俺と妹はどうやら好みが合うらしい
表題作です。
僕の友人、相沢玄太郎が目に見えて落ち込んでいる。
普段は器用に回しているペンが、今もまた机の上に落下する。
「相沢、なんか調子悪いね。また眼精疲労?」
そっと耳打ちをしてみれば、彼は力なく首を振るだけ。
ストーリーやガチャがメイン要素であるノベル系の携帯アプリゲームを好む僕。
そして大人数とリアルタイムで楽しむタイプのRPGをメインに、その他幅広いジャンルのゲームを楽しむ相沢。
その好みは違えど同じゲーム好きとして僕らが出会ったのは、大学内のオタク系サークル。
その仲間うちで『夏真っ盛りのセミ』だの『秋の夜長を鳴き通すコオロギ』だの、不名誉な称号を得ている、あの相沢が、アンニュイな表情を浮かべている?
追求したい気持ちをぐっと堪え、僕は体を正面へと戻す。
なぜなら。
ただいまの時刻は11時39分、2限の講義中。いくらここが大教室、窓際の後方の席といえども堂々とおしゃべりをするわけにはいかない。
周りの学生が十分も経たないうちからすでに突っ伏していたり、スマホに夢中だったりと、各々がこの時間を有効活用していても。
僕だけはこのおじいちゃん先生の味方でありたいと思う。
とはいえ、真面目にやればやるほど眠くなってしまうのが大学の授業というもの。
僕は眠気覚ましに相沢とコミュニケーションを取ることにした。
「イベント中に緊急メンテでも入った?」
「……ちがう」
拗ねた子どものような声が返ってきた。
彼はメンテナンスでゲームができないことに怒ったりしない、なんてことは僕も知っている。
むしろ運営に対して「ちゃんと休んでんのか? 家に帰れてんのか?」と心配する心優しい人間だ。
あくまでもさっきの問いは、この壁を崩すために小石を投げつけてみたようなものだ。
重いため息の後、相沢は口を開いた。相沢の壁は、儚く脆い。
「お前ってさ、その……お姉さんの作った本って、読んだことある?」
「は? ない、絶対ない。頼まれても読むわけない」
あまり認めたくないことではあるが、うちの姉貴はボーイズラブを嗜み、創作をし、イベントで同人誌を売るオタク。
ただでさえ僕はボーイズラブというものを受け付けないのに、身内の作った本を読むなんて。想像しただけで鳥肌が立つ。
「……そんなこと聞いてくるなんて、どうしたの。相沢の妹さんも同人デビューした?」
「いや……そういう話ではない。まあ、イラストとかはよく描いてるみたいだけど、本出せるほどの金は持ってないだろうしな」
違ったのか。相沢も、うっかり妹さんの描いた漫画でも読んでしまったのかと思ったんだけど。
相沢は机に肘をつき、顔の前で手を組んだ。
僕はそれを視界の隅で観察する。会議中にトイレを我慢しているサラリーマンみたいだなあ、なんて考えていると彼の方から「聞いてくれるか、その、妹のことなんだが」と話を切り出してくれた。
1歳年下で、偏差値の高い大学に通っている相沢妹は、僕と同じ、携帯アプリゲームに熱を入れるタイプのオタクでもある。僕は彼女に同族意識を持っている。
「なに、妹さんとケンカ?」
「いいや。……あー、なんつーか、どこまで話していいか、わからねえな。誰かに聞いてもらいたいけど、妹のプライバシーを考えるとさ……」
「じゃあ話さない方がいいね、妹さんのために」
「ええ? 頼むわ、聞いてくれよ。俺がすっきりしないじゃん。あいつのことはいいからさあ」
サイテーな兄貴だ。でも、わかってしまう。僕だって姉貴の狂ったオタ活の実態や、気色悪い言動を包み隠さず相沢に愚痴っているから。きょうだいのことを友達に話してしまいたくなる、その気持ち。
「わかったわかった、聞くから。もちろん他言無用で」
「ありがとな……へへっ、持つべきは女きょうだいに悩まされる男友達だな」
「そういうのいいから、はよ」
