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モブは普通の〈モブらしい〉生活を送れない  作者: 里道アルト
第三章 勉強会
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おまけ バレンタインの悲劇

 なぜこうも上手くいかないんだろうか。


 私は目の前にあるヘドロチョコとヘドロクッキーを見て落胆する。これでもう板チョコ一〇枚は無駄にしてしまった。しかし、今だに完成するビジョンが見えない。


 どす黒いダークマターを流し台に捨て、私はキッチンで座り込み頭を抱えた。


 もうすぐ二月一四日が来る。せっかくのバレンタインだし手作りチョコでも作ってみるか〜と気軽に考え作り始めたが、絶望的料理センスなんだと私は改めて気付かされた。


 チョコもさすがに捨てるのももったいないと思って最初のうちは失敗したものを食べていたけど、まぁ味も難解で美味しいとはとても言い難い。


 形だけでも仕上がっているものがあればいいが私の手にかかるとすべからくヘドロ化してしまう難儀な手を持ってしまっているようで形さえままならない。


 普段から生徒会長としての威厳を見せ、なんでもできるんですねと後輩や友人、クラスメイトによく褒めてもらっているけれど、私にも出来ないことは普通にある。ただ、頑張ってそこをフォローしているだけであって、むしろできない事の方が多い。


 特に料理はからっきしだめで、前々からそれが分かっていたので調理実習なんて、後ろでぬめと芽衣が料理を作る姿を眺めるだけという悲しい置き物状態になっている。


 そんな私だけれどもうそろそろ高校に上がるし、このみんなで会えるのも最後なので私はみんなに手作り義理チョコを作ってあげたいのである。


 しかし、本当にダメだ。このままだと、クラスにあげる分どころか友達にさえあげられないではないか...。


 そうして思い至った。困った時は友達に頼めば良いではないか、と。


 幸い、材料はまだまだあるし、追加できる。中学最後の思い出にみんなでチョコを作るのはありではないか?


 そう思ってぬめと芽衣に電話をかけた所、二人ともOKをくれて、ぬめは電車で来ないといけないため少し遅れるそうだが、家が近い芽衣はすぐに駆けつけてくれた。


「お邪魔します」


「うん、芽衣。ありがとぉ〜」


 私は歓迎の挨拶的に芽衣に抱きつくが、芽衣は軽く私の肩を叩いてそそくさとキッチンに上がり込んで行った。そして、キッチンの惨状をまじまじと見た。 


「もう、これ...。どれだけチョコが飛び散ったらこんなことになるんですか?あぁ、ここも、あそこも。まずは一旦この惨状を片付ける所から始めますよ」


「辛辣だけど、言い返せない自分がいるよ。でも、来てくれてありがとうそして私は何をすれば...」


「これだから、料理なんてしない方がいいって言ったのに...。とりあえず、皿とか鍋とか洗っていきますよ」


「は、はぁ〜い」


 鬼気迫る感じで私を見る芽衣はそれはもう本当の鬼のようでとても恐ろしい顔になりなさっていた。

 その怖い顔のまま、さっさっさっと洗い物を洗い、私はそれを流すことに徹する。こんなことを嫌顔でもやってくれる芽衣は本当に優しい。ありがたい。


「ふぅ〜、これで一旦終わりですかね」


「そうだね」


 食器はあらかた片付き、飛び散ったチョコをふきんで拭き取り、キッチンは元の姿を取り戻した。これでようやく本題に入れる。


「それにしても、自分が料理苦手だって知ってるのにどうしてこんなことを?あげるにしたってチョコなら市販のやつでいいと思いますけど」


 と芽衣は私に聞いてきた。うーむ、確かにそれでもいいとは思ったけど


「せっかく最後なんだから、みんなに喜んで欲しくて。ほら私、生徒会長だし」


「生徒会長は関係ないとは思いますけどね...まぁ、はい。分かりましたよ。楓は言っても聞かないですもんね」


 芽衣はどうやら私のあんまり的を得てない説得に納得してくれたようだ。そして、私は板チョコをまた数十枚持ってきて、クッキーを焼くのに必要な材料も持ってきた。ついでに作りたいレシピも芽衣に見てもらって、ようやく調理開始である。


「では、私が見本を作るのでまずはそれをお手本にやってくださいね」


「は、はーい」


 そう言って芽衣は手際良くどんどんどんどん作っていく。所々で注意しなければならないことを促しながら、作り進めてわずか二〇分足らずで一つの試作品を作り上げた。


 形は私のと比べて全然崩れてない。味はどうだろう?せっかくなので私達は二人で割って食べてみた。う、あのヘドロを食べた後だからか、私は思わず


「おいしすぎない」


 と非常に心が高ぶった状態で大声で呟いてしまった。美味しい、ほんと、料理が出来る人はすごい。


「なら、良かったですけど(うーん、ちょっと砂糖が足りないですね。もうちょっと甘くてもいいかも、次は砂糖増やそう。そうしましょう)」


 なにやら、聞こえない声で友人はぶつぶつ言っているが、私もこの美味しさに驚いてそれどころではなかった。


 そして、試作品一号ができた頃、ぬめも参加して、かなり多めにチョコクッキーが出来上がった。私はというと、形がようやく保って味もそこそこいいくらいまでのものしかできなくて、結局クラスにあげたものの大半がぬめと芽衣が作ったものになってしまった。


「せっかくだから、二人ともこれ」


「お、サンキュー」


「ありがとうございます」


 私は私が作った中でも形がほどほどマシなチョコクッキーをあげて三人で食べた。私が作ったものは二人のものほど甘くなくて、ちょっぴり苦さが際立っていたがそれでも二人は喜んで食べてくれた。


ようやく十万字達成できました。ここまで読んでくださった方付き合ってくれた方には感謝しかありません。引き続き続けていきますので、どうか完結までお付き合いいただけると幸いです。

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