起こす方法
というか帰路についたのはいいが結局校長が何言ってたのか全然聞いてなかった。一瞬、校長室に行く夢でも見たのかと思ったけど、それだと僕が保健室にいる理由が校長室で倒れたからと保健の先生から聞かされるのはおかしいから間違いなく行ったには行ったのだ。
ただ、なぜそこで記憶が途切れているのか全く思い出せない。それを知ってそうな楓は眠たそうな目を擦ってばかりで保健室で寝ていた僕の方が楓を担ぐ形になっている。全く解せないけど、半目でむにゃむにゃ呟いているのは可愛いから横目で堪能することにした。ただ同時に体がかくんかくんと揺れるで気が気でなくて、僕はしっかりと楓の腕を掴んだ。
「なぁ、楓、起きてるのか?目が半目だぞ」
「実はギリギリでーもーだめかもー」
「なるほど、大丈夫そうだな」
重心はしっかり僕が支えないとダメそうだが、幾分かスムーズに動けるようになってきた楓は校門前で思いっきり背伸びを繰り返して目を覚そうと努力していた。
ただその体操も虚しくあんまり効果は得られてないのは、首をコクンコクンと振って大きなあくびをかく楓を見れば容易に想像ができる。僕の方はというと、保健室でしっかり寝ていたからかお目めぱっちり脳みそスッキリって感じでまぁだからこそ、楓を支えながら外に出たわけだけど。さすがに、団地までこの状態で動くのは大変だからやはり、起きてもらわないと困る。
また、ダラーンとして倒れそうな楓をちゃんと体ごと支えないといけない事態に陥ったりしたけどちゃんと間に合って体を抱き寄せたりって今日の僕さすがに積極的すぎない??
まぁ、それもこれも楓が隙だらけで自分で自立してくれないからだけど。
「あの楓さん、さすがにこの格好はまずいですって!!ちょっと起きて起きろー!!!」
「...むーりー」
「なんだそれ、妖怪の仕業とか言っちゃう感じかよ!」
「むにゃむにゃ」
ここ、校門前。僕は楓の体を支えるため、楓を抱きしめる形になっている。
ここ、校門前。ほとんど下校している時間だけど、人たくさん通る。
これらの状況から考えうるに、人にどう見てもカップルにしか見えないと噂され、お熱いですなーと周りから冷やかされ、男子から冷たい目線を向けられる、そんな想像が頭をよぎる。
あと、いやでも女の子らしい体の柔らかさを感じずにはいられないので僕自身が変な気を起こしそうになる。こんな所でまだ一線を越えたくない。
僕は楓の肩を掴んで無理矢理自分の体から引き剥がした。束の間の幸福というやつは人生をかけて行うものじゃないのだ。
とはいえ、この状態も誰かに見られたくはない、が先程の密着度合いに比べれば痛くも痒くもない。
あとはしっかり楓に起きてもらうだけだが、これが一番難しい。僕も知っているが眠気に勝る気合いはない。自分の気持ちだけでどうにかできるものの枠を悠に超えていると僕個人的には思っている。
さて、どうしたものか。辺りはかなり暗くなってきて日がもう少しで沈みそうである。早くなんとかしたいが、楓の顔をどうやって起こそうか。真剣に、真剣に悩んだ結果、僕は楓の頬を思いっきり伸ばすことにした。別に嫌がらせとか、日頃の恨みとかそういうのは全くない。
ただちょっと柔らかい楓の頬に誘われ興味があっただけだ。どれくらい伸ばせるかなぁ、と。
だから、僕は片手でフラフラする楓の体をしっかり支えて思いっきり楓の頬を伸ばした。うん、頬がほんの少し赤くなるくらいには。
「痛っ、いたたたた、痛い痛い痛いヒリヒリする。もう起きたよ!! ひどいよ。何でこんな事するのさ、女性に優しくって習わなかったの!?!?」
と文句を言ってきたがようやく楓の目は覚めたらしい。ぱちくり目が開き、ちょっと怒っているようで先程伸ばした頬をぷくりと膨らませていた。
「でも、僕は散々言葉で起こそうとしたよ。それで起きなかった楓が悪い」
「それは、そうかもしれないけど、他にもやり方がってあれ?今楓って」
「あ、」
いつも心の中では楓呼びだったけど、話すときはいつも伊波さんで統一してたのに…今日はずっとかなり緩んでいたからかそのまま楓って呼んでいた。うーん、まぁだからどうしたって話なんだけど。
「ふーん、楓ね。今日のところは許してあげる」
「何で上から目線、そしてなぜ勝ち誇ってるんだ」
理由はあんまり分からなかったけど、楓は機嫌良く別れるまでずっとにっこりと笑っていた。