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モブは普通の〈モブらしい〉生活を送れない  作者: 里道アルト
第四章 警告
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なんてことない時間

「一限目の化学始めますよ〜全員席についてくださーい」


 と化学の先生ではなく、クマのぬいぐるみが号令する。化学の先生の口はピタリとも動かず、ついに化学の先生は腹話術をものにしたらしかった。


「見事な腹話術だ。この土日でなにかあったのかな?」


 と隣の楓に聞いてみれば、


「嵐で暇できたから趣味でやってたのかもね」


 と軽く返された。趣味ってそんな趣味聞いたことないけど。


 というか、このまま授業始まるのか?ずっとあれで話すのは相当な労力がいりそうだけど。


 どこまで保つんだろうと気になりながら授業が始まった。


 クマのぬいぐるみがつぶらな瞳を保っているのにも関わらず、次第に先生の顔は苦痛で歪んでいるように見えた。やはり急な試みで、だが一度始めてしまったからやめるにやめれないという状況に追い込まれているようだった。そんなの僕達は気にしないよと思ってはいるが区切りがつかないのは致し方ない。


 授業開始から約一五分。授業は六〇分あるから今四分の一が終わったという所だが、先生はもう授業が終わった後ぐらい疲れているような表情だが、声に淀みはなく、分かりやすい授業を展開していた。


「だから、モル質量というのは...」


「うん、そうだねー」


 真剣にノートを取っていると突然間の抜けた声が聞こえた。誰だ?と思って前を見ると先生が口を開いていた。


 三〇分を越えた所で突然先生が口を開いたのだ。しかも、いつもの声色とら全く違う声で。まだ、クマのぬいぐるみの声は凛とした先生の声な気がするが、先生自体の声は間の抜けな生徒の声にしか聞こえなかった。


「先生、どうしてそうなった...」


 僕は思わず、思ったことを口に出してしまった。慌てて僕は口を抑える。なんというか、いや間違いなくあのしんどそうだった腹話術が進化して一人二役というやつをやってるんだ。それは分かるのだが、なぜしんどいことにしんどいことを重ねてしまったんだ。


 先生の顔色はさっきよりも幾分かマシになっているのは間違いないが、しかし顔と声が合致してない。完全に幼児化してるじゃないか。


 気になって周りを見渡すと如月さんはまぁ安定で寝てしまっているが楓と夜野さんはすごい怪訝な目で先生を見ていた。なんなら周り全員ひどい顔つきだった。


 やめてあげてくれ、さすがにそんなに分かりやすく嫌な顔しなくてもいいじゃないか。手の平返しなのは十分分かっているが僕は先生が途端に可哀想に思えた。


 しかも、そんな人の目線を気にしない先生の二人芝居は誰に止められることもなく授業の終わりまで続いた。

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