驚愕
「本当にいい湯だったよ」
僕は風呂場から出た直後、居間にいた楓、夜野さん、如月さんに向けてそう感想を漏らした。
しかし、楓らが僕の方を見るとじゅんぐりに顔の表情ピタッと固まりまるで宇宙人に出会ったかのような目を向けられた。挙げ句の果てに
「あの〜、どちら様でしょうか?」
と言われる始末だった。僕しか入ってないんだからそりゃ僕に決まってるだろ。
「いや、灰羽ですけど。灰羽悠斗ですけど!」
僕は必死に訴えた。しかし、彼女達は首を傾げるばかりだ。本当に忘れられた?集団記憶操作にもあったっていうのかよ。
「ゆ、悠斗か、鏡を見てみてよ」
楓は僕にそう提案してきた。意味がわからない。ただ、楓は僕のことを認識してくれているようだから、素直に従ってみた。
そして、僕は鏡に映った自分の姿を再確認にしてみた。
「誰だよ、これ」
僕は、自分とは到底思えない自分の姿が鏡に映っているのを見て絶句した。なんか、目がキラキラ輝いてるし、肌はツルツルだし、ほんと誰だよって感じだった。鏡に映る自分の姿はまるで主人公みたいな...。
あのお湯は人を変える力でもあると言うのか??と疑いたくなるくらい違っている。
「一応こんなだけど悠斗です」
僕は納得はしてもらえないかもしれないが再度そう言った。これは湯が原因だ。そう思っておこう。
「いや、いやいやいや。それはないって。めっちゃ近寄り難い雰囲気纏ってるもん」
「実はイケ...。やめとこ、前の灰羽くんに失礼ですし」
楓にくっつく、如月さんと夜野さんにはやっぱり分かってもらえなかった。ただ、楓は最初ほどの驚きは全然ないようで、
「うん。まぁ風呂場に行ったの悠斗しかいないし、うん、分かってたよ」
と遠くの方を見ながら言われた。僕が目線を合わせようと動いても、楓は目線を合わさず逸らしてきた。
目視もできないってなんかひどい。
僕が一人で落ち込んでいると、ういは二階から降りてきて、兄貴ーと言いながら僕のお腹辺りに突撃してきた。
「ふぐぅッ。うい!!?」
「兄貴、お湯気持ち良かった?」
僕は突然の突撃に驚いて飛び上がってしまったが、ういは、いい香りがする寝間着を僕に見せつけるかのように仁王立ちした。
「いや、ほんといい湯だったんだけど、あれ、ういは僕が分かる?」
「何言ってるんだよ?兄貴は兄貴だろ。ちょっと顔色良くなったぐらいで見分けがつかないういちゃんじゃないんだよ。何年妹やってきてると思ってるんだよ?」
ういの調子がどうやらちょっとおかしい気もするが、ういは僕のこの姿を見てもなんとも思わないらしい。
たまに、こんなんだったっけな?覚えは全くないんだけど。
「ういちゃんができるなら私も、あぁ、やっぱりだめ」
如月さんは何度か僕を目視しようと楓の後ろから挑戦しているが、上手くいってないみたい。
「目線合わせないでくださいね」
夜野さんは忠告しながら僕を見ようとしてくれているが、僕がどれだけ目線を合わせないようにしようとしても、必ず目があってしまうので「もうっ、目線合わせないでって言ってるじゃないですか!!」と怒られる始末だ。
楓はようやく慣れてきたのか、僕と目線があっても何も反応を示さなくなった。
「あ、慣れた」
と言うので、普段は絶対やらないがちょっとポーズをとってみると、
「ほんと、心臓に悪いからやめてよ」
と、真逆の方を向かれた。赤面されるし、僕もつられて赤くなるし、元凶たる僕はどこかに消えた方がいい。僕は、楓に使っていいと言われた部屋に立て篭もることにした。
イケメンになった悠斗、避けられる。効果は明日までしかないと信じる。
あ、別に病んでるわけじゃありません!
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