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ハーピスに連れられて森を抜けるとそこは魔法の光で昼間のように照らされ、たくさんの人だかりならぬエルフだかりがあった。

顔を見たことのない人が大半だったが、みんな見ず知らずの俺の無事を喜んでくれた。

一瞬、それはもしかしたら戦争の回避が喜ばれているだけではと捻くれた考え方をしたが、彼らの顔を見る限り純粋に俺の無事を喜んでくれているみたいで、改めて心配をかけて申し訳なかったと心から謝罪をする。


城に帰った後はハーピスの保護者兼エルフ族の責任者として国王夫妻とお兄さんのクロードさんに「ハーピスが無理やり連れて来てすみませんでした」と謝られた。

ハーピスはそのことが嫌で俺が失踪したのだろうと彼らに説明していたらしく、俺が「違う」と言っても「気を遣わなくていい」と聞いてもらえなかった。

そして最終的には「逃げるほど嫌ならちゃんと断って!」と実の家族のように叱ってくれた彼らに、ちゃんと「逃げたのはハーピスのことが嫌だったからではなく、シェイラさんから過去に女をとっかえひっかえしていたと聞いたから、それがショックだったせいだ」と正直に伝えた。

それは「めっちゃハーピスが好きで嫉妬しました」と言っているようなもので物凄く恥ずかしかったが、今度は青褪めたシェイラさんが床に頭を擦りつけんばかりに這いつくばってしまった。

自分でも「もしかしてそのせいでは」と思っていたらしく、言い出せなかったことも含めて俺の捜索に関わってくれた全員に詫びていた。

ただ、自分が原因だったのかもと思ってのことであっても、誰よりも懸命に城中を駆け回ってくれていたのだと近くで見ていたキースさんから聞かされれば、元々彼女に対して怒っていなかった俺には迷惑をかけてしまったことに対する申し訳なさしか残らない。

「ほんっとーにごめんなさい!!申し訳ありませんでした!!」

だから泣きながら無事を喜んでくれた彼女(この辺にハーピスとの血の繋がりを感じてしまって、やっぱり憎めない)が今は泣きながら皆に謝罪をしているのを見ると、とても心が痛む。

「や、いいんです!私がその、勝手に落ち込んだだけだから。気にしないでください」

俺は早くまた彼女に笑ってほしくて、先ほどから「本当に気にしていないし大丈夫ですよ」と伝えているのだが、

「いーや、ネージュがなんと言おうと俺は絶対に許さないからね」

俺の後ろにぴったりと張り付いているハーピスがそれをずっと邪魔していた。

彼は自分のせいだと思っていたことが実は彼女のせいで、しかも自分の過去を勝手にバラされたことも知って、シェイラさんに対して激怒しているのだ。

その怒りを俺の背後から浴びせ続けているせいで、いつまで経っても彼女は顔を上げてくれない。

「もう、ハーピス!ある意味今回のことはシェイラさんのお陰でもあるんですよ!?」

今更だがこちらの説得の方が先だったかと、俺がシェイラさんからハーピスに説得の言葉の矛先を変えれば、

「だとしても!人の過去を勝手に脚色して伝えるなんて!」

ハーピスにも怒る正当な理由があって、言葉に詰まってしまう。

確かにそれに関してはシェイラさんが悪かったかもしれない。

俺がショックを受けた彼女の言う『とっかえひっかえ』は『1年と経たずにころころと婚約者が変わっていた』ということを指しての言葉だったそうで、ただの言葉の綾だったのだと弁明してくれた。

その婚約自体もハーピスを利用しようとしていた人たちが繋がりを求めてしたものであったそうで、そこにハーピスの意志は微塵もなかったこと、しかし誰にも関心を示さない彼を心配していた両親はもしかしたらと望みをかけて全てを受け入れていたことを聞かされた。

一応彼も意に沿わない婚約とはいえ努力義務として婚約者になった令嬢とデートやお茶会をしてはいたらしい。

けれど結局、何をしても彼の関心を惹くことができなかった婚約者の心が折れ、終いには婚約続行が難しくなり、申し入れたはずの側から婚約の話をなかったことにしてほしいと言われたこと、そしてそれを7歳からずっと続けていたことなども聞いた。

そのため女性不信ではないが、恋愛に興味を持てなくなった、とも。

なるほど、その言葉通りなのだとすれば、レイフェルドが言っていたようにハーピスが世の中に厭いたのもわかろうというもの。

逆に俺がそれを救ったという方が信じられない。

「しかもそのせいでネージュが危なかったんだし。もし何かあったら俺、腹いせにいろんなとこ滅ぼしてたかもしれないよ?」

そんな彼は今、つーんとそっぽを向いて子供のように怒りを示しながら、その口で子供の癇癪のように恐ろしいことを言う。

今までなら冗談だろうと思えていたそれも、しかし色々な話を聞いた後では脅しにしか聞こえず笑えない。

その証拠にシェイラさんどころか、彼以外のエルフ全員の顔が青褪めていた。

「いえ、私は怪我一つありませんので心配には及びませんよ」

俺は慌てて彼にそう言うが、ハーピスの機嫌は直らない。

「それは結果論でしょ?あの森は本当に危険なんだから!」

背けていた顔を戻し、「もう二度としないでね!」と念を押すようにがばりと背後から俺を強く抱きしめる。

慌ててその腕から逃れようとしたが「ほんと、生きた心地しなかったんだから」と耳元で小さく呟かれた彼の言葉に、俺は抵抗をやめて「はい」と素直に頷いた。

通称を『迷いの森』というほど危険な場所と知らなかったとはいえ、自分の軽はずみな行動で彼を追い詰めていたことは事実だ。

ここに関しては全く反論できない。

「そーよ!逃げるにしてもどうしてあんな危ない森なんか選んじゃったの!?」

すると何故か床にいたはずのシェイラさんがいつの間にか立ち上がっており、ハーピスの反対方向、つまり俺の正面から彼と同じようにがばりと俺を抱きしめてきた。

「あそこに行ったかもって聞かされて、帰って来ないなんてことになったら私は自分が許せなかった。無事だったからよかったものの、この国は思った以上に危険が多いの。だからもう二度と自分が知らない場所に逃げ込むなんてしないでね?」

言う間に再び潤み始めた瞳はシャンデリアの光を反射して、彼女の美貌に煌きを加える。

正直女として生きると決めたとはいえ、そんなキラキラしたスタイル抜群の美女に抱きしめられると落ち着かない。

「てめぇにゃ責める権利ねーだろーが!!」

そんな俺の心に気づいているのか、ただ気にくわないだけか、ハーピスはシェイラさんに食って掛かったが、

「それならお前にもないんじゃないかな、ハーピス?」

「ぐえ」

彼はクロードさんに後ろから襟首を掴まれて俺から引き離されていった。

失踪の原因でなかったとはいえ、無理やり連れてきてことにはちゃんとお咎めがあるらしい。

しかし、すると残るのは目の前の美女だけで。

「これからは何かあったらちゃんと私のところに逃げてきてね?絶対に守ってあげるから」

いまだに潤んだままの瞳で告げられたその言葉に心臓が高鳴り、頭に血が上って倒れそうになった。

読了ありがとうございました。

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