はた迷惑な神託
「……確認するが、俺は子を成すため男をさらうアマゾネスの風習により、さらわれてきたわけだな?」
一同を見回しながら問いかけた俺の言葉に、ヘルテが厳しい顔で首を振った。
「……さらってきたわけでは……ありません……」
「ヘルテがー戦女神様の神託を受けてー、あなたを旦那として招くことになったんだよー」
「そうダ! 名誉なことなんだゾ!」
……それを世間一般では、拉致と呼ぶのだが。
「あたしは、何かの間違いだと思うけどね、その神託!」
「間違いなんかじゃないよ! ヘルテお姉ちゃんが神託を受けたおかげで、みんなやお兄ちゃんと出会えたんだから!」
「……女神様からのご神託に……間違いはありえません……」
まっすぐな瞳で俺を見上げながら、ヘルテが続ける。
「ランス様……あなたこそわたしたちの夫となり……この新たな集落で森を切り開いていく方です……」
「新たな集落、ね……」
おそらく、その神託とやらを否定したところで話は進むまい。
ここはひとまず、情報を得ることが重要である。
「君たちはそれぞれ出身氏族――集落の名でもあるのか? を名乗っていたが……。
察するに、各所から代表を選抜して新たな集落を作ろうとしている、というところか?」
「おー、思ったより鋭いー。
これはー話が早くて助かるねー」
「ランスの言う通りだゾ!」
俺の言葉に、アラダとリタがうなずいてみせた。
「わたしたちアマゾネスは……既存の集落がある程度の規模に達すると……戦女神様から新たな集落を築くよう神託が下ります……」
「そうやって、少しずーつ森で生活する範囲を広げてきたんだって!
その時は、ロナたちみたいにあちこちから代表が選ばれるんだよ!」
「ま、それにあんたは必要ないけどね!」
最後、ウルズが言ってくれた言葉には心中深く同意する。
さすがは、この場で唯一俺の味方をしてくれる少女だ。
そうだよな。俺を巻き込まないでくれよ。新鮮な海産物の鮮度を維持しながら輸送する仕事があるんだよ。
「そして、新しい集落に必要不可欠なのは子供を作るための男ダ!
喜べランス! お前は女神様から、この集落にふさわしい男として選ばれたんだゾ!」
全っ然、嬉しくない……。
というか……。
「女神様に、選ばれただと……?」
おそらく、この中で最も宗教関連に強いのはヘルテだ。本人も巫女だと言っていたしな。
というわけで、疑問を浮かべたまま銀髪の少女を見やる。
「はい……アマゾネスが招く男性は……常に女神様の神託で告げられます……。
昨日、あの時間帯に通った船に乗り込みし……長き黒髪に……黄の肌を持つ男……あなたこそ……神託のお方に間違いありません……」
長き黒髪に、黄の肌、か……。
その身体的特徴は、確かに俺と一致しており、船に乗っていた他の者で該当する人物はいない。
俺は、東洋人とのハーフだ。
東洋趣味に傾倒していた亡き祖父が、味噌や醤油を再現するために東洋からの奴隷を購入し……その奴隷が連れていた娘に、亡き父が手を付けたのである。
ちなみに、長く髪を伸ばしているのはマゲのように後頭部で結うためだ。
別にサムライの血族ではないが、子供の頃、爺様が凛々しいと褒めてくれたからな。気に入ってるんだよ。この髪型。
「一目見て、ピンときたゾ!
実際、相性も良かったしナ!」
「相性て……」
自身の初体験を、酔っぱらった中年男のように語る娘である。
女同士では案外、そういうのを気にしないと聞くが……果たしてその通りなのか、アマゾネスの文化なのか、リタが個人的にそうなのかは判断がつかぬ。
「あー、リタちゃんはしたないよー」
「本っ当! あんたってば……!」
「……っ……」
「えへへ、そういう話って恥ずかしいねー」
他の全員が顔を赤らめてるのを見るに、リタが個人的にそうなだけだな。こりゃ。