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クズ錬金術師

クズ錬金術師共のその日暮らし

 

 ドンドンドンと扉を叩く音が響き渡る。


「うるせえぞ朝っぱらから!!!!」


 蹴破るようにドアを開ければあら不思議、目の前には豚のように丸々太った女性がいるではありませんか。


「こっ、これはこれは大家様。本日はどのような御用で?」


「家賃」


「あ、肩とか凝ってませんか?それとも靴とか舐めましょうか?」


 まずい、まずいぞ。なんとしてでも全力で気を逸らせ。家賃払う余裕なんてこっちにはねえぞ明日の飯も食う余裕すらねえんだから!!


「家賃」


 くっそダメださすがにそう何度も同じ手は通用しないか。なら奥の手だ!!


「一週間待ってください!!!」


 土下座。

 それは自ら地を這い額を擦り付け頭を垂れることで相手に許しを請う最上級の謝罪。それをこの俺がするんだから家賃の納入を遅らせる……それどころか家賃そのものをなくそうという気になるはず…!!!


「家賃」


 ダメかぁあああああ!!!!

 まあこのやり取り六回目だしな。かくなる上は!!


「あと一週間で大きな案件が入ってくるんです!!!あと一週間!どうかあと一週間待ってください!!!そしたら先月分も合わせて納入しますので!!!」


「一週間」


 よし!!!よしよしよし何とか一週間作れた!!

 去っていく大家の背中を見ながらほくそ笑む。


「んー?一週間後になんかあったっけ」


 どうやらクソッタレた同居人も起きてきたようだ。


「ねえよ。仕事なんて」


「じゃあどうすんのよ」


 んなもん決まってんだろ。


「今日こそお前のその宝石を売っぱらうんだよ!!」


「はぁ?ざっけんじゃないわよ!!!これは私がジェウクス錬金学会を出てくるときになんとか掻き集めたものなんだから!!」


 そう言って宝石達に愛おしそうに口付けする気狂い女。その名前をウェズディという。僅か十二歳で行き詰まっていた宝石錬金術を大幅に発展させ、その後五年にわたり俺と共に錬金術界隈を率いてきた幼馴染。

 まあ俺ほどではないが錬金術の天才であるとは認めよう。


「おめー個人用の宝石買うのに学会の金横領したのバレて逃げ出してきたんじゃねえか!!」


「学会に素直に申請したら共用になるじゃないの!なんで私が見繕った宝石を他人に触らせなきゃなんないのよ!!それに学会開いた張本人なのに学会から追放された上に処刑された面白芸人には言われたくないですぅー!!!」


 そう、俺はジェウクス・ターネリオン。この世界一の錬金術師であり、鉛から金を錬りあげ、ジェウクス錬金学会を開いた人物としてもうすでに錬金術の教科書には乗ってるし、歴史の教科書にも乗ってるだろう。ウェズディの方も片隅くらいには乗ってるようだ。

 そんな行ける伝説の俺らがなぜこんなボロアパートの一室で醜く言い争っているのかというと、


「俺は嵌められたんですぅー!!若き才能を認められない旧錬金組合の老害どもにねっ!!」


「学員の好感度もまともに稼げてないのにやりたい放題やって恨み買うからでしょ!!それに隙晒しまくったあんたが悪いんじゃないのぉー?」


 こいつぶん殴りてぇ………いや、俺は紳士だ。どれだけ腹が立ったとしても手を上げるようなことは……


「手塩にかけて育てた弟子にすら見放されて入れ込んでた変な名前の泥人形も取られちゃってあんた何が残ったの?」


「上等だテメェ表でろや!!!」


 マンジューちゃんは変な名前じゃねえだろうがぶちのめしてやる!!!

 目の前の女をどうぶちのめすか頭の中でイメージしていると再び扉がノックされる。また大家だろうか。


「金ならねえって言ってんだろうが!!!」


 勢いよくドアを開けた先にいたのは丸々太った大家ではなく見慣れないガキだった。


「えっと、依頼に来たんですけど………」


 ガキじゃなくて神様だったわ。

 どれだけ考えたところであいつが今手に持ってる宝石“三弁花”の一撃で蒸発する未来しか見えないし丁度いい、依頼であるならば受けない理由はないしな。


「どうぞ、汚い部屋ですが」


「ほんとに汚いですね」


 うるせえ、掃除はされてるだろうが。ちょっと年季が入ってて落ちない汚れが多いだけだ。


「え、何お客さん!?」


「ああ、嘘から出た真ってやつだな」


 まさか口からでまかせでいった一週間と経たずに仕事が舞い込んで来るとは。


「まさか本当にやって来るなんて」


「俺の日頃の行いが良いからだな。神様もきっと見ていてくれたんだろう」


 間違いねえ。神様も俺に見とれてるに違いない。


「こんな顔と頭がいいだけの男がいいなんて神様の趣味悪すぎ」


「はぁ?顔と頭がいいだけのお前と違って?俺は中身も良いですし?学会ではいい性格してるってよく言われたですし?」


「やっぱバカね」


 あ?んだこの女やんのか?


「錬金術の王たるこの俺に向かってバカだと?やっぱおめえ頭も悪いようだわ」


「はぁ?私錬金術の歴史を五十年は押し進めた偉人なんですけど?」


「俺百年」


 金錬りあげちゃったからね。いやー天才ってつらいわー。賢者の石とか作っちゃってつらいわー。不老不死の霊薬は未完成だけど理論上は完成させたからねつらいわー。


「くっ、何も言い返せない……!童貞の癖にっ!!」


「どどっど童貞ちゃうわ!!そっちだって処女だろ!!」


「処女は童貞より価値ありますぅー」


 うっぜぇ!!!!!!


「あのー」


 あ、いけねえお客の前だ。


「ちょっと、子供の前で下品な話しないで」


「最初に童貞だとか言い出したのはお前だろうが」


「あのっ!!」


「「はいっ!!!」」


 背中に走る悪寒に従い二人揃って正座をしていた。この感覚、ジェウクス錬金学会で二人揃ってバカやって弟子のシトラに怒られたときに似ているな。あんな恐ろしい女と同レベルのやつが二人も居るなんて考えたくないが……もしそうならここで殺しておくか?いや、金貰えなくなるのは困るな。


