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セーブするたびに百日寿命が縮んだり/アルブラ発売日+3日水曜日の自宅

 家に帰った俺は、パワスタ2の前であぐらをかき、腕組みをしたままスイッチを入れるか入れるまいか、考えあぐねていた。

 なんて迂闊なんだ。せっかく横瀬に会ったってのに、〝かすみ〟について相談することを忘れていた。近くに住んでいることは間違いないだろうが、俺はあいつの家も、携帯電話の番号も、メールアドレスさえも知らないのだ。

 二日前の俺ならバグで済ませていたかすみ問題だが、マジにヤバい悪霊などというものが実在すると知ってしまった今となっては、なかなか電源を入れる勇気が湧いてこない。

 かすみが先日の〝顔〟より悪質でない保証など、どこにもないのだ。

 コンピューターウイルスだって、昔は見た目が派手な割に大した被害のないものが多かったが、今は一見なんでもないけれど裏で陰険な作業を進める類のものが多いという。

 かすみが後者のウイルス的な陰険悪霊でないと、誰が断言できようか。〝騒霊新報〟みたく、一回セーブするたびに百日寿命が縮んだりしているのかもしれない。

 意を決して、バチンとパワスタ2のスイッチを入れた。

 ごちゃごちゃ考えても、結局やってしまうんだよな。

 この気分は、例えるなら〝虫刺されを思い切り掻きむしって、後できっと痛くなるけど今はとても気持ちがいい〟という状態に似ている。

 要するに、ケセラセラというヤツ。今が楽しければいいやということである。

 オープニングをXボタンですっ飛ばし,”ぼうけんを続ける”を選ぶと、ローディング画面に進む。最もゲームが進んでいる継続の書を選択すると、軽いローディング音の後、ゲームが始まった。

 キャラクターの名前を確認すると、女騎士の名前はかすみのままだ。むしろサマディに戻っているほうが怖いなと思っていたので、俺は少し安心した。

 小手調べに、早速街の外に出て戦っていると、昨日と同じような違和感を覚えた。

 なにか変な感じがするが、それがなんだか分からない。

 分からないなら考えても仕方がないので、俺は例によって、あえて無視して次の街に向かうことにした。

 しばらくは順調に冒険をしていたが、あるとき、ピアチェが二回攻撃を食らって意識不明に陥ってしまった。前日、ここら辺りではイヤというほどレベル上げをしたし,そもそもピアチェには天使の兜を装備させてあるから、かつま並の守備力になっていたはずだ。

 いくらHPが少ないとはいえ、呆気なさ過ぎる。

 残りの3人でなんとか戦いを終わらせ、ステイタス画面を確認すると、驚くべき変化があった。なんと、かすみの守備力が前日並みに上がり、ピアチェは逆に下がっていたのである。

 つまり、装備交換前のステイタスに戻っていたということだ。

 かすみの守備力が上がった理由はすぐに分かった。ピアチェが装備していたはずの天使の兜を、かすみが装備していたのだ。

 かすみが、取り返した? 俺の背筋に冷たいものが走った。

 しかし、しかしだ、こう考えることはできないか。ちょっとややこしくなるから、ひとつひとつ順序だてて考えてみるぜ?

①かすみは、ゲーム中のとあるイベントで登場し、ひとときパーティに加わり、そして別れるイベントキャラだった、と仮定する。

②そのイベントは、何らかの事情で削られてしまったが、プログラムは残っていた。

③そのイベントは、終半に挿入されるべきイベントだったため、かすみは天使の兜などという名品を持っていた。

④そのかすみが、発売バージョンでは本来登場するはずがないのに、たまたまバグで登場し、あまつさえ仲間になってしまった。

⑤イベントキャラの装備は変えられないのが普通だから、電源を再投入すると装備がデフォルトに戻るような設定になっていた。

 仮定まみれの説だが、あながち間違いでもないだろう。

 本来交換できないはずのイベントキャラの装備を無理やり交換することによって、アイテムを無限増殖させる裏技。

 これはかなりポピュラーなもので、戦車RPGのメタル・モッコスにもリースタンクの裏技としてあったし、ほかでもないアルブラのいくつかのシリーズでもできた。

 怖い想像をしてしまう前に、俺は、頭の中を実際に起こりそうな現象とありそうな理論で埋めてオーバーフローさせようとした。

 だが、次のウインドウを開くと、そう考えても説明のつかないことが起こっていた。ピアチェの装備ウインドウに、買った覚えのない魔法の帽子が表示されていたのである。

 ふたりとも天使の兜を装備していたというのなら、アイテム増殖技で説明がつく。ピアチェが何も装備していない状態になっていたのなら、なんらかの補正プログラムが働いて削除されたのだと説明できる。

 レベルアップや電源投入といった節目で補正プログラムが働き、不正に上げたステイタスがレベル相応のものに戻ったり、アイテムが消滅したりするのは考えうることだ。

 しかし、買った覚えのないアイテムを持っているなど、どう考えても説明がつかない。

「どういうことだよ、こりゃ……?」

 思わず口に出てしまった。

この不気味さを、すぐに誰かに話してしまいたいが、今のみずほは、電話すら許してはくれないだろう。ほかにアルブラⅧをプレイしているヤツも浮かばない。

 全国で三百万本売れているということは、日本の総世帯数が四千五百万世帯だと習った覚えがあるから、十五軒に一軒は、今、このときもアルブラをプレイしているってことになる。

 感覚的には〝猫も杓子もアルブラプレイヤー〟というイメージがあるが、〝具体的には誰が?〟と言われると、意外と浮かばないもんだ。

 もしかして俺って、友達少ないのか?

 カーテンを開けると、みずほの部屋には明かりがついていた。しかし、窓にはペアガラスがはまっているうえ、エアコンの室外機がうるさくて、部屋の中の音はまったく聞こえてこない。

「約束だもんなぁ。鉄山靠はイヤだしなぁ……」

 今死ぬか、寿命が百日縮む(未確認)ほうがいいかと問われれば、分別と前途のある青少年としては、前者を選ぶべきでないことは明白だ。

 進退窮まった俺は、アルブラをセーブして早々に休むことにした。


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