捻れ
師匠と弟子にお尻を叩かれたところで、即何かを決めることなどできず、とにかく毎日できるだけ忙しく過ごし続けている。
そのため、誘われたお茶会はほとんど来るもの拒まずで参加だ。幸い、怪盗ルナやファリカステ様の事件のおかげで、私の武勇伝が社交界中に広まっていて、お誘いは引きもきらない。
今日はサイネリアンナ様主催のお茶会。このところ、話題は王太子殿下とアスターベル様との婚約内定のことばかり。私たちのような年齢になれば、貴族令嬢はどんどん婚約していく。今日の出席者の中で婚約者がいない独り者は、ステラリリー様と私だけだ。
「ステラリリー様は、どなたか気になる男性がいらっしゃるの?」とサイネリアンナ様が聞くと、ステラリリー様はチラリと私を見て「答えにくいのですけど…実はアレン様をお慕いしていますの」と答えた。
えええ!?ステラリリー様ったらそうだったの!?エスコート頼んでたし、カラバスお兄様狙いかと思ってたのに。
「美しいステラリリー様に想われているなんて、兄は幸せ者ですわ。私にお手伝いできることがあれば、何なりとおっしゃってくださいませね」
「ではお言葉に甘えて…王太子殿下とアスターベル様の婚約披露パーティーのことなのですけれど」
「ええ」
「アレン様はいつもデイジー様をエスコートしていらっしゃるけれど、今度は私をエスコートしていただけるようにお力添えいただけないかしら」
「もちろんですわ」
「ステラリリー様ったら大胆ね」というサイネリアンナ様たちの冷やかしに赤くなったステラリリー様は、羨ましいほど可愛かった。「この人を好きだ」って堂々言えるって、何だか眩しい…それに比べて私は…
ホークボロー伯爵邸に帰り着くと、玄関ホールにアレンお兄様がいらした。早速先ほどの話をしないと。
「お兄様、ただいま戻りました。少しお話ししたいのですが」
「デイジー、待っていたんだ。話しがある」
二人の声がかぶってしまい、お兄様に譲る。と。
「王太子殿下の婚約披露パーティーに、私と一緒に出てほしい」
「そ、それは…」
するべき話は同じなのに、先に申し込まれてしまうととても話しにくい。しかし言わなければ。ステラリリー様を応援するって約束したんだから。
「お兄様、お申し出ありがとうございます。でも、申し訳ございません。今回はカラバスお兄様にエスコートをお願いしたいと思っております。実はステラリリー様がアレンお兄様とご参加を、と希望されておりまして…」
そこまで言ったところで、通りかかったカラバスお兄様が私に抱きつき、頬にキスしてきた。今日も容赦ないスキンシップだ。
「デイジー、今のほんと?嬉しいなぁ、デイジーをエスコートするの初めてじゃない?兄上、今回は譲ってくださいね!デイジー、早速ドレスの相談をしよう。新しく仕立てるでしょ?ドレスコードは青だよね。デイジーにはどんな青が似合うかなぁ。あ、ドレスは僕がプレゼントするからね!」
カラバスお兄様に腰を抱かれながらリビングへ向かう途中でチラリと振り返ると、寂しそうなアレンお兄様の目…エスコートを断っただけなのに、意外なほど大きな罪悪感が頭をもたげた。