両親はバカップル
三兄弟に引き合わされた後は、使用人を紹介される。ひとつのお屋敷の中に、執事、メイド、料理人など、さまざまな職種の人が働いていて、びっくりしてしまう。
私には、ジヴァというメイドがついてくれることになった。黒髪黒目の美人で、歳は18歳ということだから、私より2つ年上だ。
「ジヴァさん、よろしくお願いします」と挨拶すると、「お嬢様、さん付けも敬語もおやめください」と笑われた。「ごめんなさい、私、貴族としての振る舞いとか全然わからなくて…」と言うと、横から伯爵様がフォローしてくれた。
「わからなくて当然だよ、デイジー。少しずつ覚えていけばいいことだ。それに、私も平民出身だから、この屋敷にはアイリスやデイジーを平民出身だからといって馬鹿にするものはひとりもいないから安心して」
「ありがとうございます、伯爵様」
「いいんだよ。よかったらお父様と呼んでほしいな」
「はい、お父様」
そう、お父様は平民出身の入り婿なのだ。入り婿が爵位を継げるようになった今でも、まあ珍しい。貿易商として若くして莫大な富を築き、ホークボロー伯爵家の一人娘と結婚したと母から聞いている。その奥様がもうずっと昔に亡くなってからは、長く独身を貫いてきたそうだ。
メイド頭のジェニンが、母に向かって「ずっと女主人が不在でしたので、奥様が来てくださって嬉しいです」と挨拶している。ほんと、みんな快く迎えてくれてよかった…
と、「あ、そのことなんだけどジェニン」とお父様。
「何でございましょう、旦那様」
「アイリスと僕は、半年後くらいにはパルバラの屋敷に引っ込もうと思ってるんだよね」
なななななんですと?
ジェニンはおろか三兄弟も初耳だったようで、アレン様は硬直し、カラバスお兄様はにやにやしている。イーライ様は平常運転の無表情だ。
「これまでもパルバラには領地管理のために2ヶ月に1回くらい帰ってたじゃない?結構頻繁だから疲れちゃって。デイジーもこっちに来てくれたことだし、これを機に僕らはパルバラを拠点にして、王都のホークボロー邸はデイジーに女主人役をやってもらおうかなって」
お父様の王宮での仕事をどうするのかとか、私に女主人が務まるのかという、もっともすぎるアレン様の質問…というか詰問にも、お父様は余裕しゃくしゃくだ。
「今の僕の王宮での仕事って、ほぼほぼパルバラでもできるんだよ。あ、もちろんどうしても王宮内でやんなきゃってときにはこっちに帰ってくるけどね。それに、今すぐって話じゃなくて半年だからさ。半年もあれば、アレンやジェニン達がデイジーを仕込んで一人前の女主人にするのに充分じゃない?」
アレン様はまだ何か言いたそうだったし、私も一言言いたくて母をジト目で睨んだが、「ようやく幸せを掴んだんだから、二人きりで思う存分イチャイチャさせてあげようよ。それが親孝行ってもんだよー」というカラバスお兄様の明るい声で、何となくその場が収まってしまった。