「それで、本日はどのようなご依頼で」


「えっと、ある宝石を持ってきてもらいたいんです」


「宝石……?」


「ええ、そうです。ジェウクス錬金学会で一度見かけて、綺麗だから売って欲しいと言っても売って貰えなくて……いくらでも出すって言ったんですけど金に変えられないって」


 金に出来ない宝石……?世界に一つとかそのくらいのものか?いやでもそんなものを人目に付く場所に置いたりはしないだろうし。


「どんな宝石なの?」


「赤くて……中にこんな感じの模様が入っていました。大きさは僕の拳くらいだったと思います」


 ガキの手とはいえ、握りこぶし一個分って結構デケえな。そしてこの模様……


「これって……」


 こっそり耳打ちしてくるウェズディ。言わんとしていることは俺もわかる。


「ああ、ヴァロンド侯爵家の家紋だ。細かいところは違うが何か繋がりはあると思う。侯爵家の家紋が入った宝石とか売りたがらないのは当然だし」


「だとすると入手は厳しくない?あの人ジェウクス錬金学会のこと嫌ってたでしょ」


「嫌われてたのはお前だけだろ。主語でかくすんじゃねえ」


「いや私が嫌われ過ぎてその所属する学会のことも嫌われてるわね。それで、どうするの?相手が侯爵だとすると手を引いちゃうかもよ?」


「てめぇ……いや、説教は後だ。あのガキには誤魔化して伝える」


 ひそひそと小声で話す俺らを不審そうに眺める依頼者。あまり放置するのもよくねえな。


「えーっと、名前なんだっけ」


「クリンシュです」


「そうか。ではクリンシュ君。一週間待ってくれるか?それくらいでなんとか出来そうだ」


「本当ですか!!」


「本当だ」


 一週間以内に交渉してくるとも。無理そうならパクってくるがまあ、偉大なる俺の頼みなら快く引き受けてくれるだろう。だって俺錬金術の天才だし。


「というわけで一週間後にまた来てくれ。依頼は前払いで六万、達成で二十四万だ」


 良いところの坊っちゃんっぽいからふっかけとこ。こんな仕事十万もあれば家賃払った上で半年は仕事しなくてもいいくらい手元に残るだろうとは思うが。まあ払えないようなら二十万までまける……というか元からそのつもりで少し高めに言ったんだ。


「高くないですか」


「馬鹿野郎お前一週間で誰も売ってくれない宝石用意しようって言ってんだぞこっちはよお」


 貴族ってのは礼儀とかうるせえからな。普通一週間じゃ予定つけることすらできねえ。そんな無茶な道理を通そうとするには百万だって安い。まあ俺なら国王だって呼び付けられるが。

 あ、いや俺処刑されて死んでんだったわ。死体今も厳重に保管されてるらしいし。まあ死者が出てきたら驚いて話聞くくらいならするでしょ。よって呼び出せる。Quod Erat Demonstrandum


「まあ、確かに……では、これで」


 ポン、と差し出される六枚のシューケロニー金貨に、子供にすら負ける経済力の差を思い知らされる。おのれ資本主義……でも魔法とかいう個人の才能が大きく関与してくる世界で皆仲良くとか出来ないから仕方ねえか。あばよ社会主義。俺はお前のことそんなに嫌いじゃ……いや、無能共の尻拭いしなきゃいけなくなるから嫌いだわ。

 まあ貴族制ある時点で社会主義なんて弱者の妄言だし資本がなくても血統でどうにかなっちまうが。


「それではよろしくお願いいたします、ジャーントさん」


 ジャーント……?ああ、俺か。そういやこの錬金相談所を開くときに本名だと警戒されて客入ってこなさそうだから外の看板には偽名使ったんだった。結局全然客来ねえから忘れてたわ。


「任せとけ!!」


 出ていくクリンシュを見送る。

 ヨシ!今後の方針も立ったことだし(立ってない)、とりあえず家賃だけ払っておくか。


「さすがにボッタクリすぎじゃないかい?まだ子供だろう」


「うるせえ黙ってろ爆弾魔が」


「そうよ。あんた初めてあった時に湖に“柔軽銀”投げ込んで爆発させたのまだ許してないんだからね」


 押入れからのそりと現れた少女はアルシェール。脳みそが常時炸裂し続けてるような爆発厨だがその正体は魔界の公爵級の大悪魔らしい。

 自分で呼び出しといてなんだがこいつ本当にそんな大仰な肩書き持ってんのか?

 弟子のシトラにすら隠しておくほどのガッチガチの切り札だが、肝心なところで役に立つどころか足引っ張ってる気しかしねえ。


「で、どうすんのよ。ヴァロンド侯爵に会いに行くって言っても礼服も何もないわよ」


「俺ほどのVIPなら顔パスで行けるだろ」


「行けるわけないでしょ。あんた私がボロボロの服着て訪ねて来たらどうする?」


 どうするってそりゃあ………


「気が晴れるまで煽ってから追い返すが」


「とか言ってるがそんな状況になったら家にあげて何があったかは聞いてくれるよその男」


「うるせえ爆弾魔は黙ってろ」


「そうよ。話の腰を折らないでよね爆弾魔」


「アレェ!?僕今いいこと言ったと思ったんだけど!!???」


 どこがだよ。人が話してるところに茶々入れていいこと言ったも何もないし、今のはいいこと言えてねえし。


「話を戻すとね、そういう風に嫌いな相手なら僅かな隙でも見つけて追い返したいのに、ボロ切れみたいな服とか着ていったら大喜びされるのよ」


「別にお前ら嫌い合ってないじゃん」


「なんか言ったか爆弾魔」


「そうよ。次言ったらぶっ飛ばすわよ爆弾魔」


「べーつに」


 ……小声でほら仲良しじゃんとか言ったのは聞こえなかったことにしといてやる。わざわざ追及して仲良し認定されるのも癪だし。


「じゃあ仕方ねえか。おい爆弾魔。錬金するから力貸せ」


「えー仕方ないなー。僕そういうのよく分からないけどタキシードでいいの?」


「いいんじゃね」


 俺もその辺よくわからんしシトラに丸投げしてたなぁ………あれ?


「もしかしてこんなんだから追い出されたんじゃないかって思ってない?大正解よ」


「なんで考えてることわかるんだよ気持ち悪い。あ、爆弾魔は黙ってろ」


「まだ何も言ってないのに!?」


 なんでもかんでも任せすぎたな。うん、良くない。反省しておこう。まあアルシェールはこき使うが。


「おら、早くしろ」


「えー仕方ないなぁ。この襤褸切れを綺麗な礼服に変えるんでしょ?触媒、設備なしでこの程度の錬金だったら素の君なら成功率五割くらいかな。どれくらい捧げる?」


「左腕一本」


「じゃあ二割だね」


 おいふざけんな。


「なんで腕一本丸々使って二割しか上がんねえんだよ。前は四割だったろうが」


「だって君の肉食べ飽きたんだもん!!」


「うるせえそういう契約だろうが」


 俺がこいつと交わした契約は三つ。そのうち一つが自分の肉体の一部あるいは全部をもって錬金術の成功率を上げるというもの。もちろん、スペアボディも俺の体の一部ではあるし、あれは俺の秘密工房がある限りほぼ無尽蔵に生産されるから俺は実質無条件でこの力を使える。

 ちなみに本人は気付いてないけど聞いたら錬金術の成功率を教えてくれるというのは凄まじいことだったりする。が、言ったら調子乗って教えてくれなくなりそうだし言わない。


「どうする?僕としては不味い君の肉をそんなに多く食べたくはないんだけど舐められてるのも嫌だからね。もっと要求するよ」


 丸々一人使い潰して嫌がらせしてやろうかこいつ。いや、そんなもったいないことは出来ない。食べ過ぎて苦しんでるこいつなんて見ても面白くな……いや、やっぱ面白そうだわ。


