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途中視点がネージュからハーピスに変わります。

森に一歩足を踏み入れると、世界が回った。

「……え?」

気がつくと辺りは鬱蒼とした木々に囲まれ、ついさっきまで後ろにあった王城も見当たらない。

「なにこれ、どういうこと?」

どれだけ見回しても城はおろか、人工物が何も見えないのはどう考えてもおかしい。

木の高さは精々3~5メートル程度。

4階建てくらいだったから多分あの城は屋根の装飾を足しても15メートル程度のはず。

暫定15メートルの高さのものが暫定5メートルの木に遮られて見えない時の距離は。

「……俺、理系は全然ダメなんだよなぁ」

残念ながら計算式すら浮かばない。

ともかく、周囲の雰囲気を見るに城からはだいぶ離れていそうだということはわかる。

「マジかー」

俺は途方に暮れた。

何なんだ今日は、厄日か。

「あーもー」と文句を言いながら地団太を踏むが、そうしていても何も解決しないとため息とともに腹を括り、とりあえず歩いてみることにした。

城を出る時にはギリギリ顔を見せていた陽は、最早残光を残すのみ。

少しでも視界があるうちに身を隠せる洞窟なり木のうろなりを探さないとな。

「さて、どっちに行くか…」

辺りを見回しているうちに気がついた時にどちらを向いていたのか、すでにわからなくなっていた。

こんな時は古典的な方法に頼るのが一番だ。

俺は手頃な枝を見つけると地面に軽く刺し、

「……斜め右か」

手を離して倒れた枝が指示した右斜め方向へ進むことにした。

陽が沈む正面を西とするならば、それは北西にあたる。

「運よく森を抜けられて、出来ればエルフの里を出られますように!」

正面の消えかけている夕陽に祈り、俺は足を踏み出した。


___


※ハーピス視点


バタバタバタ…

「ハーピス!ネージュ知らない!?」

つい先ほど「ドレス姿のネージュ、すっごい可愛いの!でも夜会まで見せてあげなーい」などとふざけたことを楽しそうに宣いながら部屋を出たはずの姉は、血相を変えて再び俺の部屋にやって来た。

「知らないよ。あんたが見せないとか言ってどっかに隠したんでしょ?」

俺は読んでいた本を置き姉を睨む。

ネージュのドレス姿を一番楽しみにしていたのは誰だと思っているんだと言ってやりたい。

すると普段なら「姉に向かってあんたとはなんだ!お姉様とお言い!」などと言うはずの馬鹿みたいに明るい姉は顔を青褪めさせ、

「……どうしよう、ネージュ、いなくなっちゃった…」

呆然とそう呟いた。

「なっ!」

俺はそれを聞いた瞬間、頭が沸騰したのかと思うくらい全身の熱全てが頭に集まるのを感じたが、すぐにそれではいけないと頭を冷やすように息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

「…いつまでいて、いついなくなったってわかった?」

外に目をやれば太陽は完全に沈み、星が瞬き始めているのが見える。

姿が見え始めた月を見れば今夜は満月に近い十六夜。

例えいつの間にか庭にいたとしても気がつかない暗さではない。

「ミランダ様からドレスをお借りして帰って来てからすぐに赤薔薇園のサロンに連れて行ったの。それで、ミランダ様が来る前にマイキー兄様に報告とお礼をと思って会いに行って、その後ここに寄って、サロンに戻ったら、もう…」

ぐっと拳を握りしめて姉は俺を見る。

「ドレスと宝石とコルセットだけがサロンに残っていて、ネージュがいなくなっていたの」

そして発覚時の様子を口にする。

説明が終わった姉は目を逸らし「だから目を離したのは多分20分くらいよ」と言い添え、「今日の門番はキースだったから、ネージュを見ていないか聞いてくるわ」とまた部屋を出て走って行った。

姉の話の通りだとすると確かに30分と経たないうちにネージュはサロンから消えたことになる。

その理由はわからないが、どうしても見過ごせないことが一つ。

ドレスや宝石はサロンに残っていたと、姉はそう言った。

ならば恐らく、

「ネージュは、自分からサロンを出た…?」

状況的にもその可能性が一番高いように思われる。

だが、人に迷惑をかけたがらない、言いたいことをずけずけと言うくせにどこか一歩引いているネージュが騒ぎになるとわかっていてそんなことをするとは思えなかった。

なにか、よっぽどの理由でもない限り。

それは、もしかしなくても、

「…やっぱり無理やり連れてきたから」

俺が嫌で逃げ出したのだろうか。

考えたくはなかったが他に理由は浮かばない。

ここにネージュを連れて来れば両親や兄弟がどういう反応をするかはわかっていた。

そしてそれがネージュにとっては重荷であることも。

それでも手っ取り早く外堀を埋めてしまえば、彼女の性格上渋々でも受け入れると思っていた。

「俺、そんなに嫌われてたかなあ…?」

人に迷惑をかけてでも逃げ出したくなるほど、俺と結婚するのはいやだと、そういうことなのか。

それなら言ってくれればいいのに。

絶対無理って。

「…なんて、ネージュが言うわけないか」

そもそもそれを言えなくさせたのは自分なのに。

ハーピスは頭を振ると一度思考を止め、別のことを考える。

「理由はどうであれ、ネージュは見つけなきゃ」

たとえその後どうなろうと。

「ちゃんと、帰りたい場所に帰してあげなきゃ」

それが自分にとってどんなに嫌なことでも。

彼女になにかある方がよっぽど嫌だから。

読了ありがとうございました。

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