褒め方
「あーん、毎日くったくた…」と呻きながらベッドにダイブすると、ジヴァが「デイジーお嬢様は毎日素晴らしい努力をされています」と褒めてくれた。伯爵令嬢らしく振る舞うための訓練はラストスパートにかかっていて、自分でもしとやかな振る舞いが身についてきたと思う。だからベッドにダイブするくらいは許してほしい。
自分でやってみてわかったけど、貴族令嬢は体力勝負だ。ヘナヘナでヒョロヒョロの女の子たちだと思っていたけど、背筋が伸びた良い姿勢を保つだけでも、実は辛い。世の中のご令嬢方、ほんと尊敬する…
カラバスお兄様は約束通り、休みのたびにダンスの練習相手になっては、「デイジー、ほんとダンス上手いね!」「少しくらいステップ間違えたっていいんだよ、まずは楽しまなきゃ」と励ましてくれる。
カラバスお兄様にリードされると、びっくりするくらい体がふんわり軽く、跳ねるように動く。お兄様が上手だから私もつられて上手に踊れるのだと思うが、褒められて悪い気はしない。
ちなみに、カラバスお兄様たっての希望で、月2回美容室でのヘアトリートメントも欠かしていない。市販品を買ってきて家でやればいいのでは?と思ったが、「サロントリートメントはやっぱり違うんだって!」と一蹴された。
アレンお兄様も言葉通り、仕事が休みのたびに特訓の成果を確認しにくる。「ここはいい、ここはダメ」といつも的確だ。厳しくされるだけかと思っていたら、できたところはちゃんと褒めてくれるのでやる気が出る。お兄様、きっと職場でも部下を伸ばすいい上司なんじゃないかな?
今日はそのアレンお兄様にダンスを披露した。しかも、いつもダンスの相手役を務めてくれるレオニが「せっかくですから、アレン様がデイジー様のパートナーをなさって、上達を確かめてみては?」と提案して、お兄様と踊ることになったのだ。
曲がかかると「何故こんな難しい曲にするんだ」とアレンお兄様は渋い顔。レオニが「デイジーお嬢様が随分上達されて、今練習しているのが、ちょうどこの曲ですので」と澄まして答えると、お兄様はやれやれと首を振って、私の体を引き寄せて構えた。軍人らしい力強い腕に支えられて体が密着し、今思い出しても赤面してしまうくらいにドキッとしてしまった。
カラバスお兄様とタイプは違うが、アレンお兄様もダンスが上手なのだと思う。飛び跳ねるような軽さはないが、確実にステップを踏んでしっかり女性を支えてくれるので、安心して体を委ねられる。踊り終えると「上々だな」と言ってくれた。ジェニンは「アレン様が表情を緩めておいででしたよ!」と何故かかなり興奮していた。
もう習慣になってしまったが、寝る前にジヴァにバッキバキの体をマッサージをしてもらっていると、出掛ける準備をしていた師匠と弟子と目が合った。まだリサーチを続けているらしい。
「さすがにリサーチ長すぎじゃない?そろそろどの靴屋にするか決めたら?」
「デイジー、リサーチに時間をかけて損をすることはない。なぜならだね…」
あ、これ師匠の話長くなるやつ。
「師匠、そうは言うてもそろそろ決めなあかんのですから、急いで行きましょう」と弟子がナイスアシストしてくれる。弟子は伯爵家のカロリー高めの料理が美味しくて食べ過ぎているのか、ここ最近丸みに拍車がかかってきた。「気をつけてね」と窓から出ていく二人を見送る。
見えないものと会話する私にも、ジヴァはすっかり慣れっこだ。「デイジーお嬢様は、こびとと本当に仲がよろしいですね」とニッコリしている。
「そうだなぁ…恩人でもあるし…もう長く一緒に暮らしているから、家族みたいな感じかな」
「私も一度でいいから、二人を見てみたいです。デイジーお嬢様のそばに長くいたら、見られるようになるかしら」
「どうだろう?見られるといいね。二人もジヴァのこと好きみたいだから、話せたらきっと喜ぶよ」