「………一本で」


「何今の間は」


「スペア全部使ってはち切れんばかりの腹晒して吐こうにも吐けずに悶え苦しむお前を見ながら爆笑しようかなっていう間だよ」


「やめてね?」


 もったいねえからしねえよ。お前の苦しむ顔なんざそこまでしなくても見れるわ。


「やらねーよ。早くしろや」


「仕方ないなぁ………支払う対価は左の(かいな)。見合う価値は(わざ)の調べ。高みを目指す者に後押しを。届かぬのなら爆ぜるがよい」


 成功率は七割。金を賭けるには心もとないが命を賭けるには十分な割合。

 七割で錬金術が成功し、三割で大爆発を起こしてもろとも死ぬ。なんでこっちが対価払ってるのに失敗したときのリスク背負わされるんだよ。いや爆発だからこいつの趣味だな後で泣かす。


「あいよ」


 そっと背中に添えられた手から魔力が流れ込む。本人曰く正確には魔力ではないらしいが俺が魔力としか感じとれないから魔力だ。

 数ある魔術の中で錬金術が劣る点。それは下級の素材を上位素材に変換するのに高価な設備と場合によっては高価な触媒が大量に必要なこと。鉛100キロから金1キロを練り上げようと思ったら設備を揃え触媒を買うのに金100キロ買える程の金額を使う。設備を維持するのにはそれ以上の額が必要になるな。

 ジェウクス錬金学会にある金の錬金炉もあと二十年は休みなしで使わないと設置の採算取れないし。魔力で代替したりすることである程度補えるから単純には言えないがまあ、非効率極まりない。

 錬金術が他の魔術よりも優っている点。それは単純。今手元にあるもので今手元にないもの、それもこの世に存在しないものまで手に入れられること。浪漫は効率に勝る。

 などと錬金術の基礎を振り返って見たが襤褸切れを同程度の面積の礼服に変えるのに発生する熱量なんざ鉛を金に変えるときの熱量に比べりゃ屁でもねえ。錬金術を加速化させる触媒だってアルシェールがほぼタダで代替して(やって)くれる。つまり今この場で行う錬金術は他の魔術よりも劣る点は存在しないのだ。


「ほいっと」


 とりあえず爆発はしなかった。まあ爆発したところで俺もウェズディも生き返るし俺が生きてる限りアルシェールは魔界へ帰れないからせいぜい住む場所を失うだけだが。

 出来上がったものは上質なタキシード。これならまあ恥ずかしくはないだろう。

 元々が破れて着れなくなった俺の服だし大きさ的には問題ないはずだが、一応袖を通してみる。


「ぷっ……似合わな」


「ぶっ飛ばすぞてめえ」


「かかってきなさいよ!!!返り討ちにしてあげるから!!!」


 マジで返り討ちだから困る。今出来る錬金じゃ“三弁花”に対する有効な対処手段がねえ。マジであの花潰れねえかな。


「とっとと行ってきなよ。うるさいから」


 あんだとこいつ!!!


 *


 ムカついたのでウェズディと共にアルシェールを泣かした後に来たのはヴァロンド侯爵邸。さすがに徒歩で来るのはダサいという感覚はあるので貰った前金のうち五千と僅かな誠意(“三弁花”が漏らす光)で快く引き受けてくれた馬車に揺られること約半日。

 従来の馬車なら三日は掛かる距離が半日で済むんだからこの錬金術で作られた馬車はすげぇよなぁ。ま、作ったのは俺なんだが。正確にはシトラらしいが弟子の功績は俺の功績でもあるだろ。

 あいつは俺がその辺に捨ててた思い付いたはいいけど実行する気にならなかった設計図から改良したみたいだし名実ともに俺の功績よ。


「つ、着きました」


「おう、ありがとよ。ほら持ってけ。釣りはいらんよ」


 御者に握らせたのはシューケロニー金貨一枚。さすがに脅されて相場の四分の一は可哀想だと思ったので一万渡したわけだ。それでも相場の半分じゃないかって?知らん。シトラの奴が馬車の値段ボッてるんだろ。馬車の値段が高いから元を取るために運賃が高くなる。

 仮にボッてなくてこの値段であるならばシトラの奴が適当な仕事してることになる。俺が作ればシトラより安いコストで大量に製造出来るし、それでもっと広く普及させ競争を起こし運賃を下げさせるが………やっぱあいつは錬金術をわかってねぇ。というか大半の魔術師が魔術をわかってねぇ。魔術は学問であり学問は広く一般に普及させるべきだろうが。多くに継いで発展、進歩しまた広がる。これが学問のあるべき姿だろうが。

 っといけね。愚痴っぽくなっちまった。魔術の秘匿とかのたまう邪魔な連中が多すぎるのが悪い。


「ああ、そうだ。時間があるときでいいから俺のところに来いよ。その馬車もっと良いもんにしてやるから」


 なんでこんなことを思ったのかというと、この馬車に欠陥が見つかったから。やっぱあいつ適当な仕事してやがった。まぁ欠陥というか改良点であって動作は問題ないから無視したのだろうが……。まさか一番弟子(シトラ)に限って見落としとかはないだろうがいつか会ったときにこれ見よがしに突いたろ。


「さぁて、久し振りに来たわけだが……こんなに暗かったか?ここ」


 少なくとも二年以上近寄ってないわけで記憶があやふやだが、覚えている限りではもっと人気と活気があった気がするぞこの屋敷。今はどんより暗い感じがする。


「やぁ失礼。ヴァロンド侯爵はいるかな?」


 やや顔色の悪い門番に話し掛ける。出来るだけ笑顔に、フレンドリーに。


「アポイントメントは?」


「取ってないねぇ。でもま、この顔を見れば通してくれるかい?」


 目深に被ったハットを外す。はっ、あのウェズディですら思わず認める程度には良い俺の顔を知らねえとは言わせねえぜ。


「誰だ?」


 言われた。


「いやいやいや、え?知らない?俺の顔知らないの??一回くらい見たことあるでしょ!?」


 処刑されるまでは新聞社買収して毎日俺の顔を新聞に載せてたはずなのに。


「すまない」


「チッ、しゃーねぇ。ならヴァロンド侯爵にこう伝えてくれ。『俺は“ラピカの星”について知っている』と」


「ラピカ…?」


「おっと、結構大事な話だからな。とっとと行った行った」


 走り去る門番の男を見送って十分ほど。屋敷に向かって行った時以上に慌てた門番が帰ってくる。


「ど、どうぞ」


「ありがとう」


 門をくぐった先に待ち構えていた執事に連れられ案内されたのは昔一度だけ入ったことのある応接間。一見手入れが行き届いているように見えるが俺の嫁をいびる姑アイズは角の方に積もった埃を見逃さない。やはり人手が足りていないのか。前に来た時はしっかり掃除が行き届いていたんだが。