せっつくと、相沢はさっきより幾分か力を抜いて話し始めた。
「えーと、まずなんて言ったらいいいか……俺と妹はどうやら好みが合うらしい、ってところか。あいつも俺も、ゲームに関しては多趣味だからな。……ただ、今回は作品が問題っていうか、口外するのが恥ずかしいというか」
「恥ずかしい?」
全く話の肝に触れている気がしない。仕方ないので僕から彼の抱えている問題を崩していくことにする。
「相沢……。ついに男子アイドル育成し始めたんだね? それが妹さんに見つかって、からかわれて……」
「ちげえよ! ……そっちじゃない」
「……妹さんが、男性向けのゲームにハマった?」
相沢はうなずく。僕は困った。あまり意外なことじゃなかったからだ。
妹さんが男性をメインターゲットとした、美少女騎士育成ゲームもそこそこやっていることは僕も知っている。相沢を通してフレンドになってもらったからだ。いつも彼女のサポートキャラにはお世話になっているのである。
それにしても。
いつも調子に乗ってべらべらと何でも話したがる相沢が、こんなにも言い淀んでいる。自ら答えを言うことを避けてるのは明らかだ。
妹さんのプライバシーを侵害しかねないこと。兄貴の立場から言いにくいこと。
それらを踏まえて出した結論を告げるため、僕はまた彼の方へと体を近づけた。そしてその耳にとある単語を吹き込む。
「……ギャルゲー?」
途端に相沢が机に突っ伏した。近くの女子学生から「寝落ちしたな」という一瞥が飛んでくる。相沢が勢いよく額を打ち付け、鈍い音が辺りに響いたせいだ。
僕はプリントを熱心に見つめる他人を演じた。
相沢がすぐに起き上がってこないのも、今すぐ顔を上げれば先生やこちらを見ている学生と目が合うことを覚悟しているからなのだろう。
……ともかく、このおかしな反応。正解ということでいいのかな。
僕と相沢の間でギャルゲー――男性向け恋愛シュミレーションゲームとは、隠すべき文化ではない。
なぜなら彼がこれまでプレイしてきたギャルゲーのタイトルを僕はほとんど把握しているから……なんていってしまうと、何だか僕らが奇妙な関係のように聞こえてしまい、不本意なのだが。
相沢が「これはどのルートも泣けるからぜひやってくれ」「アニメは見たって言ってたよな? やっぱいろいろカットされてるからさ、原作とはヒロインとの関係性がちょっと違うんだ。やれ」と、あれやこれやと布教してきたせいだ。
ちなみに全て公式サイトには目を通したものの、プレイするまでには至っていない。なぜなら相沢が貸してくれないからだ。「絶対にハマるから問題ない。ソフトを買え、制作会社に貢献しろ」と、いうのが彼の主張なのだが。専用ゲーム機本体すら持ってない僕は、布教されたら話は聞くが、プレイはしないというスタンスを守り続けている。
というか、そんな金があればガチャを回すしイベントを走る。つまり僕と相沢は、そういう金遣いも違うタイプのオタクだった。
それにしても、妹さんもギャルゲーをプレイしているとは。ちょっとびっくりはしたけど、だからって相沢が落ち込む必要はないと思う。
今は昔と違って、性別関係なくコンテンツを楽しむ風潮は強くなっている。
それに、身内の趣味には深く突っ込まない方が吉だ。……さっき姉貴の本を読んだことあるか訊いてきたのは、僕と姉貴の距離感を測ることで、自分と妹のお手本にしようとでも思っていたのだろうか。
ふいに、姉貴の本棚に入っていたボーイズラブな同人誌を、それとは知らず手に取ってしまった日のことがフラッシュバックする。
涙をこらえながら、伏せ続ける相沢を無視して先生の話に意識を集中させた。
しばらくして、相沢が上体を起こした。本気で寝落ちたのかと思ったくらい時間が経っていた。
「おかえり」
「ただいま」
そんなやり取りを交わして、本題に入る。
「……結局ギャルゲーなの?」
「だいたい合ってる。順を追って話すわ」
