。
だが、ポーカーは確率だけでなく、心理戦でもある。時にはリスクを取ったり、大胆なブラフを仕掛けることが必要であることも知っている。
もちろん、まだ経験不足な部分もあった。見せてはいけない場面でハンドをオープンしてしまうミスを犯した。その瞬間、周囲の視線が集まり、背筋が冷たくなる。それでも、なんとか冷静さを保ち、戦い続けた。
「あちらのテーブルへお移りください」
何回かのテーブル移動を経て、気がつけば、サトシは順調に生き残っていた。
そしてついに、ラスト2人になった。運命のハンドは、ジャックが2枚。サトシがオールインして、相手がエースとクイーンでコール。テーブルにエースが開かれ、相手が優勝した。
準優勝。
サトシは、その後、もっと強くなって、この日の結果がまぐれだったことを痛感する。惜しかった、悔しい、そんな気持ちもあった。
しかし、それでもこの時は、学生時代に体験したことの無い、『準優勝』という言葉が、とにかく嬉しかった。
「おめでとうございます。普段はどこでプレイされているんですか?」
スタッフの声に、サトシは思わず笑みを浮かべた。
「実は、初めてのトーナメントで…」
周りは少しザワついた。なんだ初心者か、なんて声も聞こえた。そんな夜だった。
――
その夜から、さらに時がたった。
サトシはその後、順調に強くなっていった。アミューズメントカジノでの優勝を何度も経験し、インタビューでは、「海外での成績は」なんて聞かれるようにもなった。
ポーカーに本気で取り組んでみたい――。
彼のその気持ちは、どんどん強くなっていった。そしてある日、仕事を辞めることを決意したのである。




