つい、うっかり……。
本題とぜんぜん関係のないお話なのですけれど、納豆とヨーグルトを混ぜて食べると美味しい……らしい……ですよ……。うちの冷蔵庫に納豆もヨーグルトもあるのですけれど、試してみる勇気がありません。どなたか勇気のある方はお試しになって、ぜひご感想を教えてください。
では本題です。以前にうっかり犯罪組織に就職してしまったとエッセイに書きました。そのエッセイのタイトルをここへ書こうとしたのですけれど、タイトルが思い出せません……。「うちは違法行為をしているから、あなたを採用するのはやめます。あなたは正しい道を歩んでください」そう言われてクビになったお話です。おかげで今はまともな人生を歩んでいます。歩んでいるのですけれど、別のうっかり話を思い出したので、今日はそのお話を書きます。
ずっと以前に知り合いの紹介で、町の小さな電気屋さんに就職しました。社長のおじさんが一人でしている小さなお店で、わたしは店番と簡単な事務をしていました。
知り合いと社長と3人で顔合わせの食事をした時、なぜか社長はわたしに「このセカンドバッグを持って」と言いました。ワケもわからず持っていると「そのバッグに100万円の札束が入っている」そう言われました。ビックリしたわたしは「えええ!? 100万円!? そんな大金が入ってるんですか!? 落としたらタイヘンだああ!!」そう言って大騒ぎしました。歩いている最中も「ここに100万円ですか!? 盗まれたらタイヘンだああ!」大きな声で言い続けていました。すると社長は不機嫌な顔になって「もういい。俺が持つ」とバッグを自分で持ちました。
いま考えると、わたしはあの時ひったくりに合う予定だったのでしょう。100万円が入った(とされるバッグ。中身は見ていないから本当に100万円入っていたか不明)バッグを引ったくられて、何らかの責任を問われる予定だったのだと思います。ところが大声でギャアギャアさわいで「盗まれたらタイヘンだああ!」と言ったので、狙いがバレたとカン違いした社長はあきらめたのだとおもいます。たぶん。
その社長、今なら絶対に付き合わないタイプです。大きな身体で目つきが悪くて、猫背でした。大きな身体で目つきが悪くて猫背でも良い人はたくさんいますけれど、身体の特徴ではなく醸し出す雰囲気がヤバかった。悪いことをしている人は特有の雰囲気があります。その雰囲気がバリバリ濃厚だった!
案の定、すぐに確信しました。やたらヤクザと付き合いがあると自慢するのです。ヤクザさんにも筋を通す良い方はたくさんいますし、個人的なお知り合いがたまたまヤクザさんだったこともあります。ですからヤクザというだけでどうこうは私はないのですけれど、「ヤクザと知り合い」と自慢するなんて他人のフンドシで相撲をとる人はキライです。なんだかな~と思っていました。
それでも私には良くしてくださっていましたし、仕事は簡単でお給料も良かったです。お店でぼーっとしながら「こんなにヒマなのにお給料をもらって、申し訳ないなぁ」そう思っていました。
そんな矢先、社長が仕事中に交通事故に遭いました。車両同士の接触事故です。ケガ人がいなかったのは幸いでしたけれど、車に積んでいた大量の新品の電化製品が壊れたそうで社長は落ち込んでいました。お気の毒に……。社長は壊れた電化製品をお店へ運び込み、床にずらっと並べました。そしてわたしは社長の指示で床に置かれた商品を見ながら、保険会社へ提出する電化製品のリストを作成しました。
そして2か月後、また社長が事故に遭ったのです! なんてこと! 今回もケガ人はいなかったのですけれど、またもや新品の電化製品が壊れたらしい! なんて運の悪い人なんだ! 社長は車、相手はバイクの大学生の男性でした。 社長は「ツイてない……。電気屋の仕事をやめたほうがいいんだろうか?」そう落ち込んで言うので、一所懸命になぐさめました。
事故の直後から、お相手の大学生がお店へ電話をしてくるようになりました。いつも社長は不在で「折り返しの電話をかけるようお伝えします」そう言っていたのですけれど、社長がコールバックしたようすはない。最初は2~3日に1度だった電話の回数が、1日で4~5回に激増しました。それでも電話はつながらないので、とうとう学生さんがお店に乗り込んできました。けれども社長は不在です。「お越しになったことを伝えておきます」そうお返事するしかできない。なんだか知らないけれど、メンドクサイことになっているようだ……。お店の床に置いてある壊れた電化製品を眺めながら、イヤな予感を感じていました。それにしてもこの商品、ずっと床に置いてあるよな……。いつ処分するんだろう? ジャマなんですけど。
しばらくすると社長が1枚のリストを持ってきました。電化製品の型番や価格がズラズラと並んでいます。はて? どこかで見たような……。あら? これって以前にわたしが作成した事故の損害賠償請求のリストだわ。
社長が言います。
社長:今から俺が言うことを、そのリストの下に書いてください。
ソウ:わかりました。
社長:〇〇年〇月〇日〇〇時。 〇〇(場所)で起きた、バイクとの交通事故の際に車載していた商品の一覧表……。
言われた通りに書いていましたけれど、途中で顔面から血の気が引きました。事故が起こったとされるその日のその時間に、わたしはお店にいました。その時間だけでなく、一日中お店にいました。そして事故の際に車載されていたとされる商品は、ずっとわたしと一緒にお店にいました。床にズラリと並んだ電化製品を見ながら「コレ、ジャマなんだけどなぁ~」そう思っていたので間違いありません! 社長はウソをついている! これ、保険金詐欺だ!!
