大人モード
初めて王宮で開かれるパーティーに参加する日がやっていた。建国記念日関連行事のひとつとして開かれる、アフターパーティーだ。
今回もカラバスお兄様がデザインしてくださったシャンパンゴールドのドレスを着る。個性的な長袖ワンショルダーとエンパイアラインのデザイン。片腕の袖は透け感のあるラメが織り込まれた素材だ。
「セクシーで大人っぽすぎる」とずっと着ずにいたのだが、「王宮では珍しく、冒険したドレスも許されるパーティーだから、是非これを」とデザイナーご本人が希望したのだから仕方ない。建国記念日の正式な式典は既に終わっていて、その後夜祭的な位置付けのパーティーなので、ややくだけたドレスも許されるらしい。そのあたりの匙加減は、やはり生粋の貴族でないとわからない。
髪の毛もドレスに合わせて低めの位置でまとめて大人っぽくセットしてもらい、メイクもいつもより濃いめ。ネックレスはつけず、大振りのイヤリングとヘアアクセサリーのみだが、十分華やかだ。
支度が出来上がった私を見て、靴屋での仕事を再開してここのところお疲れ気味の師匠と弟子が目を丸くする。
「デイジー、今日はいつもと全然雰囲気が違っているね」
「師匠、どう?変じゃないかな?」
「とてもいいと思うよ。男性陣が我先にと君にダンスを申し込む姿が目に浮かぶよ」
「弟子はどう思う?」
「めっちゃええやん!可愛らしいのもいいけど、そういうのも似合うんやなデイジー!一皮むけた感じやわ」
いつも正直な二人に褒められて、大人っぽすぎるドレスへの抵抗が薄れていく。ジヴァも「ヘアメイクに私の全てを出し切りました。とてもお似合いで素敵です」と満足げだ。
と、ドアがノックされた。
「デイジー、見ていい?」
「カラバスお兄様、どうぞ」
私の姿を見て、カラバスお兄様は何故か少し照れているようだ。しばらくまじまじと私を見つめた後に、言葉少なに「きれいだよ」といってくれる。私も、いつも無造作に流されている長めの金髪を、きちんとセットしているお兄様に少しドキッとする。
「お兄様も、その髪型がとてもお似合いで素敵です」
「ありがとう。今日は高貴な方のエスコートだからこの髪型で…あ、もう時間ないから、またあとで会場でね」
カラバスお兄様は今日はファリカステ様をエスコートするのかな?と思いながら、私はアレンお兄様が待つホールへ降りた。
「アレンお兄様、お待たせいたしました」
「あ、ああ…今日はまた雰囲気が違うんだな」
「はい、カラバスお兄様たっての希望で…私には大人っぽいかとも思ったのですが…似合っていないでしょうか?」
「いや、似合っている。自信を持っていい」
「ありがとうございます」
短いけれど断定的な答えに嬉しくなって、私は笑顔でアレンお兄様の腕に手を回した。