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今話はハーピス視点となります。

森の入り口に向かっていると、先に森に入っているはずの捜索隊の先陣がまだ入り口にいるのが見えた。

何か問題でも起きたのか、妙に騒がしく慌ただしい様子に俺は足を早めた。

そして捜索隊の最後尾につけ、騒ぎの原因を探ろうと聞き耳を立てたところで

「あ、ハーピス様、こちらでしたか!」

皆よりも頭一つ背の高いクロード兄さんの部下アイゼルが、俺と目が合うなり駆け寄ってきた。

なにやら俺を探していたような口ぶりだが、森の入り口の騒ぎと関係があるのだろうか。


「…なんだこれ」

「おお、ハーピス、来たか」

アイゼルに連れられて歩くうちに森の空気がいつもとは違うことに気がつく。

そして見えてきた森の入り口に、俺が言えたのは何の意味もない一言だった。

こちらを向いて途方に暮れたような顔をするクロード兄さんの後ろに広がる光景。

鬱蒼とした木々の中にぽっかりと空いているはずの森の入り口は、今は『そこからは別空間だ』と言わんばかりの黒々とした穴になっていた。

「中を覗いても何もないし、『ライト』を使っても何も見えないんだ」

ほら、と兄さんはライトで光を生み出して、その黒い穴にぽいっと放り込んだ。

とぷん

「……は?」

ライトの光は黒い水の中に落ちたような音を立てて消えた。

まるで闇が光を飲み込んだかのようだ。

「な?」

お手上げだ、と兄さんはため息を吐く。

確かにこれではどうしようもない。

捜索隊が誰も中に入れなかった理由がわかった。

だが、だからと言ってネージュ探しをやめるわけにはいかない。

ならばどうすればいいのか。

そんなのは考えるまでもない。

「魔法でなんとかできるレベルじゃなさそうだね。じゃあ俺が一人でここに入るよ」

俺はそう言って兄さんの横に、黒い穴の正面に立つ。

「これは俺の責任だし、なによりそれが一番被害が少ないだろ?」

敢えて明るく、気にするなと伝えるためにぽんと軽く兄の肩を叩いた。

「待て!それは、そうだが…」

けれど足を踏み出そうとした俺の右肩を兄さんが強く掴む。

ギリッと音がしそうなほどの力は当然痛いが、それよりも兄さんの方が痛そうな顔をしていたので、俺は何も言わずその顔を見返す。

「そうなん、だが…」

何とも思っていないような俺の顔を見て、苦痛に満ちた顔のままの兄さんはさらに手に力を込める。

次期国王として国のためにここにいるはずの彼だが、そこには弟を危険に晒すことを了承できない兄の顔があった。

とは言え、そもそもアイゼルに俺を探させていた理由は俺に何とかさせようと思っていたからだろう。

まあ、兄さんとしては『俺が中に突っ込む』のではなく『魔法で黒い穴をどうにかする』だろうと考えていたに違いないが。

そしてそれを心から望んでいた彼は次期国王にしては家族に甘い人だが、兄としてはこの上なく好ましい人だと改めて思う。

そんな彼に掴まれている肩から、みしりと骨が軋む音が聞こえた。

筋肉も脂肪も少ない薄い肩は大柄な彼の手によって今にも砕かれてしまいそうだった。

…流石にそろそろ限界。

「兄さん、ちょっと肩痛い」

それでも一応気を遣ってやんわりと言えば、兄さんも「あ、すまん」と慌てたように手を離す。

確かめる気にはなれないが、ヒビでも入っているのではと思ってしまうほど痛みが続いているし、なんだか上手く力が入らない気もする。

「だがもなにもないよ。これは俺の蒔いた種で、この中に入れそうなのも俺だけ。なら、行くしかないでしょ?」

そうして自分よりも高い位置にある顔を見上げながら今度は俺が左手でその肩を掴む。

「レイリ兄さんがいない今、この国で一番強いのは俺だから。任せて」

一向に表情の晴れない彼に向かってにっと歯を見せて笑って、俺は今度こそ穴に向かう。

なんだかんだ言ったが、この先に待っているのがネージュなら、はなから誰にもこの役目を譲る気なんかなかった。

ちゃんと俺が迎えに行きたいから。

「待っててね、ネージュ」

呟き、俺は穴に足を踏み入れた。

「……レイリがいたところで、この国最強は間違いなくお前だよ」

後ろから聞こえてきた、苦し気に呟かれた兄さんの言葉は聞こえないふりをした。


そしてどんな困難が待っているのかと思っていたのに一瞬であっさりと闇は解け、開けた視界に広がるのはレイフェルドの霊廟で、祭壇の前には探し求めていた人物の姿があった。

読了ありがとうございました。

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