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第22話 タブー中のタブーに触れやがった/アルブラ発売日+5日 金曜日の自宅

 次に立ち寄った街はソル。

 ちなみに、香澄にせっつかれたせいでガンガン話を進めたので、現在はほぼ適性レベルの場所まで来ている。

 早速セーブして宿屋に泊まると、なにやらイベントが始まった。

 どうやらかつまたちは会議をしているようだ。

 会議といっても、宿屋の一室で食後の語らいといった風情である。

 さしあたっての議題は、自分たちはここまで〝八部衆〟という魔王の配下を倒してきたが、他にも〝四天王〟という、八部衆以上の存在が控えているらしい。

 さて、彼らは一体どこにいるのだろうか? ということだ。

 その席で、かすみが以前から気になっていたことを語り始める。

 どうして自分たちが進むにしたがって、敵が強くなるのか。

 自分たちが八部衆を倒したことは魔王も知っているはずだろうに、どうして一気に強いモンスターを派遣しないのか。

 そのおかげで自分たちは戦えているようなものだが、それがどうにも腑に落ちない。

 そもそも、最近になって急に噂が流れ始めた〝四天王〟は、本当に存在するのか? 要約するとこのような内容だった。

 ゲームに慣れている者なら、〝敵がだんだん強くなる〟のは当たり前の予定調和というものであり、疑問に感じるようなことではない。むしろ、それを明文化してしまったのは、〝野郎、タブー中のタブーに触れやがった〟という感じである。

 しかし、ゲーム内世界で唯一無二の人生を生きるかすみとしては、当然湧いてくる疑問に違いない。

結局その会議では、魔王が覚醒するにしたがってモンスターどもも強くなっているのではないかという結論に達し、これ以上敵が強くなる前に決着をつけねばならないという決意表明まで行われて閉会した。

 だが、その説が正しいとすれば、世界中のモンスターが等しく強くなっていなければならず、弱いモンスターは消えていなければならないはずだ。しかし実際には、今でもドヌ周辺には青くてぷよぷよした低レベルのモンスターが生息している。

 その事実を意図的に排除したまま、物語は次の展開を迎える。

 ソルの街で聞き込んだ、四天王のひとりがいるらしいという山にやってきたところ、そこで待っていたのは懐かしい人物。かつてハイライ島のドヌ村で共に育ち、共に魔の山で魔王復活を知り、阻止するべく別行動をしていたランバーであった。

 以前より数段逞しく成長し、格段に人相が悪くなった(想像)ランバーは言う。

“自分は魔王に会い、すべてを知った。この山には確かに、かつて四天王と呼ばれた者が住んだ城があり、現在はその子孫が住んでいる。”

 回りくどい言い方だが、なんとなく想像はつく。

“それは、この俺だ!”

 驚くかつま一行。ランバーは続ける。

“驚くにはあたらない。なぜなら、かつま、かすみ、ガラムもまた、四天王の子孫なのだから。おまえたちは疑問には思わなかったのか? モンスターが次第に強くなるのはなぜか、宝箱が都合よく配置されているのはなぜか、そして、洞窟の最深部で全滅したときでも、救出してくれたのは誰か。”

 なるほど、ハイライ島の〝魔の山〟は、看板倒れだと思っていたが、付近に魔王四天王の子孫が二人も住んで、狩りに行ったり薬草を採ったり夢を語り合ったりしていたんだから、魔の山と呼べないこともないわけだ。

 だが、すごい秘密をペラペラ話してくれているが、大丈夫なのかランバー?