 にしても暑いなこの屋敷。陰気臭えしもっとジメジメしてると思ったんだが、料理中の台所くらい暑いな。


「ふむ、その品のない顔はやはり貴様かジェウクス・ターネリオン」


「挨拶もなしにいきなりだなァおい。あと俺はジャーントだ」


 一瞬の沈黙。


「フン、それで、用件は。“ラピカの星”なんて持ち出すからには相当のものだろうが」


「お宅の持ってる赤い石を寄越せ。したら前々からあんたが要求してた“ラピカの星”を作ってやる」


 まあガワだけだが。ウェズディならガワだけ作るくらいなら出来るはず。俺がガワだけの偽物を本物に練り上げなければ“ラピカの星”は完成しないんだがそこまでしてやる必要はねえだろう。


「……嘘だな。“ラピカの星”を作れるのならあの石などそれを用いて産み出せばよかろう。なぜそうしない」


「作るのにその石が必要だからだ。生憎、賢者の石は錬金学会に置いて来ちまったからな。まあ奴らに俺が掛けた鍵が解けるとは思えねえから誰も金庫から取り出せねえだろうが」


 賢者の石は万能の錬金触媒だ。どんな錬金術もほぼ成功する。まあそれでも“ラピカの星”の錬金の成功率は1‰にも満たないが。ガワだけでも作れるウェズディってすげぇんだな。それを本物に出来る俺のがもっと凄いが。

 じゃなくて賢者の石とか言うズルは俺が封印した。だって学問とは原理を解明し機構を把握するモノだから。原理も機構もよくわかんないけど結果は得られましたなんていうのは認めない。


「では貴様のいう赤い石を渡せば“ラピカの星”が作れるのだな?」


「そうだ」


「そうか、そうか。では、その男を捕らえよ!!!」


 瞬間、客間のドアが勢いよく開き、武装した兵がなだれ込んでくる。どう見ても客人を歓迎する態度には見えないし、ドッキリを仕掛けて楽しもうとかそういう次元を越えた緊迫感が漂っていた。


「随分な返答だなぁおい。断る理由を聞かせて貰えねえか」


「国家反逆罪で処刑された人間の言う事を信じるとも?それに、どこで嗅ぎつけたかは知らないが赤い石を知っているなら帰すわけにはいかん」


 俺の罪飛躍しまくって最終的に国家反逆罪ってことにされたからなぁ。ちょっと不老不死の研究費用として国から貰った金で泥人形の兵士量産しようとしただけなのに。


「その割には俺がジェウクス・ターネリオンだってことは信じるんだな」


「まあ、貴様であれば蘇りくらい出来るだろうとは思っていたからな。だから生け捕りにせねばならず苦労しているところだよ、今は」


 嫌な信頼だな。まあその通り何だが。この体が死んだところで秘密工房にある体に蘇るだけだしな。


「よぉし、降参!」


「はっ?」


「いやだから降参つってんの。今日は話し合いのつもりで何も用意してないし、流石にこの人数差は勝てそうにないから」


 まあ錬金術があればその辺の何でもないものが武器に化けるが、流石に一対二十はひっくり返せない。

 両手を上げて降参の意志を示せば、そのまま地下牢に連れてかれた。


 *


 捕まってから三日が経った。美味い飯と面白い本を強請って過ごしてた。いや何もしていないわけではない。看守を行かせてからどのくらいで戻ってくるかとか食事の時間はいつかとか測ってた。

 にしてもヴァロンド侯爵いい趣味してんな。この『地形から見る聖教の成り立ちと布教』とか結構面白くて為になったわ。まあこれ俺の記憶が正しければ禁書指定一覧の中にあった名前だと思うが。


「へい看守、布団の寝心地悪いんだけど新しいのに変えてくれない?」


「無駄口を叩くな。お前は──」


「えーじゃあ脱獄しちゃおっかな〜。地下牢(ここ)が今住んでるボロ家より居心地いいならずっと残るけどボロ家の方がマシならそっち戻っちゃうなぁ〜」


 あの門番がおかしいだけで俺の顔と偉業は多くの人が知るところである。この看守もその例に漏れず俺のことをしっかり理解しているようで俺がその気になれば脱出することが容易であると理解しているようだ。


「チッ、そこで大人しくしとけよ」


「君等が協力的である限りはね」


 即座に降参して大人しくしていたのもあってか、それとも人手が足りないのか一人しかつけられてない看守が消えた。俺は今一時的な自由を手に入れたわけだ。

 当然、大人しくするわけがねえ。錬金だ錬金。

 ボロボロの枕から抜き取った綿を水晶に変える。植物を鉱物に変えるのは結構難易度が高いが、まあ俺なら余裕よ。


「あっつ!!!」


 難易度が高い錬金ってアホみたいに発熱すんだよな。たまに吸熱するけど、その規則性はまだ見つけられてないから経験則になっちまうが。

 思うに発熱するのは加えた魔力で物体の原子(アトム)構成をいじった時に元々の形を作ってた原子(アトム)同士を結びつける魔力が弾かれて熱として出てきてるんじゃねえかって。それで構成を変える時に変えた先の構造になるための魔力が足りない時は熱を魔力として奪うんじゃねえかな。

 まあそれを証明するにはまず魔力が熱になることを証明しねえと。炎魔術は魔力によって炎という現象を発生させてるだけだし……いや、炎と熱は同じなのか?まあでも理論体系が異なるから上手くハマりはしないだろうな。


「床焦げちまった」


 石造りの床に黒い焦げが付く。やべえやべえ、バレたら追及されるな。上に座って隠しとこう。


「許可が出た。新しい布団は明日運ばれてくる」


 やったぜ。これで一生ここでゴロゴロして暮らせる。まあしないけど。


「じゃあ次は紙とペン持ってきてくれ。暇で暇で脱獄とか企ててしまいそうなんだ」


「チッ、確認してこよう」


「出来れば植物紙がいいかな。学会が出してるやつ」


 羊皮紙でも問題ないんだが学会製の奴は魔力が乗せやすくて簡易魔術書(スクロール)が作成しやすいんだよな。そういう需要に合わせて作ったものだから当然っちゃ当然なんだが。

 さて、行ったか。


「雷が欲しいが……まあないなら仕方がない」


 錬金術を行う時に魔力ゴリ押しは嫌なんだが……実験道具がない以上仕方がない。理想を言うなら誰でも使えるように魔力を用いず錬金出来るようになればいいのだが。


「ホイッと。作るの久し振りだが覚えてるもんだな」


 先程錬金で作り出した水晶を俺の有り余る魔力で無理やり“セレドの探水晶”に作り替えた。床の焦げ目が少し広がったが。


「やっぱアルシエールにやらせた方が魔力効率いいな」


 いないものはどうしようもないが。でもほぼ自動化されてる俺の複製なんてやっすいモン作るのに必要な魔力の倍近く注いでくれるんだから。

 というわけでさっそく出来をチェック。魔力を込めれば光りだし、周囲で最も価値のある物の方向を示す。かつてお宝が大好きな聖女セレド様が持っていたとされる聖遺物の再現品だ。作った時には聖教に殺されかけた。ちなみに件のセレド様は隠されたお宝を発見するのが好きなのであってお金等には興味ないらしく換金したら全国の孤児院に向けて寄付していたとのこと。これを延々と聞かされながら拷問されたんだよな。同じ話何回も聞くのは辛かったぜ。


