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掌編置場

揃えばあがり

作者: 須藤鵜鷺

 今ってスマホに何入れてたんだっけ。有線のイヤホンをジャックにつっこみながら考えた。

 サブスクに入るほど音楽が好きなわけじゃない。無料で聴けるものもあるけどCMがうるさいし、聴きたい曲だけ聴くというのも難しい。結果的に私はパソコンで編集したプレイリストをスマホと同期させて聴いてる。こんなめんどくさいことしてる人って今や絶滅危惧種かもしれない。

 結局何を入れたのか思い出せないままプレイリストを見る。あー、こんな感じか。今入ってるのはちょっと昔に流行っていたバンドのバラードだ。人混みの雑音を消すには心許ないけど、まぁいいか。

 音楽をバックグラウンド再生にして、ネットの記事を適当に読む。特に中身があるわけでもない文章を目を滑らせながら読んでいるとだんだん脳が溶けたみたいになって、何も考えられなくなっていく。

 ふと時間が気になって、一旦スクロールをやめた。思ったほど時間は進んでなくて、待ち合わせの時間まではまだ十分ほどある。あぁー、なんでこんなに早く来ちゃったんだろ。人を待つだけの時間って死ぬほど長く感じるのに。

 ふとスマホから視線をあげて、辺りを見回してみる。今いるここは有名な待ち合わせスポットだから、周りにも人がたくさんいる。誰もが立ち止まって、ほとんどの人はスマホに目を落としている。客観的に見るとおかしな画だなぁと思う。ここにいる人たちはみんな他人同士で、お互いのことなんて何も知らないはずなのに、同じ場所で同じ目的を持ってたむろしている。前の通りは人通りが多いけど、ここに限っては行き交う人よりも立ち止まってる人のほうが多い。新しく来た人が立ち止まる場所をわざわざ探さないといけないくらい。だったら、別の場所に行けばいいんじゃないかって思うくらい、人で溢れてる。でも待ち合わせの場所ってお互いに決めるものだから、混んでるからって急に変えられないもんなぁ。私だって結局ここから動けないし。自分でこの状況が「おかしい」と思ってしまったせいか、その中に自分がこうやって留まっているのが滑稽に思えて恥ずかしくなった。

 時計がちょうどの時間を指す。同じ時間に待ち合わせをしていた人たちが目的の人と合流して去っていく。時間を守る相手だった人から先に。

 私はその中にぽつんと取り残される。時間を守らない相手だった人たちと一緒に。

 そのうち、次の待ち合わせ時間に向けてまた人が増えてくる。合流して、抜けて、また増えて、減って。なんか昔こんなゲームなかったっけ。ペアになったのから抜けてくやつ。あれは、何を目的にしてたんだっけ。どうなった人が勝ちなんだっけ。

 ネットニュースを見ているのにも飽きて、ただプレイリストに耳を傾ける。ノらなきゃいけないような曲でもないし、私にとってはすごく楽に聴ける、ゆるぅい音楽。その音だけが聞こえてたら、こんなに心がざわめいたりしないのかなぁ。あぁもう、今度ノイズキャンセルのイヤホン買ってやる、絶対。

 ビルの隙間から午後の柔らかい日差しが降り注ぐ。こんな人混みじゃなくて緑が豊かな公園とかにいたらきっと気持ちいいんだろうな。でも、今の私の状態でそんな場所に行ったら、気持ちよすぎて、寝ちゃいそう……。

「おーい、起きてる?」

 急に目の前に影ができたと思ってら、相手がこちらにひらひらと手を振っていた。あまりにのほほんとした態度に、私は目を細ーくして言った。

「遅い」

「ごめんごめん。一応ラインしたんだけど」

「知らんし」

「だからごめんって」

 不機嫌にふてくされながら、私は思った。あぁ、やっとペアになれた、って。

 これであがり。勝ったのか負けたのかは、よくわからないけど。

「遅れたんだからコーヒーぐらい奢れ」

「了解。コンビニでいい?」

「ううん。あそこの喫茶店」

「お、おう……」

 ようやくちょっと焦った顔を見せた相手に私は心の中で「ざまぁ」とほくそ笑んだ。

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