お兄様は人気画家
仕立て屋に向かう馬車の中で、カラバスお兄様がスケッチブックを広げて絵を描き始めた。横で見ていると、どうやらドレスのデザイン画だ。さらさらとすごいスピードで、何枚も描いていく。画家だけあって、とても上手だ。
「お兄様、すごいですね」
「そう?ありがとう。夫人にデザインしてもらうのもいいけど、時間が惜しいし、このほうがイメージがちゃんと伝わるからね。ドレスの色は目と髪の色に合わせるんだけど…」
「目と髪の色をよく見せて」とお兄様が私の顔を両手で挟み、自分の方を向かせて、正面から私の顔を見つめる。男の人にまじまじと見つめられたことがないので、急に気恥ずかしくなってしまった。お兄様も察してくれたのか「ごめんね、やっぱり色は実際に布地を当てて決めよう」と言って、手を離した。
仕立て屋に着くと、馬車から降りる時も店に入るときも、お兄様が手を添えてエスコートしてくれる。さっきの顔挟みが頭にちらついて、なんだか意識してしまう。
店ではふくよかな中年女性が満面の笑みで迎えてくれた。お兄様が「王都で一番」と太鼓判を押した、エトワ夫人だ。
「カラバス様、いらっしゃいませ。この方が昨日お知らせくださった妹のデイジー様ですのね?可愛らしいお嬢様ですこと!まぁ、デザイン画を持ってきてくださったの?あら、どれも素敵ですわ。ええ、ええ、きっとデイジー様によくお似合いになりますわ!ええ、ええ、ではすぐに布地をお持ちします!」
お兄様とエトワ夫人がとっかえひっかえ布地を私の体に当てては、これはいい、あれはだめと選り分けていく。私が意見を言える隙はなく、二人で全て決めてしまった。もはや何着ドレスを注文したのかすら不明。
「じゃあエトワ夫人、ホークボロー伯爵家宛に請求書を送ってね」
「かしこまりました。ねぇカラバス様、いつか私もカラバス様に肖像画を描いていただきたいわー!なかなか予約の枠があかずに、ずっと待ってますのよ」
「お兄様の絵、人気あるんですね」と呟くと、夫人が満面の笑みで説明してくれた。
「デイジーお嬢様は王都に来られたばかりだからご存知ありませんのね。カラバス様に肖像画を描いてもらうと、良い縁談が決まるというジンクスもあって、若いご令嬢の間で大人気ですのよ」
「私にはもう縁談は必要ありませんが、店に肖像画を飾ればきっと商売繁盛間違いなしですわ」と夫人はまくしたてている。
お兄様はまだ若いのにすごいなぁ。ただニコニコしてるチャラいイケメンだと思っていて申し訳なかったです。