「光は……地下?」


 淡く光る水晶が示したのは斜め下、この地下牢よりもさらに下だった。昔ウェズディが手に入れた見取り図ではこの地下牢よりも下はなかったはずだが。


「っと、まずいまずい」


 ドタドタと慌ただしい足音を聞き魔力の流れを止める。俺としたことが時間数え間違えたか?もう少しくらい余裕あると思ったんだが。

 もはや座っただけじゃ隠しようもない焦げ跡の上に布団を被せ寝転がる。まだ結構熱い。


「おら、早くしろ!!」


「ちょっと!痛いじゃない!!」


 聞き覚えのある声だ。聞きたくなかった。


「あっ、いた!!よし目標発見帰るわ!!!」


 こちらを確認するや否や即座に跳び上がり看守を蹴り倒す声の主。後ろ手に縛っている鎖を断ち切り、看守の懐を漁る。


「何やってんだウェズディ」


「あんたが帰って来ないから探しに来たのよ。それより早くしないと依頼は失敗よ?何遊んでたの」


「だってここにいれば面倒な依頼とか受けなくても済むなぁ、って思ったから」


 嘘だけど。向こうもそんなことは分かりきっているのか冷たい目を……いやこいつ、俺なら本心からそう言いかねないと思ってやがる。そういう目だあの目は。


「だっても何もないでしょ。ほら行くわよ」


 ガチャリ、と音がして牢の鍵が開けられた。出たくねえ。一生ここでゴロゴロしたい。あのボロ家に戻りたくねえ。


「今ならまだ脱獄には気付かれてないでしょ。今のうちに屋敷を探索して家紋入りの赤い石とついでに宝石をいくらか盗み出して逃げるわよ」


「えぇ……看守が戻って来なかった時点でバレると思うんだけどどう思う?お前が今伸しちゃったけど」


「最速で盗んで逃げる」


 無理があるだろうが。猶予あとどのくらいだよ。十分か?その程度で探索出来るわけねえだろうが。

 ノッた。


「これを見ろ」


「これ……“セレドの探水晶”?また聖教に狙われるのはごめんなんだけど」


「そんときゃリチーナ呼ぶよ。四輪等級の聖女が後ろについてりゃ下手に手出しできねえだろ」


「あの娘こそ真っ先に狙ってきそうなんだけど。死霊魔術師みたいな見た目してるけど四輪とかいうほぼ最高位の階位まで登り詰めるくらい信心深いんだからね?」


 聖教の階級は十二階位あり数字が少なくなるほど階級が上だ。

 一輪は神、二輪は神の奇跡を受けた聖徒とか天使、三輪は教皇なので普通に登り詰めることが出来る階級は四輪までとなる。僅か十六歳で四輪まで辿り着いたというリチーナははっきり言って異常なのだ。しかも次期教皇候補だというから実質三輪みたいなもん。

 まあ見た目は聖女のアンデッドかと思うくらい陰気臭いが。笑い方もケヒャヒャとかだし後で浄化するからこの霊魂酷使しても良いよねとか言うが。


「まあバレたらその時どうにかする。それより見てくれ」


 魔力を込めた水晶が光を放つ。手のひらでも覆ってしまえるほど小さな光の中で、一際大きな光が指し示すように地下を指していた。


「お宝はそっちね。分かったわ」


「あ、おい待て何を───」


「“三弁花”よ、我が敵を撃て!!!」


 “三弁花”の機能は三つ。いや本当は七つあったんだが四枚の花弁が失われたことで機能を四つ失っている。

 一つ、花弁を消費する自己蘇生。花弁と機能は結びついているから四つ機能を失ったのはこれが原因だな。

 二つ、太陽の光を集めて蓄積しておき、光線として放出する。放出する時に注ぎ込んだ陽光に応じて威力が上がる。今だって件の地下室まで一撃でぶち抜きやがった。

 三つ、集めた太陽の光を使って治癒魔術を発動する。治癒魔術は聖教の使う魔術(聖教では法術という)の中で結構高位の魔術で使えるものは聖女、聖者として崇められる。のでそれを再現できる石ころなんざ作ったとバレたら確実に命がない。

 今ウェズディの左胸から光線が出たから恐らくこいつは捕まった時に奪われないように左胸に“三弁花”を埋め込んでやがったな。どうせ回復するからって無茶やりやがって。


「クソ熱くて火傷したかと思ったんだけど」


「したら治してあげるわよ。さ、降りましょ」


 登る時には苦労するであろう急勾配の穴をほぼ滑るように駆け下りていく。どんだけ陽光込めたんだよ。めっちゃデカイ穴なんだけど。


「あっ」


「どうし──」


 先に降りたウェズディが声を上げる。程なくしてその原因が俺の目にも飛び込んできた。


「GOGYURURURU……」


 腹の横を掠めたのであろう、光線の焼け跡と着弾地点と思わしきクレーター。そこには何かに繋ぎ止められていたであろう鎖の断片が散らばっていた。

 鎖を繋ぎ止めていた物があるのならば当然、その鎖の反対側には繋ぎ止めておきたい何かがいるわけで、それは否応なく目に飛び込んでくる巨体だった。


「「赤竜!?」」


 燃えるように赤い鱗に映える真っ白な牙と爪。空の覇者たることを伝える巨大な翼。自らの炎を受けた者の末路を示すような真っ黒な瞳。紛うことなき赤竜。

 火山等に生息し石を好んで食べる赤竜がこんなところに。野生でいるわけでもないし、地下に鎖で繋がれていたなら番犬って感じでもないだろう。


「ねえ、ざっと見た感じお宝らしきものは見当たらないのだけど」


 こいつこんなときでもお宝探しかよ。いや、昔からそういうやつだったけど。


「“セレドの探水晶”は切り離されない限り一つの個として価値を見出すからな。赤竜の鱗に翼、牙、爪、目に内臓。どれを取っても高価な素材なのに生きている状態ならそれら全てが合算される。当然、この屋敷全てのお宝を引っくるめても届かないだろうよ」


 実際俺等も学会に居た頃ですらガンガン使えるものではなかったしな竜の素材。何なら高いからって自分で取りに行ったこともあったっけ。


「GYERORORORORO」


 不意の攻撃に対する混乱が解けたのか、俺たちが騒ぎすぎたのか、恐らく後者であろうが赤竜が彷徨わせていたその頭をこちらに向ける。


「ねえ、あの目見たことあるんだけど」


「奇遇だな。俺もだ」


 赤竜が向けてくるあの目。敵対するものに対して百万回くらい殺そうかとか考えている怒りに満ちた目。具体的には縄張りに侵入した獲物に向ける目。竜狩りのときに同じ目を向けられたから覚えている。あのときは黒竜だったけど。


