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教え子たち  作者: 編人
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第九話 手紙

仕事帰りに数年前に出来た小洒落た文房具屋に寄って、小さな便箋を探しに行った。


本当は深海魚のものが良かったが、田舎の文房具屋にそんな都合よくあるはずがなく、悩んだ挙句水色のおばけのキャラクターが書いてあるものにした。



白い布を被って、目だけを出したコミカルなおばけの様子は、少しメンダコに似ている気がした。



「すみません、これお願いします。」



大の男が、紺色のペンとおばけのレターセットを買う様子は異様に思えたが、店員は気にする事なく笑顔で対応してくれた。



「458円になります。あ、42円のお釣りですね。ありがとうございました。」



事務的なやりとりをして、カラフルに彩られた店を出る。


沢山並べられていた流行りのキャラクターのレターセットでも良かったが、やめておいた。

みずきの母親の趣味なのか、彼女はいつもキャラクターのものとは無縁で、シンプルなものを身に付けていた。おばけのレターセットはそれを意識したものだった。


多分、みずきは流行りのありきたりな物よりも、自分の目に映る魅力的な物の方を選ぶだろう。


そういう考えも頭にチラついたが、俺も子どもに媚びるような流行りを選ぶことに抵抗があった。そこを悟られては、何というか格好悪い。

よく分からない、可愛らしいおばけぐらいが丁度良い。



家に帰った俺は、買ったばかりのレターセットから封筒を二つと、小さなメモ帳サイズの便箋を二枚取り出した。




一つはみずきに。そしてもう一つはさゆに。




もちろん、みずきについては明確な理由があった。作品展の感想と共に俺の本心を伝える、という内容だった。


しかし、その内容については問題があった。

如何せん、天の邪鬼なのだ。そして頭の賢い子。

その内容が、人に認められないメンダコを哀れんで褒めるような内容になってしまうと、俺の本心は全く逆に伝わってしまう。



なので細心の注意をはらって、その内容を書いた。



一度目を書き終えて、読み返してみると何故だか伝えたい内容が違う気がして、もう一枚便箋を出した。



まるでラブレターみたいだ。

心を込めて書いた手紙をもう一度書き直すというのが、こんなに労力がいるものだとは知らなかった。




率直に彼女へのエールと、作品への賞賛、応援してると言う気持ちを書いた。


なんだか小っ恥ずかしくなって、最後に「今度逃げたら絶対捕まえてやる」と絵文字を付けて締め括った。



問題は、これをどう渡すか、だった。



多分直接は受け取らないが、待ち伏せするなり全力ダッシュするなり、多少卑怯な手を使っても何とか強引に渡すしかない。


他の教え子を使ったら簡単に彼女へ届けられるのだらうが、俺から直接彼女へ渡すのが、俺への試練のような、そうしなければならない気持ちになっていた。





もう一枚のさゆへの手紙は、いとも簡単に書けた。

簡単というのは些か失礼かも知れないが、何せ受け取り主が純粋な心の持ち主だったので、余計な気遣いをせずにすんだ。

ありのまま、さゆへの感謝とエールを、何のフィルターも通さずに書いた。

きっとそのままの意味で受け取ってくれるだろう。




片方はすぐに渡せそうで、片方はいつ届くか分からない、そんな手紙が出来上がった。




俺はそれを鞄の内ポケットに入れて、眠りについた。

明日、もし会えたら良いな。



木曜日の1日が終わった。

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