好感度爆上がり(上げる必要ゼロ)
川魚の背中から、がじりとこれにかじりつく。
狙い通り、バリリと焼き上がった皮がなんとも言えず――美味い。
俺が活動の中心地としている海都の男たちは、こぞって「皮こそ魚で最も美味い部位」と言うが、俺もその意見には同感であった。
皮に守られた身も、なかなかのものだ。
海に生きる魚のように、噛んだ瞬間から口中に旨味と脂が弾け出すということはない。
しかし、豊かなゾマーノ川のコケや虫を食べ育まれたその肉は、青々しく素朴な味わいであり、こちらにはこちらの魅力が存在した。
「おいしーい!」
同じように一口かじったロナが、顔をほころばせながら素直な感想を告げる。
「塩焼きなんて食べ慣れているはずなのに、全然味が違って感じられるゾ!」
「……見事な……お手前です」
「本当ー私たちよりずっと料理上手ねー」
「……魔術を使ったから、こんなに美味しくなったの?」
何やらしおらしく聞いてくるウルズに、俺はどう答えたものか考えあぐねる。
「魔術の力と言えば力だが……それは正確な答えじゃないな。
つまるところ、焼き魚というものは火加減と焼き加減だ。単純なだけに、そこの見極めで味が大きく変わってくる。
魔術の火を使うと、その辺の調整が楽になるのさ」
そう答えながら、木皿へ盛られた先ほどの白飯を木匙ですくい、口に入れた。
「ううん……」
これは――ハッキリ言って不味い。
素材が悪いのではない。
調理が悪いのだ。
口中に広がる雑味から炊く前に研いでいないことが明白であり、しかも火加減が甘く鍋の底は黒焦げになってしまっていた。
「このお米っていうのも、おいしーい!」
「だナ! スシとかいうのは失敗だったけど、アラダ姉もさすがだゾ!」
「いやーそう言われちゃうと照れるねー」
しかし、あえてそれを口に出す必要はあるまい。
美味しく食っているところを不味くしてしまうなど、これも俺の矜持が許さぬことなのだ。
「それにしても……さっそく……ランス様の素晴らしいところを……知れました」
「ふん、まあ、これが美味しいってことは認めてあげるわよ」
ヘルテとウルズの言葉で、ぴたりと食事の手を止めてしまう。
……。
…………。
………………。
――気に入られてどうする!? 俺よ!?
逆! むしろすべきことは逆!
ここは徹底的に嫌われ、放逐されることを狙うべきだったのである!
いや、見知らぬ森の中に放たれて無事に生き延びられる保証はないが……。
少なくとも、今すべきことは好感度稼ぎじゃないのは明らかであった。
「これは、晩ご飯にも期待だナ!」
「ロナたち、がんばって大物を仕留めてくるから美味しく料理してね!」
リタとロナの中では、俺が料理人として働くことは決定事項のようである。
「ランス様を働かせるのは……心苦しいのですが……シェアの氏族は現状ここにいる者しかおりませんので……」
「がんばってー増やそうねー」
いやだ! 増やしたくない!
「増やす必要はないけど、まあ、料理番としてこき使うくらいはいいかもね」
もはや、俺にとってウルズのみが心の拠り所だ。
「あ……」
と、ロナがたちまち食べ尽くしてしまった自分の木皿を眺める。
「……俺のを分けてやろう。子供は、しっかり食べるもんだ」
考えることを放棄した俺は、白飯とほぐした魚の身を分けてやるのであった。