“おまえたちが出会ったこともふくめて、それらはすべて、おまえたちを次期四天王として成長させるために仕組まれていたこと。世界制服のためには、八部衆を犠牲にしてでも四天王を育てる必要があったのだ。おまえたちは充分に成長した。あとは魔の心を植えつけるだけだ。”

 仮免ライダーの秘密結社が犯す失敗で、一番多いのがこれだな。強くしておいてから洗脳とか、最後に脳改造とか、どう考えても順序が逆だろうに。

ちなみに、次に多いのが失敗したやつを死刑にして、どんどん組織を弱体化させてしまうこと。その次が前にいいところまでいっておきながら失敗した作戦があるのに、それを改良することなく放棄して、次の作戦に行ってしまうことだな。

“しかし、その前にひとつやっておかねばならんことがある。われらの神聖なる祭壇に、無関係な人間がいる。その者には消えてもらわねばならん。”

そしてランバーは、あろうことかピアチェにトカマディンを放ってしまった。

トカマディンは、核融合によって発生した超高温を雷撃で包み込むことによって収束し、一点に集中させる超高等呪文である。敵一体に対する呪文としては、アルブラ世界では最強のものだ。

だが、それより一瞬早くかすみが動き、ピアチェを突き飛ばした。

ピアチェの身代わりになって、岩をも蒸発させる超高温を浴びたかすみの身体は、天使シリーズの武具を残し、完全に消えてしまった。

「消えた……?」

「死んじゃったの? また?」

 呆然とする俺と香澄。

 物語はそのまま戦闘に突入する。

かすみを失った怒りに燃えるかつま一行と、最強呪文を操るランバーの戦いは、天地を揺るがすものとなる……と考えられたが、実際には、適性レベルになったうえ、ダメージゲッターのかすみを失った3人チームと、最強呪文を使って疲れてしまったランバーの戦いである。実にあざといゲームバランスではないか。

 それは双方が決め手を欠いた、鳩の突っつきあいのような泥沼の様相を呈したが、今回もまた装備の優秀さにより、かつまたちは露命をつなぐことができた。

 戦いが終わり、予想通りランバーは正気に戻った。

 今までのいきさつと、かつまとの思い出を語り、事もあろうに、ピアチェを殺そうとしたくせに、“実は好きだった”などと余迷いごとを垂れ、お約束の〝ぐふっ!〟という喀血音を最後に屍となった。

 かすみを蘇生させるべく、ガラムは還魂の呪文を唱えようとしたが、その対象とすべきかすみがウインドウに出ない。なんと、かすみは存在すら失われてしまい、今やかつま一行は、完全に三人パーティになっていたのである。

「え、マジ?」

「………………」

 そっと香澄を伺うと、呆然としたまま、目を見開いていた。

 なんてこった!

 幽霊の香澄が、ほんのひとときだけでも境遇を忘れんとして自らの名前をつけたキャラクターが、よりにもよって消えてしまうなんて。

 そんな残酷な偶然があるものか。

 それにしても、〝やってくれた〟という気分だ。

 今までRPGの不文律とされていたことを逆手に取ってくるとは。

 一度しか通用しないが、画期的な展開には違いない。少なくとも俺の記憶には、これらのお約束を切り返したゲームは存在しない。

 還魂の呪文は効かずとも、教会でなら生き返らせられるかもしれない。そう考えたかつま一行は、世界で一番大きな教会に向かった。

 しかし、そこの大司教の返答は、木で鼻をくくったようなものだった。

“かすみどののからだは完全に消えてしまっている。命のかけらが残っていないものを生き返らせることはできない”

 その言葉を聞き、かすみが死んでしまったのは、自分のせいだと嘆くピアチェ。

この純朴な幼馴染の少女は、心の底の底ですら、〝しめしめ、ライバルが消えたわ〟などとは思わないのだろう。

“自分たちはかすみを失い、ランバーを倒した。これで四天王は永遠に揃うことはなくなったわけだ。かすみが生き返らないのは、世界に必要でないからではないのか。そして自分とかつまもまた、自ら命を絶つべきではないのか。”

 などと、放っておいたら即身仏にでもなりかねないほど苦悩するガラム。こいつは坊主だから、言うことがいちいち辛気臭くて教条的だ。

 しかし、ふたりのセリフがプログラムされているということは、かつまがここに来るのは予定された行動だということである。もしかしたら、大司教が言う〝命のかけら〟というものがあれば、かすみは生き返るのかもしれない。

 しかし、それはどこに?

