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第6話 ヨコハマの街

 想像以上に、ヨコハマの街は栄えている。


 当然少年が知るかつての都市には及ばないが、電気ガス水道が無くとも人々は豊かに暮らしていた。


 夜でも活気づく街は賑やかで、どこもかしこも魚の匂いが漂ったりしているので漁業が盛んなのだろう。


 だが海から離れた場所には広大な田んぼも畑もあり、1000人は余裕を持って養えるほどの生産力は持っていた。


 ただそれが拡げられるギリギリの土地の範囲だ。そこから先は柵があり、さらに向こうにはあの化け物達が嫌う臭いを発する白い花が群生する花畑が街を囲うように広がっている。


 そしてその先は化け物達が跋扈する地獄のエリアで、人々は一歩手前の柵を越えないように心掛けている。


 越える事が許されるのは、ソウジロウ達のような有志の調査隊のみだ。


 ──なら、少年が寄生した肉体の人間はどこからやって来たのか。


 聞けば他にも人里はあるようだが、どうしても往来するためには化け物の巣窟である広大なエリアを通らなければならないらしい。


 あまりにも危険なため、1番最近他の人里へ行き来したのは16年前だそうだ。


 理由は不明だが16年前から化け物との遭遇率が倍以上に上がったため、しばらく行けていないとタケルがため息交じりに話してくれた。


 その問題は今は置いておいていいだろう。この街でこの世界についてどれだけの情報を得られるか、それが今の課題だ。


 様々な考えを立てながら、街に来てから色々案内してくれたアンリと共に少年は街の広場にやってきた。




   ※ ※ ※ ※ ※




「どうした坊主! お前も飲め飲め!!」


「えぇ……」


 1週間ほどの調査から帰ってきた調査隊を労うために、今夜は街を挙げてのどんちゃん騒ぎがあるらしい。


 調査が行われるのは3ヶ月に1度あるか無いかの頻度だが、凄まじい強さを誇る化け物と対峙して生き残る勇者達に人々は感謝している。


 謎の白い花が弱点であること、各個体の行動範囲やパターン、化け物から剥ぎ取った物の活用で生活が豊かになるなど調査隊の功績はとてつもなく大きい。


 特に、ある化け物の目玉は数時間陽の光に当てただけで一晩中灯りをともすため、生産力が飛躍的に上昇した事は有名な話である。


 命の危機が伴うも、憧れられ、感謝される調査隊を少年は格好いいと思った。


「何だぁ? 俺が許すんだからちゃんと飲んでけよ坊主!」


 ソウジロウのこの絡み酒が無ければ、さらに思えただろうか。


 アンリが早々に引き上げたのは、これが分かっていたからだと確信する。


「捕まったら最後れすよ~」


 中々の怪力で肩を組まれているせいで、身動きの取れない少年にタケルは非情な現実を言い放つ。


「窒息しそうなんですが」


「窒息で死ぬんれすか?」


「死にそうなので死ぬと思います」


 彩り溢れる料理、香ばしい魚料理の匂い、どれも美味しそうに見えているが、全く腹が空かない。


 起きたばかりの時は空腹でどうにかなりそうだったのに、街に来た際に1杯水を飲んでから食欲も湧かない。


 体調不良というのではなく、満たされている感覚ですこぶる調子が良い。


「そっか~、れもアメーバマンの膂力なら隊長くらい絞められると思いましたけど」


「出来るイメージは湧かないけど」


「それくらいのイメージなら湧きそうな気もしそうれすけどけど」


「力加減が出来るかどうかって意味なんだけどけどけど」


「けどけどうっせーなお前らぁ!!」




   ※ ※ ※ ※ ※




「はぁ……」


 散々絡んだ挙げ句にプツンと電源が切れたみたいに爆睡し始めたソウジロウは、見張りのユキトによって介抱されて家に運ばれた。


 どんちゃん騒ぎは街中で行われているので、少し静かな場所に行きたい少年は街から離れ、灯りも無い畑の方に向かう。


 するとすぐそばの木の下で、ポツポツと蛍のように浮かぶ光に囲まれて座るアンリを見つけた。


 何とも言えない幻想的な風景に映える彼女にしばらく見とれていると、アンリの方が気付いて少年に手を振る。


「何してるの? お祭りはまだ終わってないけど」


「精神的に疲れてな……アンリは何でここに?」


「うん、帰ってきた日は必ず来てて……ここにね、お父さんとお母さんがいるの」


 どういうことかと一瞬思考したが、アンリのすぐ隣に墓標のようなモノが立てられている事に気付く。


「お父さんもお母さんも調査隊だったんだけど、私が小さい時に死んじゃって……街の皆が育ててくれたから今の私があるって感じかな」


「そう、なんだ……」


 アンリは両親を愛している、それは死んだとしても変わること無く。


 少年はそんなアンリを、羨ましいと思った。


 最後の最期まで激しく憎んだまま殺した自身とは違い、包まれる愛を形が無くなっても知るアンリを。


「俺にも、そんな人間らしい感情があってほしいな」


「きっとあるよ、君は人間らしいから」


 優しさを感じるアンリの笑顔に思わず頬を紅潮させ、すかさず少年は目を逸らして街の方を見る。


 この世界で自分はどうしたいか、そんなことに思い更けながら。

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