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第三話 その他の攻略対象たち

「チッ、やっと目が覚めたかよ」


 意識が戻って一番に聞こえたのがそんな声だった。

 あぁ……この声を私は知っている。そして胸の中に嫌悪感が湧き上がった。


「マックス・パルコンダ」


「なんだお前、新入りのくせに俺の名前呼び捨てにしやがって、一体どういうつもりだ?」


 偉そうな――まあ、身分的には私より偉い設定だけど――態度で話しかけて来る彼の存在を一旦無視し、私は今までのことを簡単に整理した。

 『八騎士』初イベント、ロバート様とのご対面。それはきちんと果たした。でもあまりの輝かしさに負けてしまい、その後の記憶がない。


 そしてここは騎士団医務室。ヒロインが大怪我をした時に運ばれ、ここで攻略対象とのイベントが起こったりするのだが……それはさておき。

 どうして私の前にロバート様ではなくこの男がいるかということが問題だった。


 マックス・ポルコンダは騎士、そして攻略対象の一人。

 黒髪黒瞳。容姿は当然ながら抜群だ。

 テンプレな俺様系男子で、少しでも変な選択肢を選ぶと「おもしれー女」と言ってこいつのルートになってしまう。

 この男はとにかく傲慢で不遜、女をおもちゃとして捉えていないようなクズである。さすがにゲームでは描写されていなかったが、間違いなく適当に女を掻っ攫って一夜の遊びを繰り返していることが容易に想像できてしまうような男だった。


 私はマックスがどうしても生理的に無理で、少しでもそのルートに入る兆しがあると嫌われるように行動し、それでもダメなら迷わずリセットを繰り返した思い出がある。

 こいつに好かれることだけは避けなければならない。いかにここが乙女ゲームの世界であっても、リセットボタンはないのだから。


 私が急に倒れてしまったせいで、ゲームにはないイベントが発生しているらしい。

 ああ面倒だ。よりにもよってこいつが医務室にいるだなんて。ロバート様とまでは言わないが、せめて他の攻略対象であれば良かったのに。

 ……さて、どうしたものか。


 私が頭を抱えたい気持ちでいっぱいになっていると、その時、医務室のドアをノックする音が響いた。


「失礼する」


 そして返事をする間もなく入って来たのは、すらりと背の高い青年。

 確かこの人は……そうそう、アランさん。八人の騎士の中で最年長で、頼れるお兄様的キャラだったような気がする。ルートに入らないと影が薄いキャラだったから忘れかけていた。


「ちょっと聞いてくれよアラン。こいつ、起きた途端に俺のことを睨みつけやがるんだぜ。せっかく新入りを優しく出迎えてやろうとしてたのにひどいと思わねえか?」


「君はちょっと強引なところがあるから誤解されやすい。それくらい自覚してるだろう?」


「チッ」


 アランさんがやんわりとマックスのことを叱り、マックスが再び舌打ちしながら医務室を出て行った。

 本当に感じの悪い男だ。できれば二度と会いたくない。


 などと考えていると、アランさんが私に話しかけてきた。


「……マックスはあんな奴だが、悪い人間じゃないんだ。新入りの君にわかってくれとは言わないが。

 そういえば自己紹介がまだだったね。僕はアラン・セドリュー。ここで騎士として働いている。後輩くん、よろしく」


「私はシーダ・リコリットです。よろしくお願いします」


 アランは物腰柔らかで、可もなく不可もなくという印象だった。

 この人ならある程度付き合っていけそうだ。……まあ、彼のルートを攻略するつもりは全くないけれど。


 彼に案内されて、騎士の宿舎の方へ向かった。

 そこには、まだ姿を見せていなかった五人の攻略対象が勢揃いしていた。


「うわー、新入りさんだぁ。可愛いおねーさんだねぇ」

「初対面の人に容姿のことを言うのはどうかと思いますよ、フィリップ」

「そんなことどうでも良いではないか! それにしても美人だな!」

「…………興味ない」

「新しく騎士になる女性とは彼女のことか。悪くはないな」


 本来、私がぶっ倒れなかった場合の正規のシナリオでは、ロバート様に案内されて会うことになるメンツ。多少行動が変わってもやはりこうして顔合わせをすることになるらしい。

 ああ、ロバート様に案内されてみたかった。倒れてしまうなんて……馬鹿。


 悔やんでも仕方ない、気持ちを切り替えるとしよう。


 目の前にいる五人の攻略対象。

 一人目はフィリップ・ディディ。通称フィル。十三歳の少年で、いわゆるショタキャラである。ピンクのふわふわとした髪の毛がなんとも可愛らしく、私がこのゲームで二番目に好きなキャラだ。もちろん攻略したことは一度もないが。

 二人目はガブリエル・フォン・クラスィ・アミ……名前が長すぎて忘れてしまった。銀髪の眼鏡男子とだけ覚えていればいい。

 三人目はジョーイ・ジンという巨漢の男。ガチムチ脳筋で、私がマックスの次に苦手とする奴である。

 四人目のサム・エイズは無口。彼のルートを攻略したことがないのでそれ以外の特徴を知らない。

 五人目、メイナード・アン・ウェルストはロバート様の弟君で第四王子。胸の中に闇を抱えていたりするらしいが、他の攻略対象同様、ルート攻略したことがないので知らない。


 こうして見ると私、ロバート様以外の登場人物のことをよく知らなすぎる。大丈夫だろうか、と今更になって不安になったがもう遅い。ゲームを再びプレイすることはできないのだ。


 ここは適当に、好感を抱かせすぎずかと言って嫌われないよう、切り抜けるしかないだろう。

 これもロバート様と結ばれるためと思えば頑張れる。

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[一言] マックスはキーパーソンになりそう( ˘ω˘ )
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