こびとの二人
「二人が見えるんですかっ!?」
私と母は同時に叫んでいた。私と母以外に、"二人"が見える人はいなかったのに…
「見える。小さな人が…寝ているようだが…」
そう。彼らはこびとだ。大きさは人の手くらい。
父が亡くなり、母が店を継いだ当初はなかなか靴作りがうまくいかなかった。母が作った靴が売れなくて、店をたたもうかと相談し始めた頃、彼らが現れた。夜な夜な、母の代わりに、それは見事な靴を作ってくれたのだ。実は伯爵様の靴を作ったのも彼らだ。
「金髪巻き毛の天使のような赤ちゃん」という例えがしっくりくる見た目だが、年齢は650歳と290歳らしい。650歳のほうが男性で靴作りの師匠、290歳の方は女性で弟子だ。頑なに名前を教えてくれないので、そのまま「師匠」と「弟子」と呼んでいる。夜行性で、昼間は私の肩かお気に入りのバスケットの中で寝ている。
そう説明するとイーライ様は頷いて納得したようだったけど、他の三人はポカーンとしていた。見えないのだから、当然だろう。
「なぜ僕たちには見えないんだろう?」と伯爵様。
魔力がある人にしか見えないのでしょうね、というイーライ様の言葉に、私と母は顔を見合わせた。
「私たち、魔力なんてありませんよ?」
イーライ様によると、魔法が使えなくても、魔力を持っている人間が一定数いるそうだ。私も母も魔力はあるが「魔力をアウトプットする経路が開通していない」状態らしい。何かのきっかけで魔法が使えるようになるかもしれないが、一生使えないままの人がほとんどだと教えてくれた。
「いいないいなー!俺も見てみたーい!ねぇねぇ、こびとって可愛いの?」とただでさえキラキラした瞳をさらにキラキラさせてカラバスお兄様が聞くので、どう答えようか迷いながら、とりあえず「見た目は可愛いです」と答える。
すると、肩で寝ていた弟子がムクリと起き上がり、「見た目"は"っていう言い方には、含みを感じるわぁ〜」と眠そうな声を出した。
「ふぅ〜ん、ここが新しい家なん?今までの家の何倍っていうくらい広いなぁ。料理も豪華なんが出そう」
「これまでは、控えめに言って"質素"だったからねぇ」
師匠も起きた。粗食ですいませんでしたねぇ。そう、この二人は見た目は可愛いが口が達者で、たまに毒舌なのだ。
二人の会話を聞いてイーライ様が驚いて「人間の食べ物を食べるのか?」と割り込んだ。
「正直食べへんでもいけるけど、人間の食べ物って、たまにめっちゃ美味しいやつあるやん。アイリスがたっま〜にくれる、あんことか。そういうのに当たるんが楽しみで食べてんねん」と弟子が答える。
食べなくても良かったんかい!粗食とはいえ二人のために食費をかけてきたのに…わなわなする母と私の横で、「では二人の分も用意するよう厨房に伝えよう」とイーライ様。二人は「話のわかる人がいてよかった」と嬉しそうに笑った。