第七話 なぜか相性が悪い二人
『戦いでコンビを組む場合、相性が大事になる』
ロバート様は確か、鍛錬中にそう教えてくれた。
でも私は心配していなかった。だってロバート様のことを一から十まで知っている自信があったから。
二次元の時も三次元の時も、本気でロバート様が好き。
だから相性は間違いなくいい、もし合わなくても合わせられる、それくらいの気持ちでいたのだ。
戦い始めるまでは。
最初は順調だった。
スライムに似た雑魚中の雑魚、その次に出てくる背の低い狼魔物のコボルト、他にも蛇のような魔物などを一人でサクサク倒して行った。
私が殺り切れなかった魔物たちは背後の男ども――魔法騎士団の団員たちが狩り尽くしてくれる。ちなみに彼らを強さ順に並べると、
マックス>ガブリエル>ジョーイ>アラン=フィル>メイナード>サム
となるようだ。
筋肉だるまのジョーイよりガブリエルが強いのは意外だったが、彼の剣技は物凄く、息を呑むような美しさだった。
……が、マックスが一番強いのは解せない。何なのだあいつは。魔法の操り方は巧みだし身のこなしはすばしっこいしで彼の戦いぶりを見ている暇さえなかった。
ちなみにアランさんとフィルくんは同じくらいである。アランさんは主に剣撃、フィルくんは魔法攻撃らしい。
肝心のロバート様は今のところ彼ら全員に指示を飛ばしているだけなので、実力はわからない。
だがきっと団長になるくらいなのだから、マックスより強いに違いない。彼の戦いぶりが見られる時が楽しみでならなかった。
そしてその時は意外とすぐにやって来る。
魔物をある程度狩り尽くし、「移動しよう」とロバート様が言い出した時、最初の共闘イベントが発生した。
「キキキキ、キキッ――!!」
遥か上空から聞こえてくる鳴き声。
私はそれを知っている。最初の共闘イベントで出て来る魔物、それは、
「コウモリの大群かよ。チッ、めんどくせーな」
マックスの言う通りで、それは一瞬で空を埋め尽くせてしまうようなたくさんのコウモリたちだった。
吸血コウモリ。あれにやられると絶対やばい。
「――攻撃準備!」
ロバート様が号令をかける。
そして彼は私の方へ走り寄って来て、言った。
「あれに君一人で立ち向かうのは難しいだろう。わたしと一緒に戦ってくれるか」
「はい、わかりましたっ!」
いよいよ、いよいよだ。
私の光魔法で敵をバッタバッタ薙ぎ倒し、ロバート様の剣戟が光る――そんな夢の時間が始まる。
はずだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! ロバート、様っ」
肩で荒い呼吸を繰り返しながら、私は一心不乱に剣を振るっていた。
戦術も、剣術も、何もありはしない。ただ叩きつけて叩きつけて叩きつけ続ける。
ロバート様が援助してくれている。わかっている。でも、合わせられない。
初めての共同作業なのに、ロマンのかけらもない。次々と襲いかかってくる魔物の対処で必死で、ロバート様の指示に従う余裕すらない。もし彼が達人でなければ私はとっくに死んでいた。
そしてさらに最悪なことがあった。
なんと言えばいいのだろう。言葉にできないが、とにかく息が合わないのだ。
彼の攻撃を浴びそうになったことが三回ほど。
逆に私の攻撃の動線上にロバート様が入ってしまって、危うく直撃しまいそうになったことも五度か六度はあったと思う。
何がデートだ。初めての共同作業だ。
これではただ、泥臭いレベルの低い戦い。ロバート様の戦いをやり辛くさせているだけで、私はろくに何の役にも立てていなかった。
なんとかコウモリの群れを退治した時には、私はもはや今までの胸の昂りを忘れてしまっていたくらいだ。
はっきり認めよう。認めてしまおう。
ロバート様と私の相性は最悪だった。とても戦えたものじゃない。
軽やかに動き回るロバート様、それについていけない私。
いいやもっとそれ以前の話なのかも知れない。私がロバート様のことを気にし過ぎているからダメなのだろうか。
乙女ゲームの中のシーダはどうしてあんなに上手く戦えたのかわからない。
心から羨ましく思うと共に、自分の情けなさに泣きそうになった。
その後発生した食人植物の魔物、アンデットの群れ、ケルベロスとの戦闘での共闘は、フィルくんにお願いした。
フィルくんと私のコンビは驚くほど成果を上げた。フィルくんの風魔法、そして私の光魔法がうまくミックスされて、合成魔法というものが放てたほど。
そして一方で単独のロバート様は非常に戦いやすそうだった。
ロバート=マックス>フィル&シーダ=ガブリエル>ジョーイ>アラン>メイナード>サム
今の状況で強さを測るなら、こうなる。
フィルくんと共闘して普段の三倍以上の戦力になった私より強いとは、マックスどれだけ強者なんだと言いたくなる。ロバート様と同等なんて信じられない。
クズ男のくせに。
私とフィルくんのコンビは後でかなり褒められたが、私はちっとも嬉しくない。
それどころか落ち込む一方で、それを作り笑顔で隠すのが大変だったくらい。
――女騎士として強くなっても、ロバート様といられなければ何の意味もないのに。
そう愚痴りたくなるのを我慢して、私は最後までフィルくんとコンビを組んだまま、騎士団本部へ帰った。
それから丸一日寝込んだ。