聞こうよ、灰羽くん
英語の授業は終わり、次は化学。
ボイン先生の去り際、アリーヴェデルチと言って教室を出たことは一生忘れないだろう。
僕らのボイン先生はかなりのジョジ○通らしい。ポーズまで完璧だったなぁ、と少々感心してしまった。
楓も意外に知っているらしく、僕と同じでツボにハマったようだった。
「あーおかしい。ジャパニーズ文化ドップリ浸かってたなぁ」
「伊波さんも分かるんだな」
「まぁ、アニメはちょっと見てたし、決め台詞って頭に残るじゃない」
「好きな人多いもんな。知らない人が見るとクセがすごっ、ってなりそうだけど」
「私は、アニメ勢で一期目からクセは気にならなかったな」
「僕は、おやじがずっとマンガ買ってるから、読ませてもらってハマったんだよ。最初は何だこのポーズはって思ったこともあったけど、そこがいいっていうかね。もちろんアニメも見てるし...」
僕はアニメオタク特有の早口が出かけていることに気付き、口を塞いだ。人前でこれをやるとちょっと恥ずかしいやつだ。
「気にしなくてもいいのに」
楓はそう言うが、僕が気にする。オタバレは別にいいんだけど、変なやつとは思われたくない、それだ。
人とあまり話さないでいたことが裏目に出た。というか、今まで耐えていたことに僕は、僕スゲーと思うしかない。
こんなに話をするのは久しぶりだって思うくらい長いこと人と喋ったから弊害が出たんだと思うしかない。
「そろそろ鳴るよ。また、話してよ、悠斗の好きなアニメとか」
「あ、うん。分かった」
僕は何故か素直に返事していた。人と話すなんて面倒なことが多い、誰とも関わりたくないなとか思ってたはずなのに。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「はーい。化学の北田だー。これから一年よろしくな〜」
教室に若干赤みがかった髪の先生が入ってきた。クマのぬいぐるみを抱えて...。
真面目そうな顔に似合わない大きいクマのぬいぐるみは愛らしい目でこっちを見ている。
今までおかしな先生ばかりだったせいかこの先生は一番普通に見えるのは、とうとう僕の感覚がおかしくなってしまったのだろうか?
「では、二〇ページを開いてください。板書するところはノートとってね」
先生はそう言い、クマがぺこりと挨拶した。持ちながらだと書きにくくないのか?とか思ったけど、先生は器用で、抱えたまま文字をスラスラっと書いていった。板書スピードは子供先生と同じくらいだ。
国語ぶりのまじめな授業に、まじめな解説、それを緩和するがごとくこっちを見つめるクマのぬいぐるみ。しかし、誰も、気に留めない。存在感はバシバシ出ていると思うんだけど、ツッコミが不在状態だった。
しかし、その暗黙の了解を破る者もいた。
「ここまでで質問ある?」
そんな先生の問いかけに、本来なら授業で分からないことを聞いているというのは容易に想像できるが、
「先生、聞きたいことがあります。どうして、先生はクマのぬいぐるみを抱いてるんですか?」
そんな質問を投げかける生徒がいた。触れない見ない聞かないの掟を破る者、僕の席の隣伊波 楓だ。その質問に先生は少々困った顔をしたがすぐにこう答えた。
「昔から、大勢の人が苦手でね。集団授業なんかしたら、ほんとは倒れてしまうくらいにね。でも、ぬいぐるみを手にしてると心が落ち着くんだ。皆には、邪魔になるかもしれないけれど許してほしい」
「分かりました。すみません、変な質問しちゃって」
「いや、いいよ。皆も気になってたとは思うしねぇ」
楓は、席に着くと、小さい声で緊張したーと呟き、こっちを見て
「気になってたこと知れて良かった?」
聞いてきたので、僕はボソッと「知れて良かった」と伝えた。
こんばんは、里道アルトです。今回は、化学のぬいぐるみ先生を少し書きました。英語はボイン。国語は子供先生、化学はぬいぐるみ先生、数学は書いてませんでしたがロリコンです。高校生も大丈夫だそう。軽く危ない先生です。守備範囲も広い、オールラウンダーです。
そう考えるとやっぱり一番まともなのはぬいぐるみ先生ですね。