「戦える?」


「“三弁花”が撃てるのはあと一発だけよ。相手を怒らせるだけの屑みたいな攻撃なら百は撃てるだろうけど。そっちは?」


「三日分の魔力注ぎ込んだからもう魔力残ってないんだが?」


 “セレドの探水晶”はかなり高度な錬金術なので魔力だけで作るなら馬鹿みたいな量を食う。あと一日魔力回復に努めてから脱獄の予定だったがこいつが来たから予定が早まった。


「どーすんのよ」


「逃げるしかねえだろうが」


 もと来た穴に戻ろうと振り向いた瞬間、目の前を炎が通り過ぎていった。そうですか。逃さないと。


「ウェズディ、一発だけならさっきと同じ威力が出るんだな?」


「そうね。まあでも……」


 わかってる。赤竜の持つ火袋を傷付けたら大爆発を起こして俺らも死ぬ。かと言って火袋を外して狙おうにも狙える部位は急所になり得ない。頭を撃ち抜くのは出来なくもないがこの地下は結構広い。避けられたら終わりだろう。

 死ぬのはどうでもいいが依頼達成出来ないのは困る。


「クソッ、赤竜じゃなければな。…………ウェズディ、天井狙えるか?」


「いいけど、壊せるかわからないわよ?」


「よく見ろ。あの巨体をどうやってここにしまったと思ってんだ。あの天井はこいつ押し込めた後に魔法で作られた岩だよ」


 まあ結構頑丈そうではあるが。でも魔法で作られたものというのは魔力だけで出来ているので錬金術が行いやすい。正確には魔力を通しやすいので錬金術で劣化させやすい。魔力だけの錬金術が推奨されない理由の一つでもあるな。魔力だけで無理やり錬金したものは本来原子(アトム)が形作る部分を魔力で無理やり補完するのでもう一度錬金する時に失敗しやすい。俺ですら三日分の魔力で無理やり成功させたし。


「今の魔力量だと直で触れないとちょっとキツい。なのでウェズディ、囮を頼む」


「はあ?一分だけだからね!!」


「それで十分。来るぞ、散開!!」


 光線を恐れてか遠巻きにこちらを見ていた赤竜が再び炎を放つ。

 こちとら黒竜の死の吐息とかいうわけわかんないモンで縄跳びやったんだ。馬一頭丸々焼けそうな火球がどうしたって…いやデカいわ。


「チッ」


 ちょっとカスッた。左手が炭みたいに真っ黒だ。“三弁花”で治せるかこれ。


「ちょっと、私が囮をやってるんだから簡単に死なないでよね」


「じゃあ真面目に囮やってくれる!?」


 ほっそい光線でチクチクと赤竜を攻撃するウェズディ。効いてるどころか気を引けてる気すらしないんだが。さっきから俺を執拗に攻撃してくるんだが。

 溢れ出るカリスマ?ってやつが竜ですら惹き付けてしまうのか。いや、マジ勘弁。


「本能を刺激するウザさなんでしょ。ほら、いい加減こっち見なさい!!」


 “三弁花”によるちょっと強めの光線が竜の首筋を焼く。大したダメージは与えられてないがさしもの竜も苛立ったみたいで逃げ回る俺よりも刺してくる(ウェズディ)の方に注視したようだ。竜の攻撃がウェズディの方へ向いた。いや、ブンブン振り回してくる尻尾とか流れ弾の火球とかであわよくば殺そうとしてくるからこの赤竜性格悪いな。


「しっ、捕まえた」


 暴れまわる赤竜の尻尾を掴み、よじ登ってそのまま背中へ。これでも少し高いところにあるので、飛び跳ねないといけない。この不安定な竜の背中で。


「のわっ!!ウェズディ!揺れないように押さえてろ!!!」


「出来るわけないでしょ!!!」


 できなくてもやるんだよ!!


「死ねぇ!!!」


 なんだかんだ言ってもちゃんとやってくれるとこ大好き。

 大きく動き撹乱するウェズディを追うため、赤竜の動きが一瞬止まる。その隙を逃さずジャンプ。伸ばした右手の指先が天井の岩を掠め───


「落ちろオラァ!!!」


 その性質を脆く柔らかいものに貶める。下級交換の錬金術とはいえ、例に漏れず高温を発するため、せっかく残った右手も真っ黒に焦げちまった。まあ魔力だけの錬金は錬金術そのものに消費する魔力もそうだが発生する熱量を抑えるのに必要な魔力も膨大だしな。そこ用意できなかったからしかたない。“セレドの探水晶”も使った魔力の三割は熱量を抑えるものだし。やっぱあと一日あればな。


「光よ!!」


 俺が落下した真上を突き抜け、光が通っていく。いやまあ狙い的には竜の真上を攻撃するのは良いんだけど俺がいるんだからさぁ、人の心とかないわけ?あるわけなかったわ。

 撃ち抜かれ、瓦礫と化した岩が竜の頭上に降り注ぐ。さしたる傷は与えられていないが、しかし降り注ぐ月光に外の気配を感じたのか竜の攻撃の手が止んだ。


「そうだ、お前の行く先は──いって、痛い痛い!!!」


 月光を浴び、外に焦がれた竜がすることは一つ。脆くなったその天井をぶち抜き大空へと飛翔すること。その背中にしがみつく矮小な存在など忘れて。いやこいつ積極的に押しつぶそうとしてきやがる!!


「きれい……」


 月下に翼を広げ、その赤鱗を白色に煌めかせて闇夜に浮かぶ姿は確かに綺麗だと思いますよウェズディさんや。でも背中の俺は死にかけなんだわ。今ただでさえ真っ黒に焦げて力が込められない手を離したらそのまま真っ逆さまに転落して死ぬんだわ。

 助けろ。


「何をしている貴様ら!!」


 お、ヴァロンド侯爵だ。この際あんたでもいいから助けてくれよ。


「グっ、クソっ!!鎮まれぇい!!!」


 ヴァロンド侯爵が掲げた赤い石が怪しげな光を放つ。その輝きを受けた赤竜は荒れ狂うような怒りを鎮めた。いや、まだ怒ってはいるな。表面に出てないだけで。

 ってことはあの石は“モニカの赤石”か。んで多分依頼された石でもあると。また面倒なものを。“モニカの赤石”といやその大きさに合わせてどんな生物も操れるとかいうトンデモ鉱物じゃん。その性質から一級禁制品に指定され錬金術で作ることはおろか掘り当てただけでも死刑になるとかいう。


