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第5話 アメーバマン

 アメーバマン。


 この存在が認知されたのは、世界全体で僅か2件のみと公式に記載されている。


 ある特殊なアメーバが人体に寄生した状態を指し、目に見える特徴として常軌を逸する身体機能の高さと記憶喪失状態である事が挙げられている。


 特殊なアメーバについては人の脳に寄生し乗っ取ることが出来る以外については、生態も何も解明されていない。


 一説には宇宙生物説を唱える者もいるが、それだけ希少かつ情報量が少ないのだ。




「とまあこんな感じです、すいませんたったこれだけで……」


「いや、十分ありがたいです」


 少し俯き、少年は脳内で整理する。


 つまり自殺した自身は、謎の暗黒空間──仮にそこをあの世と呼ぶ──で出会ったシスター姿の少女によって、この世界でアメーバとして転生させられたのだろう。


 だがどれだけアメーバとして過ごしたかは全くの不明である。その時の記憶は一切無く、気が付くと今の姿で倒れていた。


 前世の記憶が残っているのは僥倖、完全に何も分からない場合は精神がおかしくなっていても不思議ではない。


 この体が自分自身ではないからこその俯瞰的に自身を見ていられる違和感があり、アメーバマンだからこその脅威的な身体機能がある。


 とにかく幸運が続いている。致命傷で助かる見込みが無かったとはいえ人間に寄生出来たこと、そしてこの世界をよく知っていそうな人達と出会えた。


 見た目はともかく完全な人外の自身が人間達に受け入れられるかは不明だが、暮らすなら人間の社会がいい。


「どうかしたか?」


「いえ……あの、俺を捕らえて解剖とかしないんですか?」


「してほしいんならやりますけど」


「いやいや、その、俺はいわゆる化け物の類なのかなと……」


 不安げに話すと、ソウジロウは少年の肩に手を置き目を合わせる。


「今の所坊主に敵意が無いのは分かる、意思疎通も図れるし、当然敵対行為をすれぱ遠慮無く斬る……けど何も無いなら何もしない、約束しよう」


「……ありがとうございます」


 ソウジロウの白歯が見える笑顔にひと安心した少年は、ほどなくして彼らと共に彼らが暮らす街に行く事を決めた。




   ※ ※ ※ ※ ※




「ここを下れば街だ、見えるだろ?」


 30分ほど歩き、少年を含めた隊は街を一望出来て海も見える丘の上に辿り着く。


 少年にとっては全く見覚えが無い景色だったが、どこか懐かしさを感じるような穏やかで美しい光景だった。


「昔はここにものすごく大きな都市があったらしいですけど、噂程度の話なので疑わしいですよね、少し森に入れば化け物の巣窟なのに都市なんて造れるはずがないです」


「都市?」


 本当だとしても確かに想像がつかない、こんな緑ばかりの場所にどうすれば都市なんて造れるだろうか。


 街一帯は化け物の嫌いな香を放つ植物が大量に植えられているため、被害は年に1度あるかないか程しか起きないそうだ。


 他の人里もあるらしいが、1番近くても徒歩で半日以上はかかるというかなり遠い位置にあるため、蒸気を駆使する技術でも無い限り成長も難しいはずだ。


 江戸時代でもこの世界以上に発展していたが、あんな化け物がウジャウジャいるなら文明の発達は非常に厳しいかもしれない。


「でもいつか豊かになれますようにって、その都市の名前を街の名前にしたんでしょ?」


「そりゃ信じてないの僕だけですから」


「その名前はなんていうんですか?」


「どういう意味かは分からないけど、名前は──






 ──ヨコハマ、っていうの」






 聞き慣れた言葉に、今生で最も驚く。


 ヨコハマ……それはかつて前世の少年が生きていた世界、暮らしていた国で最も栄えていた都市の1つの名だ。


 何故、何故、何故、何故、何故。


 これなら何も知らない言葉の方がまだマシだ、今ほどは思考が追い着かなくなる事は無いだろう。


 日本語ほど特殊な言語、それもヨコハマという言葉が被る奇跡的な異世界という可能性も無くは無いが、限りなくゼロに違いない。


「へぇ……ちなみに昔ってどのくらい前?」


「何十年も前に発掘された石碑には西暦2027年って記されてありましたから、今から1502年前です」


「1500年も昔の世界なんて想像できないなぁ、都市があったという事はまだこの辺りには化け物がいなかったのか?」


「でしょうね、それすら想像できないですが」


 西暦2027年、少年が自殺した7年後の未来。


 記録媒体が石碑というのは考えにくいが、2027年と記されてある何らかの記念碑でも建立されたのだろうか。


 そして今は西暦3529年──ほぼほぼ確定といって差し支えない。


 この荒れ果てた自然溢れる世界は、未来の日本であると。




   ※ ※ ※ ※ ※




「さ~てと、ここからがお楽しみかな~♪」


 困惑する少年や隊の皆の上空から覗いた映像を特殊な鏡に映し、ゆで卵を貪りながら眺めるシスター姿の少女は1人静かに微笑んだ。

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