それは昨日の夜のこと、と相沢は語り始める。トイレを我慢している人の表情で。
かっこつけてるつもりなのかもしれないけどだいぶダサいよ、といつか教えてやらなければ。
「俺のパソコンがバグっちまって。妹のヤツを借りたんだ。それでまあ、そいつのダウンロードフォルダを開いたんだけど」
「うわー、お兄ちゃんのぞきとかサイテー」
「ち、が、う、ん、だ、よ!」
小声で声を荒げる相沢。芯の出たシャープペンシルが僕の手にふにふにと突き刺さる。かゆいかゆい。
「メールで配布された資料を印刷して、1限の講義に出なきゃいけなかったんだ。朝イチで大学のパソコン室行くのも面倒だろ? なあ、わかるだろ?」
相沢の早口説明に圧倒され、うんうんとうなずく。彼は咳払いをして続けた。
「……で、資料の読み込みが終わったから、ダウンロードフォルダを開いた。そしたら、見ちまったんだよ……一覧の中に並ぶそのタイトルを……」
目をひん剥いた相沢とばっちり視線が合った。本当にあった怖い話でも始めそうな勢いだ。
「で、それがギャルゲーだったと?」
僕は敢えてそう尋ねた。それが答えではないと気づいていながら。
ギャルゲーという回答に対し、だいたい合ってるという採点。彼の話に登場するのが専用ゲーム機などではなくてパソコンであること。そして、ひどく落ち込んだ彼の姿。
すべてつながってしまった。
相沢は、僕の問いに首を振る。そしてゆっくりと僕の耳元に唇を寄せて言った。
「エロゲーだ」
背筋がゾッとした。相沢のしゃべり方がねっとりとしていたせいで。
「しかも、ただのエロゲーじゃない、俺が神ギャルゲーと崇拝してるタイトルの18禁版だったんだ」
「それは、その……災難だったね」
「だろ?」
「妹さん」
「そっちかよお」
「そりゃそうでしょ」
呆れる相沢に呆れた。妹さんはパソコンの中身を兄貴に漁られた挙句、兄貴の友人にそれをバラされたというのに。
「……たいだい、妹さんだってもう大学一年生じゃん。そういうの、兄貴がどうこう言う筋合いはないよ」
「別に、俺は妹に対して清廉潔白でいてほしいとかそんなこと思ってねえよ。ただ、俺も知らないヒロインたちの一面が見られる物語を、あいつが先に読んだんだと思うと悲しくて悲しくて……」
「いや、むしろなんで相沢が買ってないの、18禁版」
「それがさあ、俺が全年齢版にハマったのが高校生のときでさ? エロゲーが買える年になっていざ買おうってなったときにゃ、ファンの間ではそろそろリメイク版が出るんじゃって噂があってな……。買うに買えなかったんだよ……。それから三年経った今でも、進展はないんだが」
哀愁漂うリアルな返答に納得して、返す言葉が見つからなかった。
講義中の教室で話すことではないな、と今更ながらに思うが、小声で話さなければいけない分、相沢がおとなしくてよかったと思う。
つまり相沢が落ち込んでいたのは、好きなゲームを妹に先取りされていじけてたから……ということだ。僕の心配を返してほしい。
「そもそも、パソコンのフォルダ見ちゃった相沢が悪いよね」
相沢はまたしても「じ、こ!」と僕の手にシャープペンシルを突き立てた。今度はちょっと痛い。
「事故じゃん……。それとさ、まだこの話には続きがあるんだって。俺は、そのゲームデータを見たんだ」
「お兄様……サイッテーの極みですわ……」
思わずお嬢様口調になってしまった。そうでなければ汚い罵倒の言葉を彼に投げつけていただろう。相沢は構わず話し続ける。
「俺は最初、なんでこいつが俺の大好きな作品を知ってんだ、まさか俺の趣味を知り、俺を冷やかすためだけにこれを買ったんじゃないかって思ったんだよ。……だから確かめたかったんだ。この神ゲーを、こいつは中途半端なところで終わらせてやしないだろうなって」
「相沢……」