社長:最後にソウさんの署名と捺印して。
ソウ:あはははは! (← パニックで笑いが止まらない) すみません! 今日はハンコを持ってきてないんです!(← ウソ) だからハンコは押せません! あはははは!
社長:あ、そうなん?
ソウ:(良かった! 逃げきれた!)すみません! あはは!
社長:ちょっと、そこの引出し開けてくれる?
ソウ:はい!(詐欺以外なら、なんでもしますよ!)
引出しを開けると、数十本の印鑑がズラズラズラ~っと並んでいました。なんでこんなにハンコがあるんだ!?
社長:そこにソウさんの名前のハンコある?
今なら席を蹴って逃げ出します! 自分のじゃないハンコを押すなんてありえない! でもその頃はまだ若かったので、どうしたらいいかわからなかった。かろうじて言えたのは…………、
ソウ:すみません。わたしの名前のハンコはないです(← ウソ。本当はあった)。
社長:ないの? それなら明日ハンコ持ってきて。
ソウ:…………わかりました…………。(何か話題を変えないと!)社長、学生さんが何度もお電話くださってるのですけれど、いったいどうしたのですか?
社長:あぁ、あれね。バイクとぶつかった時に「君に非があったと言ってくれたら、俺が個人的に君へお金を払う。そしたら俺の保険は使わないで済むし、君もお金が手に入るから得だ」って言ったんだ。それでアイツが非を認めて10対0になったんだ。俺の過失は0なんだから、アイツへ金を払う必要なんて無いだろう? それなのにアイツは金をよこせってうるさくってさ。参ったよ!
参ったのはアンタじゃなくて、学生さんだよ! うっかり騙されて自分が100%悪かったって言っちゃったんでしょう!? そしてお金は1円ももらえないの!? そりゃ押しかけてくるわ!!
社長がしていた悪いことは2つです。
1,車に乗せていなかった商品が事故のせいで壊れたとウソをついた。
2,学生さんを騙して自分の責任を押し付けた。
さらに私に詐欺の片棒をかつがせようとした。思えばヒマなのに事務員を雇ったのは、このためだったのでしょう。おそらく1回目の事故も自作自演だと思います。その時に事務員がいたほうが便利だと思ったのでしょう。何かあったら私のせいにできるでしょうから……。
そして私は家へ帰り、その後は二度と出勤しませんでした。警察へ通報するには推測の部分が多すぎます。万が一わたしが間違っていたら、大変なことになる。だから警察へ通報しませんでした。急に仕事に来なくなったわたしのところへ社長が何度もなんども電話を掛けてきました。そして「急に仕事を辞めるのは、人としておかしい。一度、店へ来てください」そう留守番電話が入っていました。人としておかしいのは、お前だよ! どの口が偉そうに言うんだ!?
未払い給料が10万円くらいありましたけれど、読みどおりに社長が詐欺だったら汚いお金でわたしの給料が支払われることになる。そんなお金は欲しくないので、10万円はあきらめました。
本当に詐欺だったのかグレーな部分が多いのですけれど、わたしの野生のカンではグレーどころか真っ黒です! だから関わり合いになるのはやめました。その後、お店は閉店しました。まともな商売をしていれば、今もお店はあったと思います。
厳密にいえば私も共犯になるのかもしれませんけれど、仕事として指示されたリストを作成したときは何も知りませんでしたし、ヤバイと思ってからはソッコー逃げました! 何より未払い給料を受け取っていないので、わたしはビタ一文もうかっていないどころか、逆に損しています! わたしも被害者と思ってくだされば、いくらか心が慰められます。
それにしても危なかった……! つい、うっかりして犯罪者になるところでした……。