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教え子たち  作者: 編人
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第十五話 プレゼント

書店に入って、目当ての本は割とすぐに見つかった。

人気の本らしく前に来た時は品切れだったが、今回は人気のコーナーに平積みにされていて、呆気なく見つかった。


一旦セルフレジで会計を済ませて、もう一度店内を散策する。



確かこの店は本だけでなく、少しだけ文具や小物類も置いていたはずだ。


本のコーナーと違い、文具の空間は女子しか居ないので少し息苦しかったが、みずきが好きそうなものを探した。


せっかく保護者と偶然出会えて、連絡先まで交換出来たんだ。このチャンス、そしてこのタイミングを無駄にするなんて考えられない。


今までチャンスをふいにし続けた俺だからこそ、分かる。

今絶対に動くべきだ。




しかし、小学3年生の女子に贈る物なんて、想像もつかない。

子供扱いされたくない年齢だろうし、かと言って大人過ぎるのも少し違う。


職業柄俺が抑えているのはもっと低年齢の子までだったので、大いに悩んだ。



「ひょっとして、プレゼントですか?」


「ええ、3年生の女の子なんですが、何をあげれば良いか…」


「文房具が多いですが、こちらに少しキーホルダーもありますよ。」



店員の案内通りに店を回ると、いかにも小学生が好きそうなパステルカラーのぬいぐるみのキーホルダーが並んでいた。


ユニコーンやプリンセスなど、女児向けの商品が上段を占めている。その下段に視線を落とすと、柴犬や三毛猫など動物をデフォルメしたような商品が並んでいた。

その中に、サメやペンギンなど海の生き物のぬいぐるみが付いたキーホルダーを見つける。


「あの、メンダコのキーホルダーってあります?」


「めんだこ…?多分無いですね。」


先ほどの店員が少し困った顔で言った。

まぁ、当然無いよな。半分分かっていた。


「ですよね。ではこれにします。」



海の生き物コーナーから、ウミウシをモチーフにしたマスコットチェーンを手に取り、店員に渡した。


ユニコーンやペンギンも捨てがたいが、何故かこっちの方があの子らしいという気がした。




店員に軽くラッピングしてもらったそれを受け取り、直接渡すはずだったが、あの時渡さなかった手紙を包装紙の中に忍ばせる。


願ってもないチャンスに胸を躍らせながら、もう一度先ほどみずきの母親と出会った店舗を覗いた。



しかし、みずきの母親は買い物を終えたのか、もうそこには居なかった。



少し探して居ないことを確認し、ポケットからスマホを取り出した。

LINEの画面から、交換したばかりの連絡先を開く。



『先ほどはありがとうございました。買い物中にみずきの好きそうなキーホルダーを見付けました。良かったら受け取って貰えますか?』



文面はスラスラ書けたが、その横の送信ボタンを押すことに思い留まり、人差し指が宙を浮いている。



断られたら、どうしよう。



教え子と言っても、3年前の話だ。

偶然会って話を咲かせたとは言え、品物を送るのは気を遣われるか、変だと思われるんじゃないか。


もし断られたら、そこで全てが終わってしまう気がしてボタンの前から指が動かない。




でも、このタイミングを失ったら、もう二度と訪れないのは分かっている。


そして、そのタイミングというやつは、時間切れまでのタイマーをカチカチと鳴らしていた。

物事には賞味期限がある。新鮮な思いは新鮮なうちに届ける方がいい。




精一杯熟考して、先ほどのLINEの文末に『素晴らしいメンダコを見せてもらったお礼です』と付け加えた。


その一言で勇気が二回りぐらい大きくなった俺は、今度は迷わず青い紙飛行機のマークを押せた。

ポロン、と送信完了を伝える音が響く。




返事は期待しない。

期待すればする程、望み通りで無かった時に勝手に傷付いてしまう。


と思いつつも、つい通知を期待してしまう自分と、それ自身に蓋を掛けようとしている自分とが戦っていた。




思いが伝われば、嬉しい。


返事が来るだけで十分。


断られなかったらいいな。


嫌われなかったら、良いや。



自分の中でどんどんと期待のハードルが下がっていく。


長い事、こんな気持ちを忘れていた。


みずきに向けられたクソデカ感情は、まるで歩き始めたばかりの子供のようで、丁重に扱わないとすぐに爆発してしまいそうだった。


そんな手の掛かる心を宥めて、俺は店を出た。




駐車してあった車に乗り込んだ時、待ち望んだ通知音が響いた。

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