プロローグ①|ポーカー先生、ポーカーと出会う
2019年のクリスマスイブ。サトシは、新宿のアミューズメントカジノに足を踏み入れた。
きっかけは単純で、クリスマスイブに一人でいるのが嫌だったからだ。普段なら気にもせず、通り過ぎていただろう。
でもこの日は、カップルで溢れる街を避けるように歩いていた。『初心者大歓迎』の看板をたまたま見つけ、吸い込まれるように入っていった。
『ギャンブル』には興味がない。ただ、その日は、普段とは違ったことをやってみたかった。
扉を開けると、そこには静かな空間が広がっていた。派手なネオンとは違い、落ち着いた雰囲気の店内。数台のテーブルには、それぞれのゲームに興じるプレイヤーたちが座っていた。どのテーブルも、異様な熱気を帯びていた。
「いらっしゃいませ。初めてのご来店ですか?」
笑顔で迎えてくれたのは、女性のスタッフだった。シックなユニフォームに身を包んでいた。
「何かやってみたいゲームはありますか?」
「いや、本当に初めてで、全く分からないんです……」
「そうですか。今一番人気があるのがポーカーです。あと10分ぐらいしたら、初心者向けのポーカー体験会をしますが、良かったら参加してみませんか?」
会員登録などを済ませると、彼は初心者向けポーカー体験会のテーブルに座った。
「ポーカーは、役を作ってチップをもらうというゲームではありません」
そう説明を受けながら、彼はポーカーの案内チラシに目をやった。
ポーカーの基本ルールは意外とシンプルだ。自分の手札二枚と、場に開かれる五枚のカードを組み合わせ、強い役を作る。役にはワンペア、ツーペア、ストレート、フラッシュ、フルハウス……といったものがあり、それぞれの強さが決まっている。
ただ、重要なのは『役を作る』ことよりも『上手にベットすること』だった。
「ここに今、1000点のチップが賭けられています。あなたはなかなか強いカードを持っています。誰かがこれに20000点かけた時、あなたはその勝負に乗るべきだと思いますか?それとも降りますか?」
スタッフの話では、十分強いカードだが、相手が強そうな時や、長く楽しみたい時は、無理せず降りる。そういう話だった。
「でも、相手のカードが実はとても弱かったとしても、こういうベットで、降ろされてしまう時があるんです。これが、ポーカーです。」
そのスタッフは、カードをシャッフルしながら、こう話した。
サトシと目が合って、彼女は口元にわずかな笑みを浮かべた。サトシはこの瞬間、ポーカーに興味を持ち、のめり込み始めていると見透かされた気がして、ドキッとした。
強くなって、このスタッフさんと仲良くなりたいと、彼は思った。これが、彼とポーカーの出会いだった。