 様々な思いをはらみつつ、失意の三人パーティは旅を続ける。

今まで自分たちを守っていると思っていた世界の仕組みが、倒すべき敵の仕組んだことであったことを知り、世界に裏切られたような気分のかつまたち。

 それでも三人は、生き続けなくてはならない。そして、生きているかぎり前に進まなくてはならないのだ。

 この先になにが待ち受けているのだろうか。

「……あたしの身体も、もう、ないのよね。三か月も前に死んじゃったんだもん。もう……だよね」

 体育座りして黙りこくっていた香澄が、ふと思い出したように呟いた。

 考えたくないことだが、常識的に考えて、命を失った身体が原形を保ち続けているとは思えない。

「……ごめぇん。なんかドン引きしちゃったね。続きいこ、続き!」

 香澄は俺の背中を叩こうとしたが、その手は俺をすり抜けた。

「……そうだな。ガンガン行こう!」

 空元気も、元気のうちだ。


 かつま一行は、ランの村に到着した。

 そこにはフーライという老学者がいて、都合よく死者復活の研究をしていた。

 聞くところによるとフーライは、若いころにちょっとした誤解から他人を殺めており、その贖罪のために死者復活の研究をしていたらしい。

 なぜ初対面のかつまたちにそんな話をしたのかと聞くと、見えたのだと言う。

“ほら、おまえさんたちの後ろに立ってるじゃないか。口を真一文字に結び、じっと前を見据えた金髪の別嬪さんがさ。その娘さんを生き返らせたいんだろう?”

 一同振り返るが、当然、そこには誰もいない。

 しかし、フーライにはまだ、かすみの容貌はおろか、来訪の目的すら告げていないので、〝見えている〟というのは本当なのだろう。

 フーライによると、かすみは魂まで失われているわけではないという。

 だが、依代となる身体がないため、少しずつあの世に引き込まれており、死んでから四十九日の間に身体を用意しないと、永遠に失われてしまうのだそうだ。

 その四十九日というリミットをどうやって知ったんだろう。などと考えていると、

“おいら、今まで何人も試したよ。生き返るやつ、生き返らないやつ、色々だった。そこで気づいたのが四十九日ってわけだ。それからな、年寄りはダメだ。命数を使い果たしたやつは生き返らねぇ。生き返るのは、命数が残ってんのに、事故やら病気やらで死んだやつだけだ”

 と、妙に詳しい設定があったりする。

 どうやらかすみが復活するのは規定路線らしいが、それにはひとつ条件があるようだ。

“命のかけらを探してきな。その娘さんの、身体の一部だ。”

 身体の一部を探してこい。

 そう言われても、かすみの身体はランバーのトカマディンによって、跡形もなく蒸発してしまっている。

 かすみ蘇生のキーマンであろうフーライが言うからには、〝命のかけら〟とやらは世界のどこかにあるのだろう。かすみと初めて会ったミドガルドだろうか。

 だめだ、眠くて眠くて思考能力が働かない。

「……悪い。眠くて頭がガンガンする。もう寝かせてくれ……」

 こういうときはRPGのキャラクターが羨ましいな。

 なんと言っても、ダメージを受けない限り疲れ知らずだし、戦えば戦うほど強くなれるし、HP1の瀕死状態から一晩寝ると全回復するし、例え死んでも、金を出したら生き返れるし。いいこと尽くめだ。

「仕方がないなぁ。だから勝馬もあたしみたいになったらいいって言ってるのに。眠くないし、疲れないし、これ以上死なないよ?」

「だ・か・ら、断ると言っただろ。だいたい、ふたりとも霊になったら、コントローラー握れねぇだろ。どうやってアルブラやるんだよ」

 ある意味便利な身体かもしれないが、そいつは御免こうむりたい。


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