なるほど、彼は自分の趣味を馬鹿にされるんじゃないか、自分の大好きな作品をその道具として利用されるんじゃないかと落ち込んでいたわけで。
「ま、そんときはテンション上がってて、何も考えずに見ちゃっただけなんだけどな! 反省反省」
それは反省してる奴の態度じゃない、なんて言えば話が脱線しそうだったので、ここは黙っておく。
「で結局の話な。全ルートコンプしてあったんだわ」
「はあ、そっか」
「おまけのエッチシーンも全部開放してあったんだわ」
「その情報はとっても必要なかったなあ」
近いうちに相沢も同じ目に遭えばいい。妹だけじゃなくて、母親や父親、将来できるかもしれない彼女にも、彼の攻略してきた数々のヒロインたちの存在がバレてしまえばいい、そう思った。
「妹がこの神ゲーを楽しんでいたということに安心。俺は授業の資料を印刷して、パソコンを妹に返した。もちろんそのゲームを見たことはナイショにしてな。その場で忘れるつもりだった」
「当然だよ。それがお互いのためだからね」
「……だけど俺はその後、思ったんだ」
相沢が神妙な面持ちで僕を見つめたかと思えば、それはすぐに逸らされた。視線が泳いでいるし、表情も緩んだり引き締まったりしている。
忙しいやつだな、と思いながら問いかける。
「どうしたの急にそわそわして、トイレ?」
「ちっげえよ、こういうのってさあ……よくあるだろ? ほら。エロゲーとかギャルゲー好きな妹がヒロインのうちの一人ってやつ。ゲームだけじゃない、ラノベでもよく見かけるぜ、そういう設定」
「ごめんギャルゲーもラノベも管轄外だから知らないや」
「あるもんなんだよお、お前が知らんだけで」
あるもんなんだあ、そういうのが。そう思いながら視線を教室前方のモニターに移す。講義は本日のまとめに入っていた。
相沢と話している間はほとんど聞いてなかったけど、まあ何とかなるだろう、さてと。
改めて、僕はさっきの相沢の言葉を反芻する。そして理解する。
「……つまり相沢は、妹さんが自分のこと好きなんじゃないかって思ってるの?」
「いや、そんなことは微塵も」
「え? じゃあ何をそんなに期待してるの?」
「だってフラグだろこれ」
ん?
「今はプロローグだからさ。お互い好きじゃないんだ。でも俺たちは惹かれあうように仕組まれてるから、次々と恋愛イベントやフラグが現れる」
何を雄弁に語っているんだ、こいつは。
「で、そのフラグを、俺は片っ端から折っていく。……運命に逆らってやるのさ」
……ああ、なんだ。ただのイタイ大学生か。
「相沢ー。学内はアルコールの持ち込み禁止だよ?」
「へっ、酔ってねえよ。冗談の通じないやつだなあ」
冗談でよかった。というか反応に困る冗談はやめてほしい。僕は近親者同士の恋愛ものが地雷なんだ。
ゲームやラノベじゃないんだから、実の妹との恋愛関係だなんて。いくら恋愛や結婚の多様性が説かれている現代でも、それは今後も許されることではないだろうし。
いつのまにか、時刻は講義終了の五分前を切っていた。ファスナーの開閉音がそこら中から聞こえてくる。リュックを背負って教室を出ていく学生の姿もあった。
さすがに早すぎでしょ、と心の中でツッコミを入れる。
『えー、では今週はここまでです、お疲れさまでした』
先生がその言葉を言い終わらないうちに、教室内が騒がしくなる。
僕たちも身支度を整えて、さっさと教室を出た。心の中で先生に「お疲れさまです」と告げて。
向かう先は、サークルの昼ミーティングが行われる小教室。道中、僕は、気になった疑問を投げかける。
「で、落ち込んでたのも冗談なわけ? この茶番に僕をつき合わせるための」
「いやいやそれはガチ」
相沢は手を横にブンブンと振る。
「妹があのゲームを選んだのが、単に人気だったからとか絵が好きだったからって理由ならいいんだ。さっきも言ったけどさ。俺のギャルゲー趣味がバレててからかうためのネタだったらさ、恥ずかしくて死んじゃうから」
