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HP1ってどういう状況なんだろう/アルブラ発売日+6日 土曜日の朝

「ふぁはぁぁあ……!」 

 机に顎を乗せて、人目もはばからず、俺は大きなあくびをした。

 昨晩は、というか、今朝方まで、アルブラに精励していたせいでむちゃくちゃ眠い。

 今の俺のHPって、いくらくらいになるんだろうな。結構やばい感じだから、普通の状態を100としたら35くらいか?

 去年インフルエンザに罹ったときは、絶対に20を切ってたよな。

 ……そもそもHP1ってどういう状況なんだろう? 限りなく死んでる状態。耳に息を吹きかけられただけでも死んでしまいそうじゃないか。

 メシ食ってるときに頬っぺたの内側を噛むのって、どれくらいのダメージだろ? 結構痛いから、絶対1以上のダメージだよな。

 瀕死の状態で街に帰ってきて、宿屋でメシ食ってたら頬っぺたの内側を噛んで死亡とかって、カッコ悪いな。いきなり食堂に棺おけが出現するの。

 などと取り留めのないことを考えていたところ、

「おっはよー!」

 いきなり背中に、煙が出そうなほどの平手の一撃を食らった。こんな朝っぱらから乱暴狼藉を働くのは、ヤツ以外には考えられない。

「……HPが10減った。ウインドウが黄色くなった」

「はぁ? 何言ってんの? いっつも犬みたいにあたしの所に来るのに、今日はなんだかぼっとしてるから、わざわざ元気を注入しに来てやったのよ」

 言うに事欠いて犬かよ。

「それより、アルブラは終わったの? あたし、まだ隠しダンジョン行ってないんだから、早く終わらせて返しなさいよ」

 こいつを相手にしていると、俺の繊細な神経は磨り減るばかりだ。

 そう言えば、もう、かすみに怯えることはないんだから、こいつのアルブラは返したっていいんだよな。

「じゃ、返すよ。今夜家に持っていく」

「え? 終わったの?」

 一瞬、みずほが、当てが外れたような顔をしたのを、俺は見逃さなかった。

「終わってないけど、もう大丈夫なんだ。心配かけたな」

「……なんだかよく分からないけど、今夜はダメ。コミぱの追い込みで忙しいから」

 言ってることが矛盾してないか? 忙しいんなら、ゲームしてる場合じゃないだろ。 

 それに、〝追い込みだからスクリーントーン貼りにこい〟とか、〝ベタを塗りにこい〟〝資料写真を撮ってこい〟〝肩を揉みにこい〟〝パン買ってこい〟などという要求は今までにもあったが、追い込みだから来るなという話は初めてだ。

 実に怪しい。

 俺はピンと来た。俺じゃなきゃ聞き流してるね。

 ここ数日、こいつは、アルブラの邪魔だからと言って俺を寄せ付けなかった。

 だが、俺がかすみに驚いて部屋に飛び込んだ日、こいつはすでにアルブラを終えていたにもかかわらず、俺に対してあの仕打ちに及んだのは、俺をあのメイドさんに会わせたくなかったからだとしか考えられない。

 間違いない。今夜、あの、かわいいメイドさんが来るのだ。

 ……しかし、それが分かったからといって何になるだろう。

 男として情けない気もするが、こいつが会わせないと決めている以上、彼女には決して会えないのだ。あぁ、何てことだ。

「んで、今どこだって? おねーさんに言ってみなさいな」

 一応、俺のほうが誕生日は早いんだがな。

「ランの村。フーライに会ったとこ」

「ああ、サマディが生き返るとか返らないとかいう辺りね。始めて一週間も経つのに、まだあんなとこに居るの? 早く終わらせなさいよ」

 香澄みたいなこと言ってんじゃねぇ。

「おまえが早すぎるんだよ。別に、早く終わらせたからって、偉いわけじゃないだろ?」

「ははぁ、もしかして、行き詰ってんでしょ?」

 名探偵のようにあごに手を当て、得意げなみずほ。

 図星だが、認めるのは癪だ。

「教えてあげようか? あれはねェ……」

「言うな!」

 思わず大声を出してしまった。

 みずほが教えようとして俺が制止する。

 それは何度となく繰り返されてきたことだが、いつもとは違う俺の剣幕に、みすほは目を丸くした。聞けば簡単だし、そのほうが香澄のためかもしれないが、自分の力でなんとかしたい、しなくてはならないと思った。

「……なによ、大声出して。もう金輪際、向こう百五十億光年くらい口利いてやんない」

 そう言ってみずほは、おろおろする宇山の脇を、邪鬼が退散しそうなほど足音を響かせて、自席に向かって歩いていった。

〝光年は距離の単位だぞ〟と言おうと思ったが、机を投げられそうなので止めた。


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