怪盗ルナ
目を覚ますと、師匠と弟子は私の部屋に帰ってきていて、バスケットで寝息を立てていた。ちなみに「我々は夫婦でも親子でもないのだから」と、バスケットは別々だ。枕を固くしろだのパイル生地は嫌だガーゼにしろだの、それぞれの好みに合わせてベッドメイクしてある。それにしても、寝ている姿は赤ちゃんそのものなので、朝から癒される。
さて、ホークボロー伯爵家では、8時からダイニングで朝食が始まる。
お父様が「とりあえず用で」とクローゼットに用意してくださっていたドレスの中からジヴァに1着選んでもらい、髪もメイクも最近王都で流行だというものにしてもらうと、地味な自分が少しは伯爵令嬢らしく変身したみたいに感じた。ジヴァも「お嬢様は肌がお綺麗なので、口紅の色が映えますわ」と満足げだ。褒められてウキウキしながら1階に降りた。
8時になってもアレン様が現れないが、そのまま食事が始まった。
「アレン様はどうされたのですか?」
「ああ、兄上は部下が事件だと呼びにきて、先に食べて仕事に行っちゃったんだよ」
「朝早くから大変ですね」
「ほんと、最近忙しそうだよ。王都で泥棒騒ぎが続いてて、その件なんだけどね」
聞くと、最近王都で「怪盗ルナ」と呼ばれる泥棒が頻繁に盗みを働いているそうだ。もう何件も被害が出ているが、証拠を残さない犯人で、目撃証言もなく、アレン様たち王都治安部隊も犯人探しに苦戦しているらしい。
「デイジーも、部屋の戸締りはしっかりしてね」と母に言われて頷く。
「そんなことより、デイジー今日は楽しみだね!王都で一番腕のいいエトワ夫人の店を予約しているからね!大丈夫いい人だよ安心して。あ、父上から軍資金いっぱいもらったから、アクセサリーもメイク用品も買おう!時間足りるかな?じっくり見たいのはやまやまだけど、巻きで行かなきゃだね。好きな色とかテイストとかあったら教えて?いや、敢えてここはデイジーには何も聞かず、僕が全部決めるっていうのはどうかな?自分で決めるとさ、いつも同じような感じになっちゃうもんじゃない?僕が思うに、デイジーって華やかっていうよりかは清楚な感じで攻めた方が似合いそうなんだよね。ちょっと今の流行とは違うんだけど、敢えてのシンプルで逆に私が流行を作ってやるわよ的な…」
あまりに楽しそうに話し続けるカラバスお兄様に、私は「全てお任せします」というしかなかった。