「安心しなよ。妹と恋愛フラグが立っちゃう~! って言ってたことの方がよっぽど恥ずかしいから」
そう言い捨てて、僕は人ごみをかき分けていく。慌てて追いついてきた相沢に肩を抱かれた。
「だから、それは冗談だってば!」
「あんまり近寄らないでくれる? 僕までヒロイン認定されて恋愛フラグ立ったら困るじゃん」
「お前、確実にBL耐性ついてるよ。お姉さんのおかげか?」
「やめて」
後日談。
「お兄ちゃん見て見てかわいいでしょ! 好きなゲームのキャラでね、かわいいよね! まあエロゲーなんだけどそれはそれとして、ストーリーがめちゃくちゃおもしろいんだよ。特にこの子のルートがまじで感動もんでさ、ぼろぼろ泣いた~! ……やっぱ何度見てもクソかわいいなまじ推せる。駄目だ情緒不安定オタクうまく喋れねえ! あとこれさ、公式絵師さんがコミケで売ってたグッズらしいんだけど、通販もしてたから買っちゃった! 今度お兄ちゃんにもゲームやらしてやるから! ハマれ!」
と、ヒロインのクッションを抱きしめながら部屋にいきなり押しかけてきた妹さんの圧が強すぎて「貸してくださいお願いします……」と、頭を下げたらしい。
その報告に、「僕にはゲームを買えとか言ってたくせに」なんて一瞬思ったけれど。相沢はきっと、リメイク版が発売すれば買うだろう。これまでずっと我慢してきたらしいし、少しくらい大目に見てやろう。
「……そのクッションって、抱き枕カバーみたいな不健全なやつ? 相沢もいくつか持ってて、毎晩侍らせて寝てるんでしょ?」
「いや俺の部屋来たことあんだろ!? 全く持ってないからな! 妹が買ってたのは、制服着たゆるキャラがニコニコしてる、ふわふわ系のかわいい感じ」
ほれ、と相沢が差し出してきたスマホには、その公式絵師さんとやらの通販ページが表示されていた。デフォルメされていることもあって、たしかにエロゲーのヒロインとは到底思えない。
「親は全然ゲームとかわかんねえから、少女漫画のキャラか何かだと思ってるみたいでさ。普通にリビングのソファにおいてある」
「へえ……」
ぶっちゃけ相沢家のゆるさがうらやましい。うちの親は僕の毎月の課金額や姉貴の本棚の深淵を知ったら、卒倒してしまうだろうから。
「何はともあれ、あっさり解決してよかったじゃん。相沢のギャルゲー好き、妹さんにバレてたわけじゃないんでしょ?」
「ああ。このゲームにたどり着いたのも、アニメショップで聞いた主題歌が気になって歌詞検索したから……なんだと。エロゲーの主題歌って、魂にブッ刺さるもんが多いしな。……いやあ、さすがは俺の妹だ!」
そんなドヤ顔見せつけられても。……結局、妹さん的には「気になるゲーム買ってみたらエロゲーだった! まあいっか」みたいなノリだったわけだ。
改めて彼女のエロゲーへの抵抗のなさに驚きつつも「あの相沢の妹だしな」となぜか納得してしまう。
「これで妹さんとの仲もより一層深くなったし。これからどんな恋愛フラグが立つか楽しみだねえ」
「もういいだろ、その話……冗談だって」
「嫌だ。これをネタにして、永遠に相沢を脅してやる」
それが、意図せずともプライバシーを侵害してしまった僕から彼女への、せめてもの罪滅ぼしになると信じて。
「なんて外道! くっ……殺せ!」
オークに迫られた女騎士は、胸の前で腕を交差させ、自らの肩を抱きしめた……いや、誇り高き女騎士は妹のパソコンにエロゲーが入っていても見て見ぬふりをするだろう。
訂正。こいつは薄汚いオークだ。
「ところで、その妹さんが買ったとかいう、クッションのヒロイン」
「ん?」
「相沢的には、最推しなの?」
「あー……うん」
相沢はがしがしと頭を掻く。
そしてほんの少しだけ、照れくさそうに笑った。
「やっぱあいつ、俺と好みが合うらしい」
オムニバス形式で続く予定です。