「その二人を殺せ!!」


 うーん、その命令はどうなんだ。そもそもこいつ俺等のこと殺そうとしてたし。状況は特に変わらな……


「うおっ」


 本気で振り落としに来てやがる。やべえ保たねえ。早くしろ。さっきからチラチラ見えてんだぞこの野郎。


「アルシエール!!」


「はーい没収。止まれ」


 ヴァロンド侯爵の後ろからこっそりと近付いていたアルシエールが“モニカの赤石”を取り上げる。でもお前その命令は


「あああああああ!!!!!!」


 竜の巨体はピタリと静止した。そう、巨体は。だがその上に乗っていた俺はその勢いのまま振り落とされる。クソが。もっとちゃんと考えて命令しやがれアルシエール。


「フッ、感謝しなさい」


 間一髪、地下から脱出していたウェズディが受け止めてくれた。こいつ間近で見るとやっぱ顔はいいんだよな。


「ムカつく」


「助けてあげたのにその態度!?」


 悪かったよ。感謝してる。サンキューサンキュー。


「さてアルシエール。錬金頼める?この“セレドの探水晶”を“モイウの命石”に変えたいんだけど」


「どのくらい捧げる?」


「スペア一体」


「じゃあ八割くらい上げてあげるよ。支払う対価はその身一つ。見合う価値は(わざ)の調べ。高みを目指す者に後押しを。届かぬのなら爆ぜるがよい」


 “セレドの探水晶”が熱もなくその姿を変えていく。そうして生まれ変わったのは爪の先ほどしかない丸い緑の小石。それを一口で飲めば傷付いた体が即座に再生する。怪我も治って“セレドの探水晶”も消せるから聖教に追われる心配もない。完璧だな。


「きっ、貴様ら…!」


 お、ヴァロンド侯爵じゃん。逃げずに残っていたことは褒めてやるよ。


「アルシエール、やれ」


「燃やして良いよ」


 “モニカの赤石”を持つアルシエールの命令により赤竜がかつての主に向かって炎を吐く。まあ、命令しなくてもやっていただろうが。


「ぎゃああああああ!!!!!!」


 撃ち出された火球がヴァロンド侯爵を焼き、ついでにその屋敷も焼く。うーん、いい思い出も悪い思い出もないからちょっと可哀想だ。まあ俺に何か害があるわけでもないしいっか。


「さて、依頼されたものも手に入ったし帰るか」


「ねえ、なんか屋敷の方がおかしくない?こう、やけに燃えてるというか」


 確かに、石造りの屋敷にしてはやけによく燃えているというか……


「僕だって君らが戦ってる間ただぶらぶらしてたわけじゃないんだぜ」


「退避!退避ィー!!!」


 アルシエールから“モニカの赤石”を奪い取り赤竜の背中に飛び乗る。ウェズディのやつこの展開を予想してたのかもう乗ってやがった!!


「あっ、ちょっと!待ってくれよ!」


 アルシエールが赤竜の尻尾にしがみつき、その巨体が空へと浮かび上がった途端、屋敷が爆ぜた。

 降り注ぐ瓦礫と吹き荒ぶ爆風の中を竜は飛んでいく。


「バカ!このバカ爆弾魔!!どうしてお前はいつも爆発でケリを付けようとすんだ!!!」


 間一髪、その全てを抜け飛ぶ竜の背中で、尻尾からよじ登って来たバカを突き落とすべく取っ組み合う。クソ、こいつ力強え……。


「で、依頼どうすんのよ。“モニカの赤石”なんて渡せないでしょ」


「あーそれは問題ない。渡さなきゃいいだけだし」


 *


 扉を叩く音がする。


「クリンシュです」


 あの後竜を逃がしてから三日が経った。依頼人との約束の日だ。


「どうぞお上がりください」


「約束の品は?」


「今用意します。少々お待ちを」


 “モニカの赤石”が所持しているだけで死罪となる鉱物だ。そんなものを渡せないし、渡す気はない。というか、依頼品は“モニカの赤石”ではないのだ。だって“モニカの赤石”は文字通り真っ赤な石で中に何も入ってはいない。

 依頼された品はヴァロンド侯爵の家紋っぽいインクルージョンが入った赤い宝石で、ジェウクス錬金学会の奴が金には変えられないと言ったもの。俺等はそれを高価なものだと勘違いしたが、全くの逆だったのだ。


「これは?」


「塩水です」


 依頼人の前に出すのは真っ赤な瓶に入った塩水。別に飲むわけではない。


「これが依頼の品です」


「巫山戯てるんですか!!」


 うーん、まあ?巫山戯てるっちゃ巫山戯てるか。一応真剣にやってはいるが。


「いえ、これが依頼の品になるのです」


「帰る!!前払いの金はいいが報酬はなしだ!!!」


「まぁまぁ落ち着いて。話を聞いてください」


 帰ろうとする依頼人をなんとか宥める。


「貴方は依頼品である赤い石をジェウクス錬金学会で見た。そして学員にいくらでも出すから売って欲しいと言ったが、金には変えられないと言われた。ですよね?」


「ああ、その通りだ」


「それですよ。順を追って説明しましょう」


 気分は流行りの探偵小説の主人公。推理もクソもないが。


「まず、金には変えられないと言われたところ。これはどんな額も及ばないという意味ではなく、どんな額でも値しないという意味です。すなわち、金に変えられないほど無価値なもの」


 まあ俺なら遠慮なく売るが、一般の学員ならそうではない。貴族相手に吹っ掛けたなんてバレたら命はないも同然。恐れて売りはしないだろう。まあそうなっても保護するくらいはやってやるが。


「しかしジェウクス錬金学会にあるものはどれも一級品だと言うじゃないですか。価値がつかないガラクタなんておかしいでしょう!」


「確かに、あそこにあるものは一級品だ。だがこと宝石、それも赤い石に限ってはその限りではない。それがその塩水と関係するんだ」


 なんかもう探偵ごっこすんの疲れたし飽きてきたな。普通に喋ろう。


「宝石錬金において原料となるのは硝子(ガラス)だ。だが一流の錬金術師は塩水から宝石を練り上げる。いや、塩水から宝石を練り上げるのが宝石錬金術師として一流となるための関門だ」


 まあ硝子から錬金した宝石のほうが品質はいいんだが。だが硝子は調達するのも熱して溶かすための設備を用意、維持するのも金がかかる。塩水から宝石を練れるなら圧倒的にコスパがいいのだ。だって海行って適当に水汲めば原料調達出来るからな。


「そんでその塩水からの宝石錬金に失敗するとなんの価値もない赤い石になんだよ。失敗の仕方によって含まれるインクルージョンはまちまちだがな。お前が見たのはたまたまそういう形になっただけだろう。そんで、そんな失敗品を貴族の坊ちゃんに騙して売り付けたなんてバレたらあとが怖い。それに、プライドが許さないだろうな」


 そんなものは捨てろと常々言っているんだがな。


「さて、依頼の品については以上だ。うちのウェリンは優秀でな。失敗でさえ自由にできる。お前の望む模様で作ってやれるぞ」


「そう…ですか。でしたらこちら、姉の似顔絵です。これでお願いします。後で母に渡すので」


「あいよ。というわけだウェズ…ウェリン。頼むぞ」


 というかこの似顔絵に書かれた顔何処かで……ああ、マンジューのやつに似てる気がする。世の男共の理想とする少女(学会近所の酒場調べ)を形作ったつもりだけど実際にいるんだなこんな美少女。まあ俺の好みではないが。


