掠奪
カラバスお兄様と二人、帰りの馬車に揺られている。お兄様はずっと無言で窓の外を眺めている。その横顔を見ながら、やっぱりキラキラしてるな…と思ったとき、お兄様が外を見ながら「デイジーさ…」と話し始めた。
「心に決めた人はアレン兄上だって言おうとしたよね?あれ本気?」
「…はい」
ステラリリー様とアレンお兄様が並んでいるのを見たとき、気づいてしまったのだ。自分がアレンお兄様の側にいたい、他の誰にも譲れないと。
カラバスお兄様は「そっかぁ…僕失敗したかなぁ」とため息まじりで呟き、「兄上たちに宣戦布告したのはね、兄上たちの気持ち知ってて抜け駆けするのが嫌だったからなんだ。僕こう見えて、正々堂々勝負する主義だから」と続ける。
「勝てると思ったんだけどなぁ。こんなことなら、主義を曲げてでも抜け駆けすれば良かったよ」
「お兄様…あの…私はお兄様のおかげで…」
するとお兄様はこちらを向いて、私の唇に人差し指を当てた。
「アレン兄上がデイジーにちゃんとプロポーズして、デイジーが答えるまで、僕は諦めないよ。だから今はまだ振られてあげない」
ガゴン!
「きゃっ」
「なんだ!?」
大きな音がして突然馬車が跳ねて、止まった。その途端、ドアが開いて大きな男たちが馬車に乗り込み、お兄様を殴り、私を羽交い締めにした。不意を突かれたお兄様にはなす術がない。
「お兄様!カラバスお兄様!あなたたち何するの!?」
「おい女解魔師、怪我したくなかったら暴れるな」
「早く女を毛布で包め、連れ出すぞ!」
「こいつ解魔以外の魔法は使えないポンコツだって本当だよな?」
「びびってんじゃねえ早くやれ!大金かかってんだぞ!」
倒れて呻いているカラバスお兄様を馬車に残し、私は毛布に包まれて、ならず者たちの馬車に乗せられそうになる。その時、毛布にできた隙間から、道路を走ってくる一台の馬車がチラリと見えた…あれはオウルシャム伯爵家の…じゃあ中にはアレンお兄様とステラリリー様がいるはず!
お願い気づいて、お願い、お願い!
「早く出せ!」と男が叫び、私が乗せられた馬車が猛スピードで走り出した。
「できなくても生活に支障はない」なんて思わずに、もっと真剣に攻撃魔法とか防御魔法を身につけておけば良かった…こんなに過去の自分を恨んだことはない。カラバスお兄様を守れたかもしれないのに。お兄様は大丈夫だろうか?もしお兄様に何かあったら…後悔と恐怖と心配で頭がおかしくなりそうだ。
しばらくして冷静になると、王都の舗装された道路を出たらしいことが、感触でわかる。またしばらくして、さらに馬車の揺れが大きくなる。曲がりくねった坂道…どうやら王都の北にある山間部を走る山道のようだ。
人目につかないように山道を抜けて王都圏を抜けるのか。でも馬車で山を越えるなんて無謀じゃない?どこかで馬に乗り換えるのか…
そう思った瞬間、馬のいななきと男たちの悲鳴が聞こえ、私が乗った馬車は、転がりながら落ちていった。