「まあ超一流の私にかかれば造作もないことだけど……ちゃんと報酬払いなさいよ?」


「払いますよ。高い授業料だったと思うことにします」


 イイとこの坊ちゃんにしては随分殊勝なことで。俺の知ってるそういうところのガキは「金払えば何でも言うこと聞くだろ、まあ払わんが」って態度を隠そうともしないクソガキばっかだ。そういう奴は徹底的に泣かせてきた。こいつはその必要がなさそうでいい。


「出来たわ。本来なら三日ほどで溶けてなくなっちゃうのだけど、今回は失敗した状態を成功したものとしたから溶けることはないわ。感謝なさい」


 ホント、宝石錬金術に関してだけは敵わねえわ。なんかしれっと高度なことやってるし。


「ありがとうございます。これ、約束の報酬です」


 机の上にシューケロニー金貨が置かれる。六、十二、二十四枚ちゃんとあるな。


「ちゃんと受け取りました。またご贔屓に」


 依頼人が帰っていく。いやぁ、いい仕事したな。


「さて、金も入ったしなんか食いにいくか。ついでに今後の収益にも目処がたったしもっといい物件探そうぜ」


 “モニカの赤石”からアルシエールにスペア一体捧げて作り出した赤透明の瓶。内部で発生した熱量を吸収するとかいうヤバい性質を持っている為にこれに収まる大きさなら錬金し放題だ。まあ金とか錬るのに発生する熱量は吸収しきれないから何でもってわけでは無いが。

 硝子からならともかく、塩水からの宝石錬金は発生する熱量が少ない。なので俺等はもう宝石を作りたい放題、それによる金を儲け放題というわけだ。


「なら私久し振りに肉食べたい。何かわからない魚はもううんざり」


「僕も肉食べたいな。少なくとも萎びた野菜屑だけは絶対に嫌だね」


 じゃあ肉にすっか。なんか良さげな店……探すのも予約取るのも面倒だな。いつもの酒場でいいか。


 *


 side─???


「それで、結果は?」


 目の前の女性───私にとっては母とも呼ぶべき女性が鋭い目と共にこちらに質問を投げかける。


「彼らにヴァロンド侯爵のことを探らせてみたのですが、結果として侯爵諸共屋敷が吹っ飛びました。それに伴い“モニカの赤石”と思われる宝石の回収も行えず……」


「は?」


 部屋の温度が下がった気がする。明らかに不機嫌だ。


「クリマンジュー。私は回収してこいと、そういったわよね?」


 その変な名前で呼ぶのはやめて欲しい。しかし私に与えられた名前がそれであるのもまた事実だ。


「はい。ですので変わりにこちらを。ウェズディ様手製の品です」


 こうなることを見越して作っておいたジェウクス様特製の泥人形(ゴーレム)マンジューの顔が入った“ウェズディの血赤石”を渡す。

 訝しむ目でこちらを一瞥したあと、品物を確認したのか部屋の温度がもとに戻った。


「あら、あの子の顔入りの血赤石ね。しかもあの女手製ってのがいいわ。自分の黒歴史を掘り返されているようでさぞや悔しかったでしょうね」


 全然そんなことはないが、と言ったら最後再び鋭い目で睨まれるのが目に見えているので黙っておく。正直そういったところが彼女があの二人を超えられない理由なのだと思う。


「下がっていいわ、クリマンジュー。これを手に入れたことで此度の件は不問にしましょう」


「ありがとうございます、シトラ様」


 扉を開け、部屋から出る。ぶっちゃけ、彼女の計画が上手くいくとは思えないが、彼女に作られた偽錬造泥人形(ホムンクルス)である以上私は彼女に従うしかないのだ。

柔軽銀・・・文字通り柔らかくて軽い銀。銀ではない。鉄のナイフで容易く切れるほど柔らかく、同じ体積の銀と比べて遥かに軽い。空気に触れるとすぐに錆び、水に触れると爆発を起こすため油に沈めて密閉し保存する。


三弁花・・・錬金術師ウェズディによって作られた重なり合う3枚の花を模した赤い宝石。元々は八枚だったが完成した時にしょうもないミスで残機一つ失ったので世間一般には七枚だと認識されている。花弁の機能は最後の一枚が「花弁を消費して自動蘇生」であること以外はランダム。一応作成の段階である程度指向性を持たせる事ができる。


ラピカの星・・・錬金術を齎したとされる“変化の悪魔ラピカ・アーケロニー”が首から下げている首飾りについている蒼い星型の宝石。世界を変える願いですら叶えると言われ、全ての錬金術師がこれを作り出すことを至上命題としている。


賢者の石・・・どんな錬金術も成功させると言われる万能触媒。実際は超高度な錬金術は成功させることが出来ないというか、それらはこれを使うことを前提とした上で九割方失敗する。

過去に作ることができたのは三人。錬金術師アズレ、錬金術師ホールトン、そして錬金術師ジェウクスである。その三人は全員作り出した賢者の石を使わず封印している。


セレドの探水晶・・・お宝大好き俗物聖女セレドが神に「もっとお宝が見つけられますように」と祈った際に神から賜ったとされる水晶。それを作り出すのは神の御業に対する冒涜として聖教に追っかけ回される。なお実際は聖女セレドがお宝を求めて入った洞窟でたまたま拾っただけ。

聖女セレドは清貧を是とする聖教的には「お宝求める卑しいやつだけど孤児救済のためだしまあいいかな」とグレーな扱い。


モニカの赤石・・・かつて名をはせた魔獣使いモニカにあやかって命名された真っ赤な石。その大きさに応じて生物を操ることができ、こぶし大の大きさなら竜をも操れる。当然、人も操れるので持ってるだけで死刑になる。

当のモニカ本人はこの石を使わず拳一つで魔獣を使役していた。というか本人が生きていた時代にはこの石はまだ見つかっていない。


モイウの命石・・・錬金術師モイウが病気の妻の為に作り出した小さな丸い緑色の石。飲めばたちまちどんな病気、怪我も治る。錬金術師ジェウクスのお陰でかなり製作費を抑え込むことに成功したものの、それでも下級貴族の家が軽く吹っ飛ぶくらいの値段はする。

モイウ本人はこの石を作るのにその命をかけたので妻に飲ませた後に息絶えた。………と、ここで話を終わらせて感動話風に語り継がれているのだが実際は妻が死霊術師だったため息絶えた直後の彼の魂を人形に降ろし妻の寿命が尽きるまで末永く幸せに暮らした。


ウェズディの血赤石・・・塩水から宝石を作ろうとして失敗した時に出来る赤い石。塩水から宝石を作ろうとして失敗したのは錬金術師ウェズディが初めてである。これはウェズディが劣ってるというわけではなく、そもそも塩水から宝石を練り上げるのに失敗する段階まで行けた錬金術師がいないから。それまでの錬金術師では塩水をどうしたって一切の反応を示さなかったのだから初めての失敗ですら彼女の偉業となるのだ。もちろん、初めて成功させたのもまた彼女である。


アルシエールの錬金瓶・・・錬金術師ジェウクスが作り上げた内部で急激に発生した熱量をある程度吸収する事のできる瓶。これで大掛かりな装置など必要なく机の上で